小説『学園のディサイダー』
作者:笛井針斗()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

「やぁおはよう。今日の焼き鮭は非常にベストバランスな塩加減でとてもおいしいよ?」
暢気な様子で委員長は焼き鮭とご飯を頬張る。
朝飯を吟味する委員長の微笑みはいつもに増して、幸せそうだ。
「……なんで貴方がここにいるんですか?」
「日本人の朝はご飯だと思ったからだね」
「質問に答えてください」
「ま、ここは第二の故郷だからだよ」
「家に委員長が来たのは今日が初めてじゃないですか……」
いろいろ他にも聞くこと、というか突っ込むことはあったが、結局ふざけた返答が帰ってきて朝からテンションを削ぎおとされかねないと予想。これ以上の追求については踏み留まった。それからは、みんなを元気にする委員長の明るい存在が、寧ろ逆効果となりいたみの機嫌が時を刻むごとに険悪なものへとなっていった。
しばしの沈黙が続いて三人が食卓を終える。
「すっごくおいしかったです!また食べに来ます!」
「もう来んでもええわ」
「で、今日の放課後なんだけど」
「相変わらず委員長は話の切り替えの速さが音速を裕に越えてますね」
「まぁね」
「どや顔しないでください。誉めてません」
いたみだけでは終わらず、キセすらも委員長の面倒くささに落胆した。
そんな二人などお構い無しに委員長はわざとらしい咳き込みをして本題を告げる。
「とりあえず放課後暇だったら、風紀委員長室に来てください。てか、暇じゃなくても来てください。お葬式でも無い限り来てください。いいですね?」
『はーい』
「やる気のないお返事良くできました。それではアデュー」
『アデュー』
やる気のない見送りをまったく気に止めた様子のない委員長は颯爽と居間を退出した。
そしてキセは憂鬱さを要り混ぜた安堵にも似た溜め息をつく。
「なんだお前?私だって溜め息をつきたい気分だよ。それより厄介が去ったんだ寧ろ喜ぶべきだろ?」
「確かに厄介は去った。だが、問題を全て解決したわけではないんだ」
「まだ問題があるのか?」
キセの言う問題の見当がつかないでいるいたみは首を傾げて疑問を投げかける。するとキセはパジャマの襟元を掴んで小さく呟く。
「俺んちがどこだかわかるか?」
「確か隣町とか言っていたな」
「あぁそうだ。そしていたみんちから俺んちまでの交通手段はなんだ?」
「歩きはきついしチャリはない。電車とバスと。あと車で迎えに来てもらう」
「今俺はパジャマだ。で、制服は家だ」
「とりにいかなかゃだね」
「そして何故かパジャマのポケットには、財布や携帯の代わりに電車の定期があるんだ。これは何を意味しているかなわかるかな?」
「パジャマで電車に乗るお馬鹿さんが誕生する」
「うわぁあああああああん!」
委員長とは対象的に、悲しみを爆発させてキセは家を飛び出した。

-8-
Copyright ©笛井針斗 All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える