少年たちが今は、敵なのか味方なのか解らない状況でどう対処を取って良いのか解らない桃と葡萄はただ目の前の敵を睨むしかできなかった。
「今ここで争うのも馬鹿な事だと解っていますよね?」
苺が尋ねる。やはり苺もどう対処を取るか解らなかったらしく念のためにブラックドラゴンに確認を取る。
緑の髪の少年は、微笑んだまま頷くのを確認すると苺は森羅の方に身体ごと向き直る。桃も葡萄も向き直る。
ブラックドラゴンは、始めから苺たちを見るだけの様で近く石などに座っている。
「観客も増えた所で、力試しといきますか?」
森羅が戦う体勢に切り替えるのを見ても体勢を変えない苺たちを見てブラックドラゴンと森羅が眉を寄せる。
「僕を馬鹿にしているんですか?」
森羅が唸る。
「はぁ〜間に合った〜」
突如、苺たちの後ろから元気の良い声がするのを聞いてブラックドラゴンと森羅は声の主の方を見る。
そこには、茶髪の髪に同色の熊の耳と尻尾がある少女。 熊田 リンは、息を整えながら苺たちに近づく。
苺が微笑む。
「これで、ブラックアゲハメンバーが揃いました・・・あなたに夜の幸福を・・・」
苺が静かに微笑みながら言う。
「リン!思いっきり暴れて良いよ」
苺からの許可を聞いたリンは、森羅に向かって走り出し腹部を狙って拳を入れる。
油断している森羅は反応が遅れて、腹部に衝撃を受けた直後足を取られ頭から転倒する。
その隙に逃げられないように頭部を地面に押し付ける。
だが、森羅が暴れる事が無いのを不審に思いリンが苺の方を見ると苺の後ろに刀で斬り掛かろうすると森羅の姿があった。
苺に「危ない!」と言おうとする前に森羅は、苺に襲い掛かる。リンは見ていられなくて目を閉じてしまった。
「さすがにやりますね。」
「なにが言いたい。」
「いえ、何も。それでは今回はここらへんで失礼します。」
森羅と苺の会話が聞こえて来て、安全なのは解ったのにリンはどうしても目を開けられなかった。本能がそれを許さなかった。リンは本能に従い目を閉じたまま本能が許すまでその場に立ちつくしていた。
「リン帰ろう。」
苺の声が聞こえ、恐る恐る目を開くと苺たちが笑っていた。
リンは安心して頷くと周りを見回し、誰もいないことを確認して先に歩き出している苺たちを追いかけた。
「ねぇ、あの中に田口 龍は居たの?」
リンの問いは当然のものだった。
苺は、頷く。
リンはそのまま家に帰り、苺たちも帰途につく。
「どうするの?リンはもう辞めさせた方が良いんじゃない?」
「大丈夫。知ったら、リンから辞めるって言い出すでしょ。」
「でも、それでいいの?話したら納得してくれるかもしれないし・・・。」
「納得してもらえなかったらどうするの?」
帰り道の途中で、桃が苺に話しかけた内容は葡萄には解らない話で眉間を寄せる。
第五章 過去
パリーン
ガラスが割れる音。
「止めなさい!猫山!」
先生の怒声が耳元で聞こえる。
「止める?無理な話だね。喧嘩を売って来たのは相手だし。」
足の下で血だらけの身体をぐったりさせている男子を見下ろしながら言い捨てる。
「先生!黒魔さん呼んで来ます!」
「頼む!」
血だらけの男子と一緒にいた女子生徒が走り出す。
桃はすぐに来た。
「苺!何してるの!?」
「喧嘩。」
足を退け桃の前に立つ。
「なんで喧嘩したの?」
「相手が挑発してきた。」
「どんな挑発?先生に説明して。」
桃は先生に指を指して指示する。苺は赤い眼を訝しげに細め先生を睨む。
「おい、黒魔の犬!可哀想な可哀想な猫山。つか、名前に猫ってついているのに犬っておかしいな?って言われた。」
苺が簡潔に説明する。
「あっ。そういえば、お前も一緒に笑ってたな?」
桃の横にいた、倒れている男子と一緒にいた女子に視線を向ける。
女子生徒は身体を震わせ桃の肩にしがみ付く。
「たす・・け・・て・・・」
女子生徒は掠れた声で桃に助けを求める。
「ごめん。もう苺は誰にも止められない。」
桃は微苦笑して自分の肩から女子生徒の手を退ける。
「みんな逃げた方がいいよ?」
振り返り野次馬達に忠告する。桃の表情は口は微笑んでいても目は微笑んでいなかった。
苺の赤い眼は鋭くなり潰していく順番を決めるかの様に野次馬たちを見る。
「桃も参加する?沢山居るから少しあげるよ?」
「いい。私は、校長に話して警察をどうにかして貰ってくる。」
「あぁ、よろしく。」
「そっちもよろしく。」
桃は校長室に足を向ける。
悲鳴が小学六年生の廊下に響いた。
重症者10人、軽症者27人を出した騒ぎが起きた。
「どうするの?苺はもうここに居る気がないんでしょ?」
「解っているね。月星町に戻ろうと思ってる。」
「へぇ、私も一緒に行く。どうせ、月星に住んでいたし。」
「そうだったんだ。あっ!私、月星で人助けのチーム作ろうと思っているんだ。だから、もう喧嘩しない。」
「苺が人助け?そんな馬鹿な話もあるもんだね。」
帰り道、笑いながら2人は赤い空を見上げて話した。
「って、訳。だから、葡萄が知らないで当然。私たち隣町の荒野町の荒野学園にいたんだもん。」
葡萄は納得して明後日の方を見る。
そういやあ私も荒野に居たな・・・。葡萄は思う。
「ねぇ、葡萄も荒野学園にいたよ?」
プレアが唐突に言う。
苺と桃は目が丸くなる。
「えっ!一緒の学校?だって知らなかったよ!」
2人の息はぴったり。
「そうだろうね。」
葡萄は明後日の方を見たまま、どうでもよさそうに言う。
「いや!教えてよ!」
「別にいいけど・・・」
葡萄は視線を落として面倒臭そうに話だす。
「と、鳥真さん」
女子生徒が話し掛けて来た。
葡萄は、少女を睨み関わるな!ってオーラを出している。
少女は、少しうろたえながらも勇気を振り絞って口を開く。
それを教室中の生徒が注目している。
「あの、いつも不機嫌そうにしているのは良いけど周りの人が怖がっているから止めて欲しいんだ・・・両親なくして可哀想なのは・・・っ!」
葡萄は少女の喉を掴む。
少女を見る葡萄は殺気立っていた。
「なにが可哀想だ!お前らに何が解る!死ね!」
少女の喉を掴んだ手に力が入る。
野次馬が集まり悲鳴を上げる。
「何やってるんだ!」
先生の怒鳴り声が教室の前方から聞こえる。
葡萄は少女から手を離し教室の隅にある自分の席に座る。
葡萄は何も無かった様に本を読み始める。
「鳥真。職員室に来なさい。」
気絶した少女を女の先生に任せて、担任の先生が呼ぶ。
葡萄は職員室に行く。
「失礼します。」
先生の後から職員室に入る。職員室には2・3人の職員しか居なかった。
「鳥真、ここに座れ。」
先生は革張りのソファに座る様に指示する。
葡萄は黙って座る。
「鳥真。お前も色々辛かっただろうな。」
「何が解るんですか。」
先生は葡萄を見ているが、葡萄は俯いて不機嫌にしている。
「だけどな、両親が亡くなってもう3年だぞ?そろそろ立ち直ってもいいんじゃないか。」
「そんな、簡単じゃ無いんですよ。」
「校長がお前のために、故郷の月星にある月星学園に転入手続きをして下さったんだ。よかったな。あっちでやり直せ。」
「お話は済んだ様なので失礼します。明日から月星に行きますので、安心して下さい。」
葡萄は、立ち上がり職員室を出る。
葡萄の後ろから、先生の喜びの声が聞こえた。
「へぇー。そんなことがあったんだ。知らなかった。」
「だって、苺みたいに大胆にやってないもん。荒野で苺が怪我させたのは、106人だもんね。」
葡萄は微笑む。
「何で知っているの!」
「私もまさかあの女の子が、苺とは思わなかった。確か苺、髪が長かったでしょ?」
苺は何度も縦に首を振る。
葡萄は笑う。それを見た苺と桃も笑う。
「リンはどんな反応をするんだろね。なんかリンに悪いね・・・」
「そうだね・・・」
微苦笑する。
「なぁ、なんでお前等はこんなことを出来るんだ?」
パストが急に話しに割り込んで来た。“こんなこと”とは森羅との戦いのことだろう。
苺はパストを見て少し悲しげに言う。
「だって私には、力しかないから。」
「・・・・・」
パストは黙りこんでしまった。
「あっ、苺。腕見せて。」
桃が少し怒り気味に言う。
苺は渋々右腕を出す。
桃が制服の袖をこれでもかってほど上げると、肩の付け根ぐらいから血が垂れてくる。
「苺・・・」
葡萄がしかめっ面でボソッと呟く。
「大丈夫だよ。深手は免れたし・・・」
「本当に馬鹿よね。一応、手当てしとかないとね。後、ワイシャツを余分に買わないと・・・」
桃がため息混じりに言う。
「別にいいよ。大げさだよ。」
苺がむすっとしながら言う。
「桃の言うとおりにしなさい!」
葡萄が怒鳴る。
その時、苺たちの前にブラックドラゴンが現れた。
「やっぱり、怪我をしてたか・・・」
緑の髪の少年が訝しげに言う。
苺たちは警戒態勢をとる。
「そんなに警戒をしなくて良いよ。」
「名前を名乗れ!」
警戒態勢のままで苺が言う。
「ブラックドラゴンリーダー大池 光だ。」
苺たちは、警戒態勢を解く。
「ブラックドラゴンが何の用ですか?」
少し挑発気味に、葡萄が言う。
もう空は、赤色から黒がかった色になり始めていた。
苺は、静かに空を見上げしばらくして顔を光と名乗った少年に向ける。
「もう空も暗くなって来たし、私たちの家で話ましょう。」
苺は静かに告げる。
葡萄はあまり納得のいかない顔をしながらも、歩き始めた苺の後ろに続く。
その次にブラックドラゴンのメンバーが続き、後ろから見張るように桃がついて行く。
7人か・・・
桃はブラックドラゴンメンバーの人数を目で数える。
その後は沈黙だった。
だが、確かに苺たちの運命の輪はゆっくりゆっくりと回り始めた。
第六章 敵と手を組む!?
「それで、何か様ですか?」
話を切り出したのは葡萄だった。
外はもう暗く、星がきらめき月が地上を照らしている。
そんな夜に苺たちは、敵であるブラックドラゴンと苺たちの家で対面している。
「そちらのリーダーが怪我をしている様だったので、お役に立てたらと思いまして。」
光はニコッと笑う。
葡萄はその笑いがどうも胡散臭くておちょくられているようで、気分が悪い。
「それだけじゃないでしょ?」
ソファーの端に座っている苺が言う。
「まぁ、そうですね。じゃあ、遠慮なく本題に入らせてもらいます。」
光の表情が一変する。微笑んでいた目は鋭く釣り上がり、上体を前に倒す。
苺の腕の付け根からは腕を伝い指から滴り落ちる血を1人の少年が見て立ち上がる。
それは、龍だった。
「光。まずは手当てを・・・。」
静かに話し始めるのを止める。
「あぁ、そうだな。」
光も話し始めるのをやめる。
龍は苺に向かって歩を進める。葡萄は龍から目を離さない。
龍が苺の前に来ると、冷たい目で苺を見下し一言いう。
「脱いで。」
苺は従い、制服のワンピースを脱ぎ始める。
「ちょっと待った!」
パストが苺と龍の間に割って入った。
パスト良くやった!
葡萄は心でパストを褒めた。
「こんな大勢の前で脱ぐ気か!それに敵だぞ!」
パストは苺に怒鳴る。
そこなの!問題はそこなの!
葡萄は堕落した。
「あぁ、そうだね。じゃあ洗面所行って来る。」
苺が立ち上がる。
葡萄がそれを聞いて、勢い良く立ち上がる。
周りが葡萄に注目する。
「大丈夫だから。」
苺が微笑み、洗面所に向かう。
苺を止めようとする葡萄を、桃が止める。
「驚かないの?」
洗面所について早速、龍が尋ねて来た。
その目は少し悲しそうだった。
「大体は分かってたから・・・」
苺は龍から目を背ける。
「私の怪我を治してくれんじゃないの?」
苺が目を背けたまま、龍にそう尋ねる。その表情は、照れているのかゆでダコの様に真っ赤だった。
「あぁ、はいはい。」
龍はそんな表情の苺を見て、微苦笑する。
「ライフ。」
そう呼ばれて出て来たのは、黒猫の天獣だった。
苺は静かにワンピースを、腰らへんまで下ろしワイシャツのボタンを二個ほど外す。
そして、右腕を袖から出す。
肩の付け根には、10cmぐらいの切り傷があり血は止まること無く少しずつ流れている。
「結構、時間経ってるから止まっていてもおかしくないんだけどな・・・」
龍は不思議そうに、傷を眺めながら言う。
苺は何も驚くことなく、明後日の方を見ながら思い出すように言う。
「桃たちには、深手は免れたと言ったが実際は血管の2・3本ほど切れていて、右腕に感覚などない・・・」
龍は苺の話を聞くと、静かに傷に手をかざし目を瞑る。そして囁く様に言葉を紡ぎ出す。
「ライフ、それは“命”。ライフ、それは“癒し”。我の手の先にいる者へ“命”の“癒し”を・・・」
すると、苺の傷は見る見る塞がり、血も止まり、右腕の感覚が戻ってくる。
苺は、右腕を回して異常が無いか確かめる。
パストも嬉しそうに、ニコニコいる。
「ありがとう。助かったよ。」
苺が龍の方を振り返り笑顔で言う。
龍の表情は、真っ赤でさっきの苺みたいになっている。
苺は何があったのか分からず、首を傾げる。
「苺さん。早く服を着てください。」
ライフと呼ばれた、黒猫の天獣が苺の顔の前まで来て言う。
苺の顔は赤くなっていき、バッとワンピースを持ち上げ前を隠す。
「見た?」
当然見ていることは、百も承知だが聞かずには居られない。
龍はコクッと頷く。
苺は顔から湯気が出るほど顔が熱くなっていた。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
甲高い声で苺が叫ぶ。
龍は慌てて洗面所から出ようとしたとたん。ドアがバンッと言う勢いがいい音を立てて開いた。
「田口!!お前、苺に何をやった!?」
そこには、桃たちがいて葡萄が仁王立ちになってすごい形相で怒鳴る。
龍は冷や汗を掻き、苺に助けを求めるがワンピースを握ったままずっと震えていて到底助けられそうにない。
「いや、何もしてない。」
龍は焦りながら言う。
葡萄と桃は軽蔑の目で見ている。
「本当だって!」
一生懸命に弁解する。
「こいつは、本当に何もしてないよ。」
パストが苺の元から言う。
苺も少し落ち着いたようで、静かになっている。
「こんなことになったのも、苺のドジのせいだ。だからこいつは、なにもしてない。」
「パスト。さっきから田口のことを庇ってない?」
桃はパストに、視線を移し怪訝そうな顔で聞く。
それに引き換えパストは、すました顔でため息を1つする。
「まぁ、一応協力しないといけなくなるし、苺の怪我も治してもらったしな。」
「ふ〜ん。それなら少し納得。とりあえず、男はリビングに行ってくれない?それとも、大声で、変態って叫んで欲しい?」
龍たちは大急ぎで、洗面所を出る。
桃が光たちが行ったかどうかを確かめたあと、苺に視線を向ける。
そして、1つため息をつく。
「ごめん。桃、葡萄。」
苺がボソッと謝る。
「べつに謝らなくて良いよ。」
桃の声がいつもより低く、機嫌が悪いのが分かった。
葡萄も少し俯いている。
苺は服を着る。
「そろそろ、戻って相手の話を聞きましょう。」
フレアが遠慮がちに言う。
苺が立ち上がり、洗面所を出て行く。その後をパストがついて行く。
桃と葡萄はしばらく無言でその場に立ち竦む。
「いつもの桃らしくないな。」
ペインが黒い瞳で桃を見据えながら言う。
「あなたに昔の私の何が分かるって言うの?」
「最初に言ったはずだ、俺たち獣はその人の思い出だと。」
「思い出でも心ではないわ」
「いい加減にしろ!!」
ペインが始めて怒鳴った。
桃も葡萄も、目を丸くしてペインを見る。
「桃!いつもの冷静さは何処にいった!葡萄も!いつまでうじうじしているつもりだ!」
桃と葡萄は何も言えず、ペインが言ったことを考えてみる。
答えはすぐに出た。
桃と葡萄の顔はすっきりした顔でペインとフレアを見る。
「ありがとう。」
桃は笑顔で言い、葡萄と洗面所を出る。
ペインとフレアはその場に残った。
「珍しいですね。ペインが怒鳴るなんて。」
「別に、珍しくないだろ。」
「まぁ、いいですよ。鈍感なほうが可愛いですし。」
フレアが苦笑しながら言う。ペインは顔を背ける。
「そろそろ、行きましょうか?」
フレアが、リビングに行くように促す。
ペインは頷くでもなく、黙って洗面所を出た。
フレアはまた苦笑してしまう。苦笑しながら、ペインの後について行く。
フレアとペインがリビングに行くと、すごいことになっていた。
「あなた方と手を組むなんてごめんです!」
「どちらにせよ、協力しないといけなくなるんだから今から手を組んでも一緒だろ!」
「それはデビルドラゴンを封じる時だけで結構です!」
「なんだとぉぉ!」
「第一に先にライバル意識をされたのはそちらです!何故その様な思いを持っているあなた方と・・・!」
「別に手を組んでも構いません。ですが、お互い信用できる仲ではないです。」
葡萄と光の部下であろう男の子が身を乗り出して、怒鳴り合っているのを止めるように苺が意見を言う。
「確かにそれそうです。じゃあ、何をすれば信用なさって下さいますか?」
光が言う。
これって、子供の会話か・・・?
ペインは眉間に皺を寄せて考える。
葡萄は不機嫌な面持ちで、乗り出していた身をソファに戻す。それは相手の男の子も一緒だ。
「そうですね。情報は共有とお互いが困っている時は助けるでどうですか?」
「そちらがそれでいいのなら、それに従います。」
「もし裏切った場合は覚悟していなさい。」
苺が急に殺気を出すので、ブラックドラゴンのメンバーは顔を青くする。
「あはは。面白い!楽しみだ!あんたらと手を組めてよかったよ!」
光は右手で腹を押さえ、左手で顔を覆い狂った様に笑い出す。
「そろそろ、夕飯にしますが一緒にいかがですか?そちらの方々の紹介もまだですし。」
「そうですね。それじゃあ、お言葉に甘えていただきます。」
光は落ち着いたようで、冷静さを取り戻している。
「葡萄、カレー作るから手伝ってくれる?」
「分かった。」
葡萄はまだ納得がいかないような面持ちだが、苺とキッチンに向かう。
桃は、ブラックドラゴンのメンバーを見張るようにソファに座ったままだ。
キッチンでは、野菜と肉を切る音のみが響いていた。
「葡萄ごめんね。いつも意見聞いてやれなくて。」
苺が野菜を手早く切りながら言う。
葡萄は驚いて肉を切る手を止める。
「えっ?どうしたの急に?」
「今日の葡萄、ずっと苛立ってて冷静さが無くなっていたから葡萄の意見を聞いて無かった・・・」
「良いよ謝らなくて。自分でも分かってたから。」
反省している苺を見て苦笑し、肉を再び切り出す。
30分後
「カレーです。どうぞお食べください。」
苺は、カレーをテーブルに並べ終えて自分もソファに座る。
「いただきます。」
その場の皆が同時に言う。
「隣から順に、田口 龍。山本 亮。黒田 銀。海瀬 香。森田 圭。中村 京。」
光が食べながら紹介する。
「あっ・・・人参が残ってる・・・」
桃が森田 圭と紹介された男の子の皿を見て言う。
桃が身を乗り出し、圭からフォークを奪い皿に残っている人参を3つフォークに刺して、圭の口に突っ込む。
ブラックドラゴンメンバーは驚きの表情だ。それに比べて苺と葡萄はため息をついてうな垂れる。
「残さず食べる!じゃないと、あなたを実験台にさせてもらうよ?」
「はい!ちゃんと食べます!」
圭は桃の迫力に負けて嫌いな人参を一気に口に入れて、涙目で噛んで飲み込む。
それを見届けた桃はソファに座り直す。
その部屋に笑いが沸き起こる。
手を組む、組まないじゃなくって、友達として繋がればいいのにと何処かでそう思った苺だった。