第2話 ギルドに入りました
目が覚めて視界に入ったのは酒場でばか騒ぎしている人たちだった。
「ここは……?ああ、そういえばオレ、トリップしたんだっけ…」
「あら、もう起きても大丈夫なの?」
自分がなぜここにいるのか思い出していると、銀髪の美人さんが話しかけてきた。
多分この人がミラジェーンだよな。確証ないけど。
先に言っておくけどオレはいわゆるオタクという人種ではない。だから目の前にアニメの美人キャラがいても特に興奮したりはしない。生まれてこのかた恋愛感情をもったことの無いオレは健全な一般高校生とは言いがたいようだ。まあ、感性がずれているというわけではないんだけどな。美人、不美人の区別はつくし。
そう、例えるならオレの性格はSKET・DANCEのボッスンに近いと自分では思う。
ま、とりあえず返事しないとな。
「え?あ、ああ。一応……」
先程の質問の意味が分からなかったが、とりあえず返事を返す。
「よかった、朝ギルドに来てみたら人が倒れていてビックリしたんだから」
ほっとしたような顔でいう美人さん。
ギルドの前で倒れてた?あ、そういえばオレがトリップする場所ギルドの正面にしたんだっけ。
てかトリップ直後は気絶すんのかよ!!知ってたら他のとこにトリップさせてもらってたわ!!ちゃんと説明しとけよ!!
「えっと、助けてくれてありがとう。ところでここは魔導士ギルドなのか?」
「ええ、そうよ。ギルドの名前は妖精の尻尾。ここ、マグノリア唯一の魔道士ギルドなの。それにしてもあなた、何でギルドの前で倒れてたの?」
何でって言われてもな〜どう答えるべきか……なるべくトリップしてきたことバレない方がいいよな。
原作崩壊は望んでないし。そうだ、無一文の設定でいくか。
「え〜と、オレ遠くからこの町に来たんだけどさ、途中で財布落としたせいで三日三晩飲まず食わずでここまで歩いてきたんだよ。って、ヤベ……思い出したら腹減ってきた。どうしよ…」
「そうだったの……ちょっと待ってて!今何か食べ物持ってくるから」
「え?いや、さっきも言ったようにオレ金持ってなくて……」
「これくらいいいわよ、おごってあげる」
そう言って美人さんは厨房らしきところへ走っていった。
なんかあの笑顔見てるとウソつくの申し訳なくなってくるな。文無しなのは本当だけど三日三晩飲まず食わずで歩いたとかウソですし、今日この世界に来たばかりですし。
そんなことを考えているうちに美人さんが料理を持って戻ってきた。
「はい、お待たせ!」
「ありがとな、いただきます」
ウソを言った手前結構勢いよく食べないとな。ま、腹が減ってるのは本当だし。
半分ほど食べ終わったとき不意に食事の手を止めて思った。
そういえば今のオレって見た目アゲハなんだよな。
コップの水を反射させて自分を見ると確かにアゲハになっていた。スゲェな、トリップ。
ていうかもうひとつ思ったんだけど、オレまだ自己紹介してなくね!?
「もぐもぐ…ゴクン、そういえばまだ自己紹介してなかったな。オレ、夜科アゲハ。ちなみに夜科の方がファミリーネームな。オレの国じゃファミリーネームの方を先に言うんだ」
「へ〜そうなんだ。私はミラジェーン・ストラウスよ。ミラって呼んで、アゲハ」
あ、やっぱりミラジェーンだった。
「ああ、わかったよミラ」
オレは自己紹介を済ませると再び食事に戻った。
しばらくして料理を完食し、オレはミラに話しかけた。
「なあ、このギルドって魔導士なら誰でも入っていいのか?」
「ええ、そうよ。でも何でいきなりそんな事を?」
「いや、オレも魔導士だからさ、入れてくんないかなーって思って。ここはなんだか楽しそうだし、何よりオレ無一文だしな」
「そうなの?ならマスターのところに連れていくわ」
ミラはそう言うとオレの手を掴んでどこかへ引っ張っていった。ミラに連れてこられたのは、ちっちゃいじいさんのところ。この人がマカロフ・ドレアーか。
「マスター!!」
「ん?そいつは誰じゃミラ?」
マスターと呼ばれたジイさんがミラに訊ねる。
「マスター、この人うちのギルドに入りたいんですって」
ミラがオレのことを紹介する。
「えっと、オレ夜科アゲハっていいます。今、仕事がなくて困ってるんだけど、このギルド何か楽しそうだし入りたくなって」
「ふむ、事情はわかった。いいじゃろう、今日からお前さんは妖精の尻尾の仲間じゃ」
わりと簡単にOKしてくれた。え、こんなんでいいのか?簡単すぎねえ?まぁとりあえずは……
「よろしくお願いします」
「よかったわねアゲハ!これからよろしくね」
「おう、よろしくな、ミラ」
オレとミラが握手をしているとジイさんがギルドのみんなを集めていた。 っていつの間に!?
「皆のもの、新メンバーのアゲハじゃ。みんな、仲良くするんじゃぞ」
オレの紹介がいつの間にか始まっていた。オレは慌ててみんなに向き合う。
「夜科アゲハだ。これからよろしく!!」
オレが自己紹介を終えるとギルド内は一層騒がしくなった。おおぅ…ノリのいい連中だな。ギルドの盛り上がり様に驚いていると、何人かのメンバーがオレのところに質問に来た。
「よう、オレはグレイだ。ミラちゃんから聞いたぜ、お前他の国から来たんだってな?どんな魔法使うんだ?」
黒髪で上半身裸の男、グレイが話しかけてきた。うわ〜原作通りスゲェ脱ぎ癖だな。
「オレの魔法か?オレの魔法はPSIっていうんだ。色々と応用効くぞ。それよりお前、服来たらどうだ?」
「うおっ!?いつの間に!?」
気付いてなかったのか……若干呆れるわ。
「お前強いのか?だったらオレと勝負しろォ!!」
桜色の髪をした奴なんてナツしかいないよな、うん、これはナツに間違いない。つーかマンガの主人公が目の前にいるんだよな。何か感動。しっかし勝負か、まだ一回もPSI使ったことないからぶっちゃけ不安なんだよな。
でもいい機会だしやってみてもいいかな。そんなことを考えていると羽を生やした青い猫が近づいてきた。
「ナツ〜自己紹介もしてないのに勝負とか非常識だよ」
「ん?そうか?じゃあ名前ぐらい言っとくか。ナツ・ドラグニルだ、よろしくな。」
「オイラはハッピーだよ!」
「おう、よろしくな ナツ、ハッピー」
二人の自己紹介が終わるとまたナツが勝負しろと言ってきた。
「お、アゲハ対ナツか、面白そうだな」
「アゲハの実力がどれ程のものか見せてもらおう」
グレイと恐らくエルザであろう鎧を着た女の人がノッてくる。
「いいぜ、売られた喧嘩は買う主義だ」
「うおっしゃああ!!燃えてきたぞ!!」
オレ逹はギルドの側の広場に向かった。
広場に着いてナツと向かい合っているとギルドのみんなも面白がってついてきていた。おいおい賭けをしている奴もいるぞ。
「じゃあ、始めるか」
「おう!!」
オレとナツが構える。
「両者準備はよいかのう?」
マカロフのジイさんがオレ達に問いかける。どうやらジイさんが審判をするようだ。
「おう!!」
「いつでもいいぜ」
ナツとオレがそれぞれ返事を返す。それを見たジイさんはコクリと頷き手を掲げる。
「それでは始め!」
ジイさんが手を振り下げ、勝負が始まった。途端にナツが息を吸い込む。
「火竜の咆哮!!!」
いきなりかよっ!?ナツが炎のブレス攻撃をしてきた。
「ライズ!」
オレは試しに原作の方法でライズを発動してみた。スッゲ、トリップ特典で簡単に使える。
オレはライズで上がった身体能力でナツの炎を超スピードで避けた。
「消えた!!?」
「速いっ!!」
周りがビックリしている。うん、仕方ない。だってオレもビックリしてるもん。
「どこだ!?」
辺りを見回すナツ。オレはナツの背後に回り込み、
「後ろだ」
ナツに蹴りを食らわした。
「ぐぁっ!!」
ナツは数メートル吹っ飛んだがなんとか受け身をとった。
「くそっ!!ってなんじゃそりゃあ!!?」
「す、すげえな、おい……」
「でけえ……」
ナツはオレの方を見て驚いた。ギルドの奴等も驚いている。
何故なら…
「ドラゴンテイル」
巨大な龍の尻尾がオレの腕から現れたからだ。今のは魔力で出してみた。う〜ん、こっちの方が疲れるな。PSIは原作通りの方法をメインで使って、キツくなったら魔力を使うことにしよう。
「食らえ!!」
オレはドラゴンテイルをナツに叩きつけた。
「うぉわああああ〜〜〜〜〜〜!!」
ナツはドラゴンテイルの直撃をもろにくらい気絶した。
「そこまで!アゲハの勝ち!」
ジイさんがオレの勝ちを宣言した。
「スゲェ、ナツに無傷で勝ちやがった」
「見たことねえ魔法だな、なんだったんだあの尻尾みたいなの」
ギルドの奴等がざわめき出す。そんな中、エルザが近づいてきた。
「ナツをあっさり倒すとは、見事だった。どうだ、次は私と勝負しないか?」
妖精女王のエルザがバトルを仕掛けてきた(ポケモン風)。
相手はS級魔道士。はてさて、どうなることやら……