第52話 痛みを知ることで得た教訓(笑)
━Side アゲハ━
アゲハ
『いってぇ…』
なんとかエルザの一撃に耐えて起き上がったオレはエルザが近づいてくるのを見て慌てて正座した。
エルザ
「自分が何をしたのか分からない…だと?」
ルーシィ
「ひぃいいいいいい!!!」
エルザのオーラがさらに増し、殺気が自分に向けられていないにも関わらず怯えるルーシィ。そんなに怯えるなよルーシィ…こっちの方こそ叫びたい気分なんだ。
ハッピー
「ルーシィ無事だったぁ?って何でアゲハがここにいてしかもエルザに怒られてるの━━━━━っ!!?」
あ、ハッピー。そうか、オレ、ハッピーより早くこっちに着いたのか。そりゃ驚くよな。森の中で戦っていたはずのオレが本来ならここにはいないはずのエルザに怒られてるんだから。
エルザ
「ハッピーか。少し黙っていろ、いいな?」
ハッピー
「あ、あい!!」
エルザの命令に元気よく返事をしたハッピーは、すぐに口を噤んでルーシィの隣に移動した。
ハッピー
「ねぇ、何があったの?(ひそひそ」
ルーシィ
「知らないわよ。急にエルザが現れたと思ったらエルザってばものすごく怒ってて、いきなりアゲハを殴り飛ばしたのよ(ひそひそ」
エルザの邪魔をしないよう小さい声でとしゃべるルーシィとハッピー。そんな二人をよそにエルザはオレを睨み付けた。
アゲハ
『えっと……何でエルザは怒ってるんだ?』
エルザ
「まだ分からんのか!!」
ゴンッ!!
アゲハ
『痛っ!!』
今度は脳天にげんこつを食らわされた。頭がガンガンする。
エルザ
「いいだろう。ならば教えてやる。お前がダメQとやらをギルドに送って正式にS級クエストを受理した少し後の事だ」
━回想━
評議院から私とナツが解放された翌日、ギルドに来た私は昨日置いておいたケーキを食べようと冷蔵庫を開けた。しかし……
エルザ
「な…無い!!私が買っておいたケーキが!!」
きっちり15個のケーキをこの冷蔵庫に入れておいたはずなのに!!
エルザ
「誰だ…私のケーキを食べたのは……」
「「「「ひぃいいいいいい!!!」」」」
「し、知らねえよ!!」
「オレじゃないオレじゃないオレじゃない」
私は犯人が誰か問いかけたが名乗り出るものはいない。
ミラ
「あ、エルザ。どうしたの?」
騒ぎに気づいたミラが話しかけてきた。
エルザ
「ミラか…実はこの中に私のケーキを勝手に食べた不届き者がいるんだが知らないか?」
溢れ出る怒りを抑えながらミラに聞く。
ミラ
「ケーキ?あ、もしかして……」
エルザ
「知っているのか!!?どいつだ!!誰が私のケーキを食べたんだ!!?」
ミラ
「多分あの子よ」
“あの子”?もしや女か子供なのか?しかし例え女子供でも私のケーキを食べたことに代わりはない。説教してやらねば。そう思い、ミラの指差した方を見てみると、確かに私のケーキを食べている者がいた。だが…しかし……
エルザ
「………何だ…あの生き物は?」
ケーキを美味しそうに食べていたのはギルドの者ではなく、妙ちくりんな人型の生き物だった。いや、生き物と言っていいのかも分からない。
ミラ
「ダメQっていうんだって。アゲハがPSIで作った疑似生命体だって言ってた」
エルザ
「アゲハが…?」
ほぉう……ということは全てはアゲハの責任か……
ミラ
「あの子も悪気があってやった訳じゃないと思うの。ケーキがエルザのモノだって知らなかっただけで……許してあげて、エルザ」
エルザ
「………分かった。私とて何も知らなかったダメQを叱るつもりはない。“ダメQはな”。ところでミラ、アゲハはどこにいる?」
ミラ
「アゲハならナツたちを追ってグレイと一緒にガルナ島へ行ったわよ」
エルザ
「何?どういう事だ」
ミラ
「実はね……」
ミラの話によれば、ナツたちが勝手にS級クエストをしにガルナ島へ向かい、それをアゲハとグレイが連れ戻しに行った。しかしミイラ取りがミイラになり、結局アゲハが同行することで正式に依頼を受理することになったと……
エルザ
「それでその連絡のために送られてきたのが……」
ミラ
「そのダメQなの」
ミラがダメQを見ながら言った。
エルザ
「なるほどな」
つまりはダメQを送る原因となったナツたちも同罪か。説教をしてやらねば気が済まん!!
怒り心頭に私はギルドの出口に向かう。
ミラ
「あらエルザ、どこ行くの?」
エルザ
「ちょっとそこまで…な」
━回想終了━
アゲハ
『うん、今の話を聞いてひとつ言わせてもらおう……オレ関係なくね!!?ダメQが何したかなんてオレに分かるわけなくね!!?』
エルザ
「そういう訳でお前に説教をするためにこうしてガルナ島まで来た訳だ」
アゲハ
『無視!?無視なの!!?』
エルザはオレの反論をまるで聞かなかったかのように受け流した。こんの野郎……(女だが)。つーかダメQまだ消えてなかったのか!!そっちにビックリしたよオレ!!それとミラ……エルザにはガルナ島に来た経緯は言わないでくれって言っておいたのに…何さらっと言ってくれてんの!!?
アゲハ
『おいエルザ……言いがかりにも程があるぞ。どう考えてもオレに責任はないだろ』
エルザ
「うるさい!黙れ!!ダメQの不始末は主であるお前の責任だろう!!」
アゲハ
『えぇー』
エルザ
「口答えするな!!」
ゴンッ!!
アゲハ
『でっ!!』
くっそー、絶対たんこぶ出来てるよ。なんて理不尽なんだ。どれもこれもダメQのせいだってのに……ん?待てよ……ダメQって食い物食べたりすんの!!?オレも知らなかったんだけど!!人間味があるにしても程があるだろ…
はぁ…それにしてもエルザめ…
アゲハ
『たかがケーキでそんなに怒ることないじゃんか。オレのせいじゃないのに…(ボソ』
ぼそりと呟いたオレにピクリ、とエルザが反応した。ヤベッ今の聞こえた!?
エルザ
「アゲハ」
アゲハ
『はいっ!!何でしょうかエルザさん!!』
やっべぇええええ!!!さらに怒らせちまったか!?体中から滝のように汗が吹き出してくる。
エルザ
「あのケーキはな……私が楽しみにしていたとっておきのケーキだったんだ。それを……そのケーキを……」
ゴゴゴゴゴゴ……
アゲハ
『え、あれ?ちょっ、エルザさん!!?じ、地鳴りが聞こえてますよ!!?』
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!
エルザ
「“たかが”……だと?お前は自分のしたことがどれ程重いのかまだ理解していないらしいな」
その時、エルザから禍々しい角が生えたような気がした。(いやマジで!!)
アゲハ
『あの、その、すんません!!すんません!!本当ごめんなさい!!!』
エルザ
「今さら謝っても遅い。私のケーキはもう帰ってこないんだ。それが分からないお前には少し仕置きをしてやらねばならないようだな」
アゲハ
『ま、待って!!え、マジで!?ちょっ、オレ何も悪くな……ぎゃあああああああああ!!!!』
バキィッ!!ドガッ!!ドゴォッ!!ガゴッ!!ガン!ガン!!ドッドッドッ!!ズギャ!!ガッガッガッ!!ズドドドドゴォオオン!!!
ルーシィ
「あわわわわわわ……アゲハが死んじゃうぅ
……」
ハッピー
「鬼だよ、鬼神だよぉ、怖いよルーシィぃ…」
少し離れたところでこの光景を見ていたルーシィとハッピーは恐怖でがくがく震えていた。
薄れゆく意識の中、オレは学んだ。他人(エルザ)の物を勝手に食べてはいけない、食べさせてはいけないと。昇天するほどの痛みを知ることで得たこの教訓は一生忘れることはないだろうな、と思った。
ただ、オレのせいじゃないけどな!!これだけは絶対に譲らん!!
そう心に刻んだ直後エルザからの最後の一撃を受けて、オレは意識を手放した。
━Side Out━
━Side グレイ━
ちゅんちゅんちゅん
グレイ
「!」
がばっ
起き上がるとそこは昨晩泊まった宿と同じ風景。
グレイ
「ここは……そうか、いつの間にか寝ちまってたんだな」
アゲハに言われた通り宿で魔力の回復と精神の安定に努めていたオレはいつの間にか眠ってしまっていたらしい。そういえば昨日は眠らずに月の雫【ムーンドリップ】を待っていたからな。思っていた以上に疲れてたみたいだ。
宿を出るとオレに気づいた村人が連れが資材置き場で待っていると伝えてくれたので案内してもらった。
グレイ
「ワリィな、わざわざ案内してもらって」
「いえ、お気になさらず。では私はこれで……」
グレイ
「おう」
村人が戻っていくのを一瞥し、オレはテントの中へ入った。そこで衝撃的なモノが視界に入った。
グレイ
「エルザ!!?…と………アゲハ?」
エルザ
「だった物体だ」
最後に会った元気な姿から一変して血まみれになったアゲハとその横に立つ不機嫌なエルザ。夜の間にいったい何があったんだ!!?
テントの中を見渡すと、縄で縛られているルーシィとハッピーを見つけた。
グレイ
「ルーシィ、ハッピー!!どうなってんだこりゃあ?何でエルザがここに!?」
ルーシィ
「そ…それが……」
ルーシィとハッピーがエルザがここに来た理由、そしてアゲハがボコボコにされた理由を細々と語ってくれた。それを聞き終えたオレが一番に思ったこと、それは……
グレイ
「アゲハ…何も悪いことしてなくね?」
ルーシィ&ハッピー
「「だよね……」」
ルーシィたちも同じように思っていたらしい。それはそうと……
グレイ
「何でお前らまで縛られてんだ?」
ルーシィ
「アゲハがダメQを送る原因となったのは勝手にS級クエストに行った私たちにあるから…」
ハッピー
「同じように説教を受けていると言うわけです。あい」
グレイ
「そ、そうか……ドンマイ」
今日、オレはエルザの理不尽さを再確認した。
━Side Out━