第5話 初めての依頼
朝、ギルドの酒場に行ったらすでにジイさんとミラが来ていた。
「おう、起きたかアゲハ」
「おはよう、アゲハ」
「おっす、早いな二人とも。まだ8時だぜ」
オレはそれなりに早く起きてここに来たつもりだったんだけどそれ以上に早いなこの二人。
「私は依頼書のチェックとか色々仕事あるから早く来るのよ」
「ワシも今日はお前に依頼の受け方等の説明があるからのぅ、早く来たんじゃ。聞けばアゲハよ、お主は今持ち金がないのじゃろ?」
「そうなんだよ、早いとこ金稼がないと、って思ってたんだよな」
トリップしたとき金も少しはもらえるかな、と期待したオレがバカだった。
なんもくれねーのな、能力以外。
「ならば試しに交通費のかからない近場の依頼に行ってみてはどうじゃ?」
「依頼書はそこの依頼板に貼ってあるから、気に入ったのがあったらマスターに言ってね」
「分かった。う〜ん、どうすっかな……」
オレは依頼板の前に立って依頼書を見る。ふ〜ん、結構いろいろ種類あるんだな…
「よし、これに決めた!」
オレは迷った末に、近場の盗賊退治の依頼を受けることにした。
「ジイさん、これよろしく」
依頼板から取った依頼書をジイさんに渡す。
「ふむ、このレベルなら問題ないじゃろ」
ジイさんはそう言って依頼を受諾し、地図をオレに渡した。
「この街を出てすぐのところじゃ。地図を持っていれば迷うまい」
「分かった。それじゃあ行ってくる」
「いってらっしゃい。迷子にならないようにね」
「大丈夫だって。まあ一応気を付ける」
ミラとマスターに見送られオレはギルドを出発した。
「うっし!!オレの初依頼だ。気合い入れていくか!」
オレは気合いを入れ直して目的地に向かった。依頼人の家はマグノリアから二時間ほど歩いたところだ。まぁちんたら歩くのも性に合わないので、練習がてらライズを使って走って向かった。
あまり早くつきすぎてもなんなので、ところどころ寄り道をし、1時間ほどで依頼人の家に到着した。依頼人にギルドの紋章を見せ、事情聴取の後、盗賊の居場所を確認すると早速盗賊のいるアジトに向かった。
「あそこか……んじゃ、行きますか!!」
オレは盗賊のアジトである小屋の前に立つ。ライズで身体能力を強化し、拳を振りかぶる。
ドゴォン!!と大きな音を立てて、扉が吹っ飛んだ。
「おっ邪魔っしまーす!!妖精の尻尾新入りの夜科アゲハで〜す!人様に迷惑をかけるクズヤロー共がいるということでガツンと懲らしめにやって参りました。ナイストゥミーチュー」
PSYREN原作1ページ目と同じノリで挨拶してみた。
おーおー、盗賊の皆さん青筋立ててますなぁ、元気ですねー。
「ふざけんなよゴルァ!!魔導士ごときが調子のってんじゃねーぞ!!」
「生きて帰れると思うなよ!!」
「盗賊の恐ろしさを教えてやらァ!!」
罵詈荘厳と共に飛びかかってくる盗賊達。
「まんまチンピラだなこいつら。さてと、それじゃあ暴れますか!!」
ライズ!!
飛びかかってくる盗賊達を次々と殴り飛ばす。たまに壁にめり込むやつもいるが気にしない。多分生きてるだろ。
「うひゃひゃひゃひゃひゃ!!」
ヤべー、ほんとに面白いぐらいに人間が吹っ飛ぶ。マジでライズ半端ねー。
「うわぁああああ!!」
「ば、化け物!!」
「これのどこが魔導士だよ!!殴ってばっかじゃねえか!!」
うん、そうだよね。普通魔導士って殴ったり蹴ったりしないよね。でも残念、オレは魔導士じゃなくサイキッカーだ。
「数も減ってきたしそろそろ止めといくか!食らえ!ドラゴンテイル!!」
ドラゴンテイルに凪ぎ払われ盗賊達は全滅した。ちなみにアジトは全壊。それにしても歯応えが全然ねえな、もっと難しいのにすればよかったかな。
「もう終わりかよ。ちぇー、つまんねーの。ま、とりあえずコイツら縛り上げてサツに引き渡すか」
持ってきたロープで盗賊達を縛り上げた。
「くっ、オレらにこんなことしてただで済むと思うなよ。シムニダ様にかかればお前なんて……」
途中で意識が戻ったのか、縛り上げた盗賊の一人が口を開く。
「シムニダ?こいつのことか?」
オレが戦闘中にやけに偉そうにしていた奴を指差すと目の前の盗賊は目を見開いた。
「な!?」
なんかこいつらのボスみたいな奴らしいんだけどザコ供と一緒にいつの間にかぶっとばしてた。
「そ、そんな……」
ガクッ、と項垂れる盗賊。ドンマイ。相手が悪かったな。
〜夕方〜
盗賊達にサツに引き渡し、依頼人に報告を終え報酬をもらった頃にはすでに辺りは薄暗くなっていた。
「引き渡しに思ったより時間がかかったな。早く帰るか。腹へったし」
オレはさっさと帰るべく、歩き出した。しかし歩き出したオレに不幸が襲いかかる。
「そろそろ道が細かくなってきたな。地図で確認確認っと」
オレはポケットに手を入れ、地図を取り出そうとする。しかしあるはずのものがそこには無かった。
「……………え?ちょ、マジで!?な…無い………地図が無い!!」
ポケットに入れておいたはずの地図が何故か無くなっている。マズい。来るときも地図を頼りにここへ来たから地図を無くすと非常にマズい。しかもすでに依頼人の家から数キロは歩いているので今さら戻ることはできない。
「ど、どうやって帰ればいいんだ…(汗)」
この世界に来て初めて滝のような汗がオレの頬を伝う、て言ってもまだ二日目だけどな!!
「とりあえずまっすぐ歩くしかねえか……」
道に迷ったらそこを動くな、ってよく言うけどここは森の中。助けなんて来ないだろうな。やっぱり自分で何とかするしかねーか。
オレは記憶の奥底を探りながら見覚えのありそうな道を歩き始めた。
ガルルルルルル
「うおっ!!熊が出たっ!?」
遅い……
アゲハの実力があればもう帰ってきてもいい頃なのに。辺りはすでに真っ暗だった。
「マスター、アゲハ…大丈夫でしょうか?」
少し心配になって隣にいるマスターに聞いてみる。
「アゲハなら大丈夫じゃろ。何か不足の事態があっても対応できるだけの実力は持っておる」
マスターはさほど心配していないようだ。マスターの言う通り、アゲハはエルザを圧倒するほどの実力を持っている。それでも心配してしまうのはやっぱりアゲハが年下だから………なのかな?
結局アゲハは夜中までに帰ってこなかった。
どうしたんだろう……盗賊にやられたなんてことはないと思うけど……
まさか!!地図をなくして迷ってるとか!?(当たりです by作者)
ありえそう、ちゃんとギルドを出るとき注意しておいたのに。
すぐには帰ってこないかもしれないと思った私は家に帰ることにした。ギルドの正面から出ようとしたとき、誰かがギルドに近づいてくるのが見えた。
もしかして……
「あ〜疲れた。やっと帰ってこれたぜ。あれ、ミラ?何でこんな時間まで……」
やっぱり……
「アゲハ!!」
私はアゲハに駆け寄った。
「遅かったじゃない、心配したんだから」
「え?あ、ごめん。地図なくしちゃってさ、遭難してた。ハハハ」
まさか本当に地図なくして迷子になってるなんてね……
当の本人のアゲハはこんな事なんでもないって言うような態度で笑っている。
「もう、せっかく注意してあげたのに」
「すんません。あぁ〜朝から飲まず食わずだったからもう限界だ。この時間、店開いてるかな」
「開いてるわけないでしょ。もう夜中の2時よ」
私がそう言うとアゲハはガックリと項垂れた。
「だよなぁ〜。はぁ…明日の朝までお預けか…水で我慢するしかないな」
もう、仕方ないわね…
「私が作ってあげるから元気だして」
「ホントか!!?サンキューミラ!!」
満面の笑みで私にお礼を言うアゲハ。なんかかわいいな。年下ということもあって何故か無償に構いたくなる。戦ってるときの表情とのギャップもあるかもしれないわね。それとアゲハを見ていると何故か胸が高鳴る時がある。何でだろう?
「どういたしまして。じゃあカウンターで少し待っててね」
アゲハにギルド内のカウンターで待つように言い私は厨房に入った。
「おう、少しくらいどうってことねえよ」
十分ぐらいして料理が出来上がり、アゲハのところへ料理を持っていく。
「はい、召し上がれ」
「いただきます!!」
私が料理を出したとたんアゲハは夢中で料理を頬張った。エルザに勝ったとはいえやっぱりまだ子供みたいね。
「ぷはぁ、うまかった〜。ご馳走さま」
「ふふ、喜んでくれて嬉しいわ」
アゲハはご飯を食べ終えるとこちらを向いて何かを考えているようだった。何だろう?そう思っているとアゲハが口を開いた。
「どうしたの?私の顔に何かついてる?」
「え、いや…そうじゃなくて。……なんかミラってアネキみたいだなぁ、って思ってさ」
姉……、なんか妙にアゲハに構いたくなる理由が分かった気がする。相変わらず胸の高鳴りの原因はわからないけど……
「そう?……ならアゲハは私のもう一人の弟ね♪」
「ハハハッ、オレ兄弟いないからそう思ってもらえるとうれしいよ」
それからアゲハと少し話をして私は家に帰った。
私は寝る前に自分の部屋の窓から夜空を見上げ、一年前に死んでしまった妹を思って言った。
「リサーナ。今日、私に二人目の弟ができたよ。」
そう呟いた時、星空が瞬いた気がした。