小説『山吹さん家のご兄弟』
作者:百瀬コーキ()

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 一人っ子なら一度は考えたことはあると思われる。理想の兄弟、というものがある。いわゆる『もしも』俺に兄や姉がいたら、所謂兄弟を持つものが考える、『もしも』俺が一人っ子だったら上の兄弟のお古がまわってくることは無いのに、の逆バージョンである。

 俺こと山吹 征大も一人っ子であった。父は既におらず母と二人暮らし、父の遺産によって普通に暮らしていくのには困らないものの、それなりに広い家に二人暮らしというのは正直中々嫌なものであった。
 幼いころから周りの友達を見るたびに思った。「何故俺には兄弟がいないのだろう」と、幾ら家にゲームの本数や漫画が沢山あったとしても、一人でやるパーティゲームの空しさは言葉にはできん。

 友達が家に遊びに来ている間は別にいいが、友達が帰った後のつまらなさはとてつもない。例えばお笑い番組を見て大爆笑しても、後ろを振り向けば母一人、母のことは結構好きだが、高校二年生の男子には少しきついものがある。後は小学生の時に実際にやった『一人神経衰弱』、トランプが有っても相手がいないので出来ることといったら神経衰弱やトランプタワーを作るぐらいだ。お蔭でかなり手先が器用になった。悲しくなんてないからな! 

 まぁ、そんなこんなで結構空しい時間を過ごした幼少時。
 小学生に上がった時、ふと見た友達とその兄、口では罵り合いながらもなんだかんだで二人並んで家に帰っていく姿を見たときに「いいなぁ」と思った。小学校高学年に上がった時には、「昨日家の弟がさぁ」と愚痴を言っている友達がいた、しかし愚痴を言っていたはずなのに弟がいじめられたと泣きついてきたときには真っ先にいじめっ子を締め上げに向かっていた。この時の感想も上記と同じく「兄弟っていいなぁ、俺も兄ちゃんや弟欲しいなぁ」だった。
 と、このように俺は昔から兄弟が欲しかった。だが、そんな俺ももう高校生、幾らなんでも兄弟が出来ないのは知っている。いや、うち父親いないし。
 んで、『兄弟が欲しいなぁ』なんて願望も消えてきた高校二年生。つまり「現在」。



「現在」俺は目覚まし時計が鳴り響く自室にて布団に丸まっていた。そろそろ起きるかと布団の中から目覚まし時計に手を伸ばした瞬間。
「おっきろぉー」
「ぐっほぉ!」
 いかにも『ぼく幼稚園児です』といった子供特有の高い声とともに布団の上からなにかが降ってきたのだ。
 慌てて布団の上つまり俺の体の上を見ると、どことなく見覚えのあるような可愛らしい幼稚園児(♂)がいた。
「おはよー」
「だ、だれ?」
 この時の俺はこれからこの園児以外にも恐ろしい奴らが現れるなんてまったく想像していなかったのだった。
 とりあえずこの日の俺に一言送ろう、「頼むから気をしっかり持て、人間生きてれば希望は見える、きっと、たぶん」

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