次の日、男の子はいつもの時間になっても花を買いには来なかった。
「いつもの男の子、今日は学校に行ったみたいだよ」
隣の八百屋の主人が話しかけてきた。
「朝の8時頃にランドセルを背負ってここを通り過ぎていったよ。とても清々しい顔をしてた」
「そうですか……」
男の子に会えなかったのは寂しかったが、良かったと本当に良かったと思った。
次の日の水曜日、店はシャッターが閉まり臨時休業の札がかかっている。
シャッターの前にはバケツが3つ置いてあり、1本100円と書いた紙が張ってある。そして、こう書かれた看板も立てかけてあった。
”どうしてもお花が必要な方はここからお持ちください。お代は箱の中にお願いします”
僕はしばらく帰ってなかった故郷に帰り、母親の墓の前で手を合わせていた。365本もの花はさすがに持っていけなかったが、できる限りの綺麗な花束をもってお墓の花挿しに飾った。その花の中には白いユキヤナギの花と青い花びらのネモフィラの花を入れていった。
僕はかばんの中から1冊の本を取り出した。
「おはながよぶきせき」とその本の表紙には書かれていた。
「会いに来てくれてありがとう」
自分の母親の声が心の中に聞こえてきたような気がした。