〜翌朝〜
「できた・・・」
俺はその言葉を最後に、机に突っ伏した。
強烈な眠気が襲ってくる。もう7時か。早いような遅いような。
俺は今までフリーソフトを使って作曲したり頭をフル回転させて作詞したりしていた。
あー、ダメだ。眠い。眠すぎる。
そのまま、俺は夢の中に落ちていった。
――何時間経っただろうか?
俺が起きたときには、お天道様は空高くてっぺんに昇っていて、暖かい日差しが窓から差し込んでいた。
「マスター起きた」
「・・・?」
いきなり声をかけられてそれなりに驚いたのだが、寝起きのテンションだとそう大きくリアクションする気にならない。というか、できない。
俺は、寝起きのボヤ〜とした意識の中、声のした方を振り返った。
レンだった。
「マスター、もしかして一晩で作曲したの?」
「・・・まぁな」
寝起きのドヤ顔をレンにかましながら、俺はつけっぱなしだったPCをシャットダウンすべくマウスをいじり始めた。
すると、
「あ、まって」
とレンに制止され、マウスを取られた。
そのまま見ていると、レンは俺の作った曲(伴奏)を聞き始めた。
フリーソフトなので幅が小さく、ピアノしか使えなかった上、2分程度のものしかできなかったが、それでも自分なりに頑張った。
―曲が、終わる。
「マスター・・・」
レンが震えた声で言う。
アラ。そんなに悲惨だったでしたか。
日本語おかしいね。うん知ってる。
「マスターすごい!オレ、この曲好き!早く歌いたい!!」
「・・・ほぇ?」
思わずマヌケみたいな声を漏らしてしまった。だって、まさか、そんなこと言われるとは思っていなかったんだもん。
レンが俺の机の上に置いてあった紙を手に取った。
「歌詞はこれだろ?主旋律はこの音で・・・マスター、ちょっと待ってて!」
レンが歌詞の紙を持ったまま俺の部屋を勢いよく後にした。
約1分後、レンがこの家にいるボカロ全員を引き連れて俺の部屋にやってきた。
どういうつもりか、なんて聞かなくても分かった。
「いくよ。みんな、よく聞いてね」
レンが俺のPCに表示されたミュージックプレーヤーの『再生』をクリックした。
音楽が、流れ始める。
―終わる。
「これ、マスターが一晩で作ったんだよ!」
とレンが誇らしげに言った。
なんでレンが誇らしげにするんだ?とも思ったが、あえてツッコまなかった。
ボカロたちから、歓喜の声が聞こえる。お、以外と高評価?
「私この曲歌いたい!!」
言うが早いか、ミクがPCの中に入った。
「あ、ミク姉ずるい!」
リンも続く。
「あ、ちょっと待てよ!」
レンも続く。
なんか、嬉しいな。
「・・・この曲、アタシらMEIKOとかKAITOとかよりダブル14歳&16歳の方が似合うからアタシらは待ってるわ」
メイコの発言に、ルカとカイトが静かに頷いた。
そうしている間にも、収録用のフリーソフトでミクとリンとレンが歌い始めていた。
ミクが主旋律。リンとレンはコーラス。そんな感じで。
収録が終わった。
「楽しかった!!!」
ミクがPCから飛び出してきた。
「本当、楽しかった!!!」
声を揃えてリンとレンがPCから出てきた。
俺は、全員がきちんと立ったことを確認してから、
「・・・今までごめん。歌わせられなくて。今度、メイコやカイト用の大人っぽい曲も作るから」
と謝罪すると、
「ううん、いいのマスター!」「ホント。でも、これで許す!」「全然、気にしないで」「今度は、私たちの曲ね。楽しみにしてるわ」「大人っぽい曲って何よw」「・・・楽しみにしてる」と、ボカロたちから口々に言われた。
――俺、ボカロを持てて本当によかった!
今、そう改めて実感した。
――いや、今更、か。