〜夜〜
俺は漫画部屋から出て、リビングに向かった。
さっき、MEIKOに「晩ご飯」と告げられたからだ。
今日の晩ご飯はなにかな。なんかいい匂いがする。
そう思ってリビングに着いたのだが。
「・・・あれ?」
テーブルの上には、一つの料理も乗っていなかった。
それどころか、ボカロたちもいない。
どこだろう、と思って、一歩踏み出したその瞬間。
「「「「「マスター、作曲おめでとう!!!!」」」」」
と、物陰からクラッカーの音と紙吹雪とボカロたちが出てきた。
「え?・・・ちょ、え?」
状況が理解できないまま俺が硬直していると、後ろから姉ちゃんに背中を押された。
「え、何――」
俺が事態を飲み込めていないその間にも、いろいろなことが起こっていく。
「レンとKAITOは料理の準備!」とMEIKOが指令を出す。
ちょっと待て、これは・・・?
「マスター、まだ事態が飲み込めていないようね」
ルカが微笑む。
「マスター初の、作曲記念パーティーよ。「マスター作曲おめでとう」は、ちょっと日本語がおかしいような気もするけど」
ルカがそう説明してくれた。
え・・・つまり。
俺のために、ボカロたちがパーティーの準備をしてくれて?
祝ってくれて?
つまりは、そういうことか?
俺のために?俺なんかのために?
不意に、頬を涙が伝った。
「あー、マスター泣いてる!」
リンにそう言われ、ボカロみんなが俺を見る。
「な、泣いてねぇし!」
そうは言ってみるが、溢れる涙は止め処がなかった。
ダメだ。考えれば考えるほど涙が出てくる。
みんなの前で泣くなんて、情けないな。
だけど。でも。
――こんな感動は、久しぶりだ。
――こんなに気持ちのいい、こんなに嬉しい、感動は。
「マスター、大丈夫?」
ミクがそう言ってくれる。
その気遣いが、俺にはすごく嬉しかった。
そういえばミク、俺から逃げ回ってたけど、もういいのかな。なんて考えている場合ではない。
「男は泣いちゃあいけないぜ」
とMEIKOが笑う。
「そうだそうだー!」
とリンが元気に笑う。
「ふふ。そうね」
とルカが優しく笑う。
「うん。だめだめ!」
とミクが楽しそうに笑う。
「そうそう!」「うんうん」
とキッチンの奥からリビングに料理を運び出しているレンとKAITOも笑う。
「そうよー、海斗」
と姉ちゃんも笑う。
リビングが、笑顔に包まれた。
俺も涙を拭いて、
―笑った。
その後、俺は元気かつ豪快に料理を食べた。
食べた、というより食ったという表現の方が合っている。
うめぇうめぇと言いながらがつがつ食いつき、一皿たいらげて。
そして、楽しいパーティーは幕を閉じた。