小説『ボカロ日常記録帳』
作者:螺旋()

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〜翌朝〜


この日、俺は聞き慣れない声に起こされた。

「マスター、起きて」

そう俺を呼ぶ声質はなんだかリンのようで、でも違って。

目を細めながら見た人物はミクのようで、でも違って。

「誰・・・だ?」

寝起きの声でそう問いかけると、その人物の代わりに、後から入ってきたリンが答えた。

「ネル!亞北ネル!」

「亞北・・・ネル・・・?」

確か、亞北ネルって、派生?亜種?キャラだったような・・・。

なんでいるんだろ・・・

寝起きの頭では、頭がうまく動かず、ぼんやりそう考えながらリンとネルを交互に見た。

「あたしが昨日マスターのPCの中にあるあたしのプログラムいじって、ネルを生み出したの!」

「ちょっ・・・!?」

今なんつったこいつ!?

ネルを生み出したのはいいさ。まぁいい。大変だが賑やかになるからいい。

でも、リンのことだ。絶対俺のPC内のデータ見てる・・・!!

くそぅ、やられたぁぁぁ!!

「あとマスター、PCのデータフォルダにさ・・・」

リンがニヤニヤとニタニタの真ん中の顔で俺を見ている。

「うわぁぁぁぁぁ言うな!!言うなリン!!やめろぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

俺が朝から大声で喚く。

「ちょ、マスターうるさい。まぁマスターも思春期の一少年だし・・・」

「のわぁぁぁぁぁ!!!やめてくれぇぇぇぇぇ!!!」

酷だ。春休みでgdgdしてgdgdしまくってる人間にとってみれば酷だ・・・!!

やめろ、それ以上言うな、俺のPC内のデータが読者の皆さん及び他のボカロに暴露されてしまう・・・!!

「そんなに焦るけどさぁ、皆分かってると思うよ?」

リンが余裕綽々と言う。

「なんでそんなこと言えるんだよ・・・」

どこからその自信は湧いてくるのか。

「だって、ボカロなら誰でもPCの中入ればわかるじゃん」

「あ」

あ。

あ。

あ・・・

あぁぁぁぁぁぁ!?

「ちょ!?えー、といいますと!?皆さんこのPCの中にプログラムとしていらっしゃる時点で俺はもう終わっていたということですか・・・!?」

「ま、そういうこと」

なんということだ!!なんという失態!!なんという屈辱!!!

しかもリンはまたあのニヤニヤとニタニタの真ん中の顔で俺を見てるし。

そんな目で俺を見ないで!

―他人ノ不幸ヲ愉シムハ、人ノ性、ナリ・・・。

「もう・・・どうすればいいんだ・・・うわぁ・・・」

俺がそう頭を抱えていると、ネルに、

「もう皆にわかってんだから今から何したって無駄だし。諦めれば?」

と現実を突きつけられた。

だって、諦めきれないじゃんか。自分の秘蔵データ見られて、諦められるか。

まぁ、自分が愚かだったせいもあるけど。もう、ほんと。

人生の路頭に迷っている俺の部屋を、勢いよく開けた奴がいる。

その名も岸田琉璃、俺の姉。

「海斗、海斗!!」

いつもとは違う明るい声で俺の名を呼ぶ。

「はい、こちら海斗です・・・」

「・・・?元気ないね。まぁいいや。あのね海斗、私お金ないからボーカロイドとか買えないんだけどさ、ボーカロイドっぽいもの手に入れたよ!!」

「あらそうですか・・・もったいぶらずにさっさと言ってください、趣旨を」

「はいはい。なんかテンション低くない?まぁいいけど。ほら見て、UTAUの重音テトちゃん!」

姉の後ろから、テトが出てきた。

「よろしくお願いします!」

ぺこりとお辞儀するテト。礼儀がなっている。

今日は2人も増えた。2人分大変になる。2人分賑やかになる。

嬉しいような、嬉しくないような。

それより俺はデータのことで頭がいっぱいだった。

そして、悩んで悩んだ末、俺がはじき出した答え。

「よし、もういいもん!!どうせバレてんだし、もういいし!!どうせ変態だし!!」

開き直る。

これが一番俺にとって楽で、一番の解決策だ。

そんな落ち込んだ気持ちを回復させるため、俺は窓を開けた。

日の光と共に、風が俺の部屋になだれ込んで。

俺を、洗っていくみたいに。

そうしていると、さっきの落ち込んだ気持ちなんてどこかに消えてしまっていた。

俺は振り向き、

「よし、今日は天気もいいしどこかにでかけよう!」

と笑顔で言った。

「何振り向きざまの笑顔作ってんのw」「どこ行くの」「おー、いいね」「私もついて行きます!」という声があがる。

どこ、いこうかな。

お小遣いは貯めてあるし、新しいボカロでも買うかな。

だとしたら誰にしよう?

新しい、IAとか蒼姫ラピスとかでもいいな。

でも、やっぱりミク、リン、レン、MEIKO、KAITOときたら次はGUMIか。

どちらにしろ、俺は今日という一日に胸を膨らませていた。






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