春。
俺の名前は岸田 海斗(キシダ カイト)。
今年で高校2年生を迎える、冴えない男子生徒です。
俺の家には、6人ほどの機械が住んでいます。
その名も、VOCALOID(ボーカロイド)。
騒がしい連中です。
「マスター!!」
ほら来た。
この短くて貴重な春休みの朝、布団の中でぬくぬくしたい時に・・・。
「マスター起きて!今日は空が快晴だよ!ぽかぽか☆春の陽気だよ!!どこか出かけようよ!!」
「んーー・・・起きたくない・・・」
「マスターってば!!・・・もう!」
さっきから騒いでいる奴は、『初音ミク』。ボカロ(VOCALOID)の代表的存在。
そんなことより、今は寝たい。
「マスター起きない・・・リーーン!!」
「はーーい!!」
やば。リンが来る。
リンとは、『鏡音リン』というボカロのこと。
リンは何かと厄介なのだ。
「マスターが起きないの・・・」
「そうなの?わかった!」
何が分かったんですか。
「マスター!!起きなさーい!!」
ちびまる子ちゃんのお母さんになり始めたよコイツ!
「ほれほれ」
「あ、ちょ」
リンに布団をはがされる。
「うー・・・布団・・・」などともごもご言っていると、リンがとんでもないことを口走り始めた。
「マスター、起きないんなら脱がしちゃうよ?」
「は?」
「だぁーかぁーらぁー」
リンが俺のパジャマ(下)に手をかけた。
「脱がして晒しちゃうよ??」
「はぁ!?」
リンがニヤッと笑う。
「きゃあ、ちょっとリン!」
ミクが手で顔を覆った。
なななな何を言っているんだリンは!?
「嫌なら起きて」
「・・・・・・」
起きるも何も、お前らのせいでもう眠気なんか吹っ飛んでったんですけど・・・。
嗚呼、俺の朝のぬくぬく☆至福のうとうと時間が・・・・・・。
「リン、もういい?」
ミクが手で顔を覆ったままリンに聞いた。
「あ、うんいいよ。つかあたし何にもしてないけど」
「ふー、よかった」
ミクが取った手の下から安堵の表情を見せた。
「何々、何の騒ぎ」
そう言って、突如俺の部屋に姿を現した茶髪の女性。
彼女の名前は『MEIKO』という。俺の家にいるボカロの中で最年長にあたる方だ。
「あ、メイコ姉。今マスター起こしてたとこ」
リンが笑顔で答える。
お前のせいでこっちは被害を被ってるんですけど。
「とりあえず、朝飯できたから降りてきな」
ぷ〜ん、と、甘い香りがした。今日の朝飯はフレンチトーストか・・・朝から随分と豪華だな。
そんなことを考えていたら、腹が鳴った。
うう・・・腹減った・・・。
「マスター、今日の晩ご飯さ」
ミクが俺に話しかける。今から晩ご飯の話って、早くねぇか・・・?
まぁ、そんなもんなのかもしれない。どっちにしろ、料理をしない俺にはわからない。
「ネギ入りのカレーでいい?」
「嫌です」
即答。当たり前だ。もう何日ネギ料理食わされたと思ってんだ。
そもそもネギ入りのカレーってなんだよ。もうそれ常識の幅越えてるよ。アカン飯だよ。
「むー・・・」とミクは不満そうな表情をした。いや、作ってもいいよ?俺は食わないけど。
「とにかく降りようよ。冷めちゃうよ」
とリンが急かす。うん。その通り。