小説『fate/zero〜君と行く道〜【改訂版】』
作者:駿上()

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2話 少女と怪物





ずっと神を恨んでいた
誰よりも平等で理不尽な神を
だけど今だけは感謝しよう
こんなどうしようもない
醜く歪んだ自分とあの子を
引き合わせてくれたのだから










あの胸糞の悪い雰囲気を放つ爺を始末した後、助け出した女の子を連れて冬木の街を彷徨っていた。


人目につくのは拙いので建物の屋根の上を飛び移ったり、路地裏を通ったりして移動していた。


だってそうじゃん。
コート羽織らせてるとはいえ、裸の幼女抱きかかえてるんだよ?
常識で考えればただの変態だよ。通報ものだよ。


とにかくどこか腰を落ち着かせられる所を見つけよう。
もし住民に見つかったりしたら「空飛ぶ変質者出現!」何て情報がお茶の間に流れかねない。


そんなこんなで1時間くらい跳ね回っていたら、もう使われてなさそうなボロアパートを発見。
試しに忍び込んだら案の定空き家だった。


所々埃っぽいけど雨風凌げるだけマシってもんだろう。


とりあえず忍び込んだ部屋の埃を払って女の子を床に寝かせる。



「そういえば、あんな忍者アクションしてたのによく起きなかったな。この子」



どうでもいい事で感心しながらも今の状況を整理する。


まず、ここは自分がいた世界ではない。所謂パラレルワールドって奴らしい。
これはこっちに来た時に流れ込んで来た情報から判断した。


魔術なんてファンタジーなものが存在している上に少しだけ混入していた一般常識からするとこの世界には“奴ら”がいない。
それだけでも俺の生まれ育った所とは本質的な所から異なっているといえよう。


そして俺はこの冬木市で行われている「聖杯戦争」とかいう物騒な祭りの参加者として呼ばれたようだ。こっちの意志とは関係無く。


この祭りのルールは簡単だ。
魔術の秘匿を守る、一般市民への被害を出さない。
この二つさえ破らなければどんなことをしたって良い。
不意打ちしようが騙し打ちしようが人質取ろうが徒党を組もうが裏切りしようが構わない。


正しく何でもあり。
パッと聞いただけでも随分と物騒な話である。
要は少数人で行う現代風の戦争とも言えるな。
俺はその特別枠で呼び出されたってわけだ。



「つってもな〜……
聖杯なんて手に入れた所でナンボの話よ?」



俺は聖杯とやらで叶えたい願いなんか無いし、訳の分からない殺し合いに巻き込まれて御陀仏する気もさらさら無い。



「まぁ、自分の事は後で考えるとして……」



そう言いかけた所で、女の子が小さく呻き声を上げた。



「う…うぅん……」

「お、目が覚めたかい?お嬢…ちゃん……」



続きを言おうとしたがそれは驚愕によって断念された。


此方を見つめる少女。子供特有の丸みを帯びた顔、可愛らしい容姿。
別段恐ろしい点など無いのだが、俺はこの子のある一点に戦慄を覚えた。



少女の目には感情が宿っていなかった



人形みたいに大きな瞳には本当に人形のように光が宿っていない。
中身の無い空っぽな色をしていたのだ。
まだ十歳も行ってない子供がこんな目をしているという事実が恐ろしかった。


あの蟲風呂に放り込まれてたんだから無理も無いだろうけどよもやこれ程までに心が磨り減っていたとは。



「あなたは…だれ?」



少女の問いかけで我に帰り、すぐさま笑顔を浮かべる。
とはいえ、それは貼り付けたような愛想笑にもならないような表情だった。


だけど、そうでもしないと、この子に降り掛かった理不尽に対する怒りを隠せそうになかったから。



「俺かい?俺はお嬢ちゃんのサーヴァントのイーターだ。
名前は藍沢勇希(あいざわゆうき)。よろしくな」

「いーたー?ゆーき?」



おぼつかない言葉運びで名前を吟味する少女に、俺は出来るだけ優しく微笑みを浮かべようと懸命になりながらも頷いてみせる。


俺が敵でないと判断したのか、お嬢ちゃんは一度ホッとしたような表情を浮かべた後、キョロキョロと辺りを見回し始める。



「ここは……どこですか?」

「偶々見付けた誰も住んでないっぽいボロ屋だ。」

「どうしてわたしはここにいるの?」

「俺が連れて来た。何かお前さん蟲の中に埋れてたから」



“蟲”という単語で何かを思い出したのか、お嬢ちゃんは怯えた様子で問い掛ける。



「お…お爺様は?」

「お爺様?」



お爺様ってだれ…。って、この子が置かれてた状況からして考え得るのはあの蟲爺だよな。



「もしかしてあの薄気味悪いハゲ爺のことか?」



試しに聞いてみると、お嬢ちゃんは恐る恐るといった様子で頷く。
その肩は若干震えている様にも見えた。



「消してやったぜ。跡形も無くな」

「え……」



お嬢ちゃんは目を丸くして、惚けたような顔をする。
まるで信じられないことを聞いたかのような……


あれ?何かマズったのかな?もしかしてあの爺って殺しちゃマズかったのか?



「どうして……たすけたんですか?」

「へ?」



思わぬ問い。
何で助けたかって言われるとな〜……何でだろうな〜?
その場のノリ?目の前にいた爺が気に食わなかったから?


まぁ一番しっくりするのは同情したからなんだけど、それも何か違うんだよな〜。


そうなると一番しっくりするのがは……



「何となく……かな」

「………」



うわ〜自分で言っといてなんだけど無いわ〜いい加減にも程があるわ〜。


とはいえ他に言い表しようが無いのも事実だ。
こんなちっこい女の子が酷い目に会ってて同情したのも事実だし、目の前にいた爺が気に障ったのも嘘じゃない。
そういう意味ではマスターだからって言った方がまだ納得のしようもあったか。


だが、俺が訂正する間もなく、少女はただ「そうですか」と呟いて黙り込んでしまった。
いやはやコイツは思った以上に重症だねぇ。


血色は悪くて目は虚ろ、おまけに無気力と来た。
これじゃぁまるで死人と喋ってる気分だ。
そういえばアーコロジーにもいたなぁこんな人達。


生きる気力も失くして何もかもを諦めた抜け殻。
この子の場合は色々と状況が違うと思うけど今の状態は正に前の世界にいた人達と全く同じだ。


まさか別世界に来てまでこんなになった人間と合う羽目になるとは思わなんだ。


さて、どうしたものか……やっぱり目の前にスッカラカンになった人物がいて、それを放っておくというのは寝覚めが悪いし自分のマスターがスッカラカンな状態っていうのも気分的に面白くない。
だからと言って何処の馬の骨とも分からん俺に何が出来るのかと言われれば答えようがない。
まぁそれはこれから考えて行けば良いことか。俺達が敵に殺されなきゃの話だけど。



「敵さん以外にも解決すべき問題が出来るとは。
前途多難とはこの事かね〜」


-3-
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