小説『fate/zero〜君と行く道〜【改訂版】』
作者:駿上()

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3話 明かされる真相





悲劇とは誤解と勘違いの産物だ
ちょっとした価値観の違い
ほんの小さな恨みや妬み
それらが合わさる事で
悲しき物語は紡がれていく










お嬢ちゃんのメンタル面の改善を決意した俺は、とりあえずスッポンポンな状態の彼女に何か着せるべく自分の身体を形成する『オラクル細胞』を分離させ、ちょうどいいサイズの下着とスカートとシャツを作って手渡した。
我ながら器用なもんだ。



「とりあえずこれ着てけろ。
流石に真っ裸ってのは色々と拙いからさ」

「はい。わかりました」



素直に答えてくれるのは嬉しいんだけど終始無表情ってのはいただけない。
こんな事ならもっとツッコミどころ満載な服でも出すべきだったか?
いや、そんな事した程度じゃ眉一つ動かしゃしないだろう。
寧ろ変な服来せた自分に対する羞恥心で自爆するのは目に見えている。


思考を巡らせている内にお嬢ちゃんは着替えを終えて此方に向き直った。
因みに着替え中は目を逸らしてましたよ俺は。
幼女とはいえ女の子の裸を見るのはダメでしょ普通に考えて。


うん?さっきは裸のまんま会話してたのにって?
ナンノコトカナー?キコエナイナー。



「そういやさ。お嬢ちゃん名前は?」

「?」

「だからお前さんの名前。なんていうの?」

「……さくら。まとう さくら」

「桜か。そんじゃ桜、いきなりで悪いんだけど。ちょっと失礼するよ」



唐突に名前を聞き出し、話の脈略の無さに首を傾げているお嬢ちゃん改め桜をがしりと両腕で抱き締める。
言っとくが邪な意味でハグしたんじゃないぞ。これにはれっきとした理由があるんだ。


そんなことは全く知らない桜は少しだけ驚いたように見えたものの暴れたりせずにただじっとしていた。
ここで身じろぎでもしてくれれば良かったんだけど、その手の感情も抜け落ちていると見て良いだろうなこれは。


まぁ分析も程々に作業を続ける。
『ただ幼女をハグしてるだけじゃねえかこのロリコン』とか思ってる奴は後でシバき倒してやるから待ってろ。
パッと見ただけじゃ分からんだろうけども、実際にはかなり凄いことが起こってたりする。


桜は俺に抱き締められてる体勢で視界ゼロだから見えてないだろうが、今俺の身体は所々から青い光を放っている。
正確に言えば俺の身体の至る所に光る電子配線みたいな模様が浮かび上がってるんだが。


もちろんこれは意味も無くピカピカ光ってる訳じゃない。
そりゃもう相当に繊細かつ壮大な作業が行われている真っ最中なんだよ。


それはオラクル細胞の侵入だ。


桜自身、何が起きているのかさえ分からないほど密かに俺の身体を構築する細胞が桜の身体を巡っている。
そうする事で彼女の身体データを読み取っているのだ。


その過程で、俺は予想通りの物を発見した。
それはあの石部屋にいたのと同じ蟲だ。
体内のそこら中にあの蟲が侵入している。こうして見ると酷い状態だ。
それら一つ一つを、オラクル細胞で捕食し、分解していく。


そして、恐らく蟲が侵入した事による影響と思しき身体の損傷もゆっくりと修復していった。



「はい。お終い」



大方の処置が終わり、オラクル細胞を回収した所で桜を解放し、すぐさま捕食した蟲の情報を解析していく。


オラクル細胞は捕食したモノの情報を吸収して更なる変化を遂げる高い学習能力を持っており、例えUFOだろうがダークマターだろうが簡単にそれらの特性を取り込める。
ここで補足するが、変化と言ってもオラクル細胞自体のDNA構造は全く変わらない。
悪魔でもオラクル細胞が結合の仕方を変えて別の物質に擬態してるようなものなのでオラクル細胞そのものは終始初期状態のままなので悪しからず。


細かい説明はともかく、オラクル細胞は兵器を食えばその構造や原理を学習し、コンピューターや本を喰えばその中に保存されているデータを吸収し、人間を喰えばそいつの記憶を完全とは言えないながらも取り込める高い情報吸収能力を有しているのだ。
そのとんでも性能で解析した結果を脳裏に並べて行く。


どうやらあの身体は蟲の集合体であったらしく、爺自身の身体はとうの昔に失われていたようだ。
喰ったのがちゃんとした肉体じゃなかったせいか取り込めた情報も結構ちぐはぐだがそれでも膨大な量の記憶や知識を内包してたのには驚きだ。


俺が喰ったあの爺の名前は間桐 臓硯……否、マキリ・ゾォルケンか。
冬木聖杯戦争を創始した当事者の一人で、元々はこの世の悪を根絶するために第三魔法の魂の物質化とやらを再現して不老不死になろうとしてたらしい。


その過程で蟲の身体で仮初の不老不死になり、目的の成就のために生き続けて五百年。
長い時の流れで御立派な理念も腐り果ててただの外道に成り下がったってわけだ。


同情出来なくもないけど結局の所ただのクソ野郎だ、早めに始末で来たのは幸運だった。
しかも、こいつの記憶を吸収したおかげで結構な情報がいくつか舞い込んできた。


一つは今回の聖杯戦争に参加しているマスターの情報。
敵方の情報は少しでもあった方が良いからこれは素直にありがたい。


さっそく一人目の情報。


エントリーNo.1番!遠坂時臣!なんと桜の父親だ。


聖杯御三家の一角、遠坂家の現当主で第一印象はザ・貴族様って感じ。
克己心は凄まじく、元々魔術師としての才能は凡庸でありながらも人一倍の努力によって高い実力を身につけた誇り高い男。
だが、爺はコイツを信念が突き抜け過ぎてて自身の行動や方針を自省しなかったり他人の心情を理解出来なかったりで、肝心な所で足下をすくわれる愚か者と見ていたらしい。
つまりとんでもないうっかり屋さんってことだ。


魔術師の一子相伝というしきたりから桜を魔術師には出来ず、だからと言って高い素質を持った桜を放っておくことも出来なくて悩んでいた所を爺に付け込まれた結果、桜を間桐の家に養子に出した。
要するに、コイツこそが桜を地獄に突き落とした張本人ってわけだ。


本人はそんな事になるなんて知らなかったみたいだが、それはそれで罪だろ。
ただ聖杯御三家とかいう由緒正しい御家柄ってだけの理由で内情をよく調べもせず、あんな悪意と害虫を押し固めて作った様な爺に娘をみすみす渡しやがった時点で巫山戯んなって話だ。
とりあえずこいつは敵だな。



エントリーNo.2番!時臣の弟子、言峰 綺礼!


聖杯戦争の監視役を務める聖堂協会に属する男にして現監督役の息子。
そして対魔戦闘員「代行者」でもある。それも凄腕の。


第一印象は良く分からないとしか言い用が無い。
元々情報が少ないし残ってる記憶からも人物像を上手く割り出せない。
因みにコイツは時臣の野郎とグル。監視役ともグル。
この時点で聖杯戦争のルールもへったくれもあったもんじゃないな。


なにはともあれ、こいつはマスターの中でも単純な戦闘力だけなら結構なモノと見て良いだろう。
まぁ悪魔でもマスターではの話だが。



エントリーNo.3番!間桐 雁夜!


一応は桜の身内の一人で蟲爺の息子。
それなりに魔術の才能はあったそうなんだが、間桐の家の魔術、というよりも魔術そのものを嫌って家を飛び出していたらしい。


まぁ記憶を解析してく内に気付いたんだが、魔術師って腕前上げてく毎に人間性が欠如していってるように感じるし、それを嫌がったのかな?
それに間桐の魔術は確かに色々とアレだから毛嫌いするのも頷ける。


ただ、雁夜が間桐の魔術を受け継がなかったせいで跡取りとなる者がいなくなった結果、桜があの地獄に放り込まれたわけだ。
しかしこれは本人にも予測出来ない事態だったんだろうし責めるのはお門違いか。


時臣と違って調べれば事前に悲劇を防げたって問題でも無いし、それ以前に、もし雁夜がいたとしても桜が養子に出される可能性は大いにあったように思える。


何故ならば爺は桜を時代の間桐の後継者を産む為の道具にしようとしていたのだから。


桜の母型の血筋には産んだ子供の魔術的素質を限界まで引き出す力が備わっているらしく、桜自身が持つ類稀な才能もコレの恩恵によるモノが大きいのだとか。
その血を受け継いでいるが故に桜もまた自分の子供に高い才能を与える力を有していると思われ、爺はそこに目をつけたようだ。


胸糞悪い話だが、要約すれば桜は自分の意志に関係無く、まるで優れた競走馬からサラブレッドを産ませるかの如く、爺の駒となる間桐の子供を産むだけの胎盤として扱われる予定だったのだ。


それを阻止すべく、雁夜は聖杯を得る事を条件に桜の解放を蟲爺に要求し、自分の命を削る代わりに蟲の魔術を行使出来るようにして聖杯戦争に参加したらしい。


と言う事は、雁夜の目的は俺の手で達成されているって事になる。
ならば、雁夜とはすぐにでも接触したい。後で探しとこう。



エントリーNo.4番!ケイネス・エルメロイ・アーチボルト!


九代続く魔術の名門アーチボルト家の嫡男であり、様々な功績を作り上げたまごうことなき天才魔術師。


魔術師の総本山である「時計塔」とやらに所属しており、そこで講師も務めてるんだとか。
参加の動機は恐らく武功が欲しかったのだろうと言うのが爺の見解だ。
俺の印象としては時臣の野郎とはまた違った方向の典型的な魔術師って所だ。


優秀故に自尊心が高く、卓越した魔術師である事を優越と信じて疑わない。
そのせいか評判は良いモノではない。
実力だけで言えば魔術師の中でも頭一つ抜きん出ていると思うんだが。
爺からしてみても強いけど御しやすい相手程度にしか認識されてなかったようだ。
とはいえ魔術師としての腕は超一流だから警戒しとくに越したことはないだろう。



エントリーNo.5番!衛宮切嗣!


魔術界では名の売れた魔術師専門の殺し屋である「執行者」。
今回の聖杯戦争には聖杯御三家最後の一角であるアインツベルン家に雇われて参加したとのこと。


腕前は高いんだが、それ以上に魔術師が本来ならば忌み嫌う筈の機械や近代兵器を使い、更には不意討ち、人質、騙し討ちとターゲットを始末するためなら手段を選ばない外道。


話ではターゲットの乗る旅客機を他の乗客ごとミサイルで撃ち落としたとかいう話まであった。
流石にこれは盛った感が否めない気もするけども真偽は問うまい。


最高に心外だが、コイツに対する爺と俺の認識は一致してる。


『外道に堕ちた人格破錠者』ただそれに尽きる。
お仕事熱心なのは分かるが、届いてる情報を鑑みても真っ当な精神の持ち主じゃない。


殺す事に躊躇わず、犠牲を出す事に躊躇しない。
これを外道と言わずして何と言うって感じだな。
何はともあれ、コイツに桜の存在を知られたら結構ヤバイな。真っ先に狙われる事は疑い用が無い。
コイツへの対策も兼ねて防備は少し強めに固めておく方針で行くか。



とりあえずマスターに関する情報はざっとこんなモノだ。残りの二人は分からん。


抜け落ちてる部分の記憶だからか、その辺の適当な奴が選ばれたのか、その辺のだろう。



気を取り直して第二の情報、聖杯戦争の詳細だ。


なんでも、聖杯自体は実体を持たず、魔術回路を持つ存在を「器」としてサーヴァントの死により、その魂が溜まった「器」に降霊することで現われるんだとか。


ただし器は願いを広義的に見て叶える「願望機」としての役割も確かに持っており、儀式の完成、つまりはサーヴァント5体以上の死亡によってもたらされる膨大な魔力を用いれば大抵の願いは叶えることが可能なのだという。


聖杯戦争の実施に当たっては、柳洞寺とかいう寺の円蔵山地下に隠された大聖杯と呼ばれる巨大な魔法陣により、冬木の土地の霊脈が枯渇しない程度に少しずつ魔力を吸い上げて儀式に必要な量を溜める必要がある。


要するにはこの大聖杯がある限り聖杯戦争は続くと言うこと。
勝利者に与えられる聖杯はさしずめ電話の子器の様な物か。
パッと聞いた感じだとよく分からないが、よくよく考えてみればとんでもないシステムを構築したもんだ。


願いを叶える、奇跡を強制的に起こすなんて代物をインターバルがあるとはいえ永続的に精製し続ける。
この仕組みを作った魔術師はどんな化物なのか想像もつかない。


だが、その名も知らぬ魔術師が作ったシステムも今や変わり果てているようだが……



三つ目の情報、一番ヤバイ事実が発覚した。


それは、聖杯が汚染されている可能性があるということだ。


前回の聖杯戦争で、アインツベルン家が勝利に固執するあまりにルールを破り、俺と同じような例外的なクラスでもう一体のサーヴァントを召喚した。


その名は「アヴェンジャー」復讐者の英霊。


何でも、とんでもない悪魔を召喚しようとして失敗した結果現れたんだとかで、サーヴァントとしては宝具も持たず力も人間並みという貧弱さしか持たないポンコツを呼び出してしまったらしい。


当然のように真っ先にリタイアした訳だが、どうやらソイツは大した力なんて持たない代わりにソイツ自身が毒物みたいに悪質な何かだったらしく、その魂を取り込んだ聖杯に何らかの異常が起きた可能性があるのだという。



「なんだかなぁ……」



入手した情報を整理し終えて一息つく。
ちぐはぐな情報とはいえ五百年分の記憶。
それも密度の濃すぎる驚愕の事実ばかり。
俺の世界の常識に当てはめて処理出来たならもっと早く済んだだろうが、魔術とか言うものが根付いてる世界なんだから一から十まで納得するにはちょっと無理がある。


おかしな誤解をしないために慎重に分析しなければならなくなるのは骨だ。
かくいうアラガミなんて化物が蔓延る俺の世界もこっちの世界からしてみれば大概なんだろうが。


ともかく方針は決まった。
桜を守りつつ聖杯戦争をとにかく生き残って聖杯を確保する。ただし使用はしない。
そして、聖杯が使用される危険が無くなった所で今回の聖杯と大聖杯を残さず“捕食”する。


そんなことをすれば汚染されたナニかを浴びる羽目になるが、こちとら伊達に神と名のつく連中を喰い尽くして来ちゃいない。大抵のものなら喰いつくせる筈だ。


だが、無傷で済むとも思っちゃいない。
どんな具合に汚染されてるのか分からない以上、相応のダメージを負う覚悟はしといた方が良さそうだ。


まぁかなりざっくりしてるが今はこんなもんで良いだろう。
動き出すのは夜ってのがセオリーらしいので、俺は日が沈むまで桜と戯れる事にした。
大したリアクションは期待してないけども。


あんな地獄を味わっていたとはいえ、本来ならばまだ遊びたいざかりの少女なのだ。



「ま。助けちまったからには守ってやらないとな……」

「なにかいいましたか?」

「いやいや。何でもないよ」



聖杯に託す望みなんてこれっぽっちもありはしないが、この女の子のために戦うってのも悪くはないかもしれない。


今でこそ人形みたいに無表情なこの子が笑ったらどんな顔をするのか、それなりに興味もある。
それに、同じように(・・・)物扱いされた境遇を持ってる手前、放っておくってのも気に食わないしな。


今回も勝手気儘に頑張ってくとしますかねぇ〜。

-4-
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