小説『ソードアート・オンライン〜Another story〜』
作者:じーく()

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15話 銀髪の彼




























ビックリ仰天。

正に、その言葉が相応しい。

………そのレイナの顔は。

だが、今はそれより……。


「……うるさいぞ。」


そう、至近距離での咆哮?いや、大声だ。

まあ、リュウキは素早く耳を塞ぐ事が出来ていたが、

それでもやはり耳には響いてきたようだ。



「ご……ごめんなさい!でも……そんなの聞いちゃったら……。」


【そんなの】……と言うのは勿論この世界の宿事情。

とりあえず、知らないのは仕方ない事だ。

それが、初心者ならなおさらだ。

「………まぁ 知らないのは仕方ない。だが、本当だ。……現にオレが寝泊りしている部屋はお茶・ミルク・ハーブティの飲み放題付き、ベッドだってソコソコにデカイし、NPCの人たちも良い感じの人だ。キッチンもある。それに一応風呂だってついて……「!!!!」ッ!!」


………本日リュウキが、一番驚いた事が起きた。

レイナとの距離はまだいくらかあった。

だが、……レイナに一瞬で間合いを詰められたのだ。


それは目を見張る程の速度……。

説明をしていて、油断していたたからかもしれないが……。

良いわけにはしたくない。

……単純な話、生半可な速度だったら目を見張る事は無いからだ。



「今の……ほんとのほんと!?」



“じり……じり……。”



獲物を狙い定めているような表情……。

……実は素人に見えて相当な手練れでは無いか?


「あ……ああ。本当だ……。その【本当】がどの部分の事をさしているのかは、わからないが……今オレが言った言葉にに嘘偽りは無い……。」

レイナのその姿に……リュウキは、僅かに動揺してしまった……。













リュウキのその言葉を聞いてレイナは、心躍るようだった。

……この世界で唯一本物だと思えるのは【睡眠】。

彼女はそう考えていた。

厳密的に言えば、彼女と共にいた……【ひと】の影響もあるのだろう。
 
大好きだし、信頼していたし、間違いないとも思っていた。

この世界は何もかもが幻想。

五感の感触……即ち歩く・走る・話す・食べる……そして、戦いだってそうだ。

それらの動作は、SAOを動かすサーバーが演算したデジタルコードに過ぎない。

現に……現実の自分の体はピクリとも動かないのだ。

だが、睡眠は違う。

脳を使い ゲームをする以上は、休める意味でも必要なものだ。

だから……せめて 宿屋でくらいは熟睡したい。

だけど……そうも言ってられない。

おねえ……。

……信頼している大好きな人。

その人と……

あの時……ナーヴギアをセットしてしまった。

そう……誘ったのは……自分だった。

毎日……頑張ってるから、少し……少しでも息抜きをしてもらいたかったから……。

とても面白いって聞いていて……。

だから、こんな事になってしまった……。











自分は大好きな人よりは少し長くは寝てられるけど……

それでも、その時の後悔で……飛び起きるように目が覚めてしまう。

そして、視界に入ってくるのは先に目が覚めていたひとの姿だった。

……2人部屋に泊まっていた時の事だ。

安心さしてくれるように……してくれてたけど、それもとてもつらかった。だって、自分のせいなんだから……。

だから……せめて、役に立とう。

そう思って頑張って付いていった。

だけど……。

………………私はあの時……に。

今は、その事は良い……。

時間は戻らないのだから……。








うん。今はその話とは違うよね?

私は……やっぱり私だって、女の子だから……。

せめて、泊るところにはたとえ仮想世界だったとしても……

シャワーくらい部屋につけて欲しいって凄く思う。

そう……それが虚像……、幻想のシャワーでもいいから……

あの暖かなお湯が頭から降り注いで………全身をつつんでくれる。

湯船に入ったお湯に入り込んで……。

そして、湯船の中で……思い切り手足を伸ばしたい。

それはきっと……大好きな人だって同じだって思う。





【死ぬ前に……お風呂入りたい……】




……と言っていた。

私も死の覚悟は出来ているけど……その言葉は聞きたくなかった。

だって、死んで欲しくないから……。

でも、聞きたくなくっても。その入りたいって言う気持ちは激しく同意する。

……そんな切なる願い。

それを……叶えてくれる救世主がいた。

目の前の白銀のフードをかぶった……片手剣士の言葉の中に……。















「…………もう一度教えて。」

……鬼気迫る。

その表情に、その言葉がしっくり当てはまる。

「………多種類の飲み物無料か?」

「そのあと。」

「……ベッドもデカイ、それにキッチンつき……か?」

「そのあと……。」

「ん……風呂付……?」

「それだっ!!」

ビシッ!っと指を突きつける。

「あっ!あなたのお部屋……いくらなの?」

「ん……確か85コル………だったな。」

リュウキは少し考えてそう説明した。

金額を聞いてレイナは自分の財布事情を思い出す。



―――……間違いなくいける!



レイナは小さくガッツポーズをすると、

「ねっ!その部屋!後何部屋空いているの?場所は何処に?お願いっ!私も借りたいからそこ案内してっ!お願いっ!!」

レイナは……別の事も同時進行で考えていてた。


――……この話を気に、関係が元に戻ってくれたら……良いな。きっと、聞いたら凄く喜ぶと思うから。


そうも思っていた。

だけど………。

「ああ……悪いが、その部屋は、丸ごと借りているから空き部屋なんてものは無い。それにこの手の宿は、もう結構出払っているから、他の物件も厳しいと思う。」

「えっ………。」

リュウキのその言葉は天国から一気に奈落へと突き落とされたような感じだ……。

そして、擬音をつけるようだったら……。




“がーん……がーん……がぁぁーーーん……”




と言った具合だろうか?

膝から奈落へ……崩れ落ちそうになるのを必死に踏ん張った。

「その……そのお部屋………。」


レイナは……口ごもりながらだが、凄く必死に何かを話そうとしていた。

……リュウキはその言葉を聞く以前に大体の察しは着いた。

女性と言うものは、そう言うものなんだろう。

自分にはよくわからない。

だが。仕事柄、少しなら女性と接することがある。

そして、……爺やに言われていた事もある。

曰く紳士の嗜み?……らしい。

はっきり言って、興味なんかなかったんだけど、爺やの話だ。

頭の上がらないたったひとりの家族からの……。

僕の親からの言葉なんだから、聞かなきゃと思って聞いた。

ほんとによくわからなかったけど……。



とりあえず、説明をしよう。


「……オレは、もうそこにもう1ヶ月近く泊まっている。確かに、快適な環境だが、代わってやるのに問題はない……が、仮部屋システムの最大日数……10日分の料金。今日払ってしまったからな。それにキャンセル不可能なんだ。」

「ううっ………。」

レイナは再び奈落へ……膝から崩れ落ちそうになる。

それは希望が足元から崩れるように……だ。

他の場所を探そうか……とも考えていたが、

彼が言う以上……

おそらくその条件の良いところは、すべて埋っている事は間違いないって思える。

ここは、迷宮区にもっとも近い街であり 十数人単位で詰め掛けている。

……現にあの場所にでさえ……40人近くいた。

そして、あれで全員だとは思えない。

それと……別の街へと引き返す……のも手だけど、

この街周辺は1層の中でのフィールドで難易度が一番高い。

それを1人で戻るのは……はっきり言って危険なんだ。

そして、戻ってしまえばBOSS攻略の時間にこの場所へ絶対に戻れそうに無い。


―――それに約束を反故にすること。


……そんな事したくない。

だって、そんな背中をずっと見てきたから……!

となると……やっぱり1つしかない。

たった1つしか……。

現実なら……有り得ない頼みだ。それこそ天地がひっくり返ろうとも。

でも……ここは言うようにデジタルの世界。

多少の事は……ぐっと堪えてでも。




そして、レイナは……頭を下げた。




「お願いします……その……お風呂、貸してもらえません……か………。」




……随分時間が掛かったお願いだな。

別に問題は無い。

そう判断した。

「別に問題は無い。他のプレイヤーをいれるな、と言う制限は無いしな。」

だから、リュウキの方はあっさりとOKを出す。

でも その速さにレイナは……。

(……仮にも女の子が、お風呂……頼んでるのに、何でこんなフツウに……?)

疑問に思っていた……。

この人はフードもかぶって、素顔も晒してない。

まあ……それはお互い様だが、何も知らない人の頼みをあっさり聞いてくれるところを見ると……。

悪い人じゃないのはわかる。

あの会議で見た姿勢だってそうだ。

「その……ありがとう。」

レイナはまだギコちなかったが、頭を下げ、礼を言っていた。












そして、その【夢】の場所へ案内をしてもらった。

彼の泊まっている場所と言うのは、トールバーナの南東の隅にあった。

余程情報に精通していなければ、発見は難しいと思える。

………庭もとても綺麗で、小さな池がそこにはあり、鮮やかな錦鯉が泳いでいた。

そして、老夫婦が笑顔で迎え出てくれた。

それも彼が言うとおりだった。

「どうぞ。」

リュウキは、そのまま部屋へ招待した。

……自宅と言うわけじゃないから、そう言うのもおかしいような気もするが……

まあ、いいだろう。

「あ……ありがとう。」

――……やっぱり、少し不安かも……。

いやにあっさりしているこの人を見ていて、

実は慣れているのではないか……?っと思ってしまったりしている。

そう……女の人を部屋へ連れ込んだりしている……と。

でも、そんな疑惑も 彼の部屋を見て一気に弾けとんだ!


「ひ……広いっ!!な……なんで??私……の部屋……これの十分の一くらい?いや……もっと?なのに、たった35コル差?安すぎるでしょ……?何か……裏がありそう……」

パニックにおちいった?

「……少し落ち着け、ここは一応ゲームの中。現実じゃないし 裏も無い。ただ、オレは見つけるのが上手いだけだ。こう言った物件も重要だ。覚えておくと言い。」

そう言うと、ソファにゆっくりと座る。

そして、

指をさし……といってもさすまでもないようだ。

レイナは、その話の後はある場所に釘付けになっているのだ。

そう……【Bathroom】のプレートが下がったドアだ。

現実なら、そんなプレートかかってなんかいないだろう。

少なくとも自宅ではない。

その風変わりな書体のアルファベットが……レイナには魔術的な引力を放っているように思えた。

引き込まれるのだ……。



「……物欲しそうに見なくても、風呂は逃げたり消えたりしない。……好きに使うといい。脱衣所に必要最低限のものはある。」

視線を外そうとしないレイナにそう言った。

ほっとくと暴走しそうだとも思えたんだ。

「あ……う、うん。」

そして、リュウキは 装備ウィンドウを開き、武装解除をする。

この場所で危害を加えられる事態はないからだ。





そして、フードも解除した……。




まぁ、レイナはいるが、特に問題ないだろうと思ったようだ。

表情……というか、素顔をすっぽりと隠せるのは好都合だけど、視界も極端に悪くなる。

慣れるまでに時間が掛かったし。

……と言うか、いつまでもつけているのは鬱陶しいからと言う理由が一番!


「ふぅ……。」







“ふわっ………。”







頭をふり……簡単に髪を整えた。







「ッ……!」




その姿を見て……レイナは驚いた。

顔立ちは物凄く整っている。

……綺麗な銀色の髪。

悪く言えば……童顔。

でもそれ以上に美少年……という言葉がしっくりきた。

そして、ある事を思い出す……。





笑いながら本人が情報を教えてくれた。

鼠のアルゴの情報 【銀髪の勇者だ】。

そう、キリトに彼が言っていた情報だ。

あの時は、……【横にいた人】に凄く集中していたから……頭に入っていなかったようだ。





正直……驚いていた。





こんな子が……慣れている?女に?その扱い方とかに?

普段から遊んでるの?

年頃の子達見たいに?

そしてそれらが頭に流れた後……

直ぐに出てきた言葉が【ありえない】

そして何よりも。【あってほしくない】だ……。

こんな人が……。


「……?どうかしたか?」


リュウキは首をかしげた。

レイナの驚きように理解しきれなかったからだ。



「いっ……いやっ!なんでもないよ?あっ おっ…お風呂っ かりますッ!」




“ドタバタ………バタン………ッ”





素早く扉を開け……中へと消えていった……。








「………やれやれ。忙しい奴だな。」

リュウキはやれやれ、……とため息を吐いていた。


















思わず逃げるようにして、入ってしまった……。

本当にビックリしたんだ。

あのフードの中には……あんな素顔があるなんて……

可愛い……とカッコいい……。

とても贅沢な……組み合わせで………。

「わ……わたし何考えて……っ!あっっ……!」

目の前に広がる空間を見て……。

………また、驚いた。

目の前に広がる空間に……。

それを見たら……さっきの事も忘れ去っていった。






「………すごっ………。」






思わず小さな声を発してしまった。

この部屋だって相当に広い。北側の半分は脱衣スペース。

床には分厚いカーペットが敷かれて壁に無垢材の棚が作りつけられている。

そして、南側半分は石を磨いたタイル敷き。

面積の大部分を船のような形の白いバスタブが占領していた。

……そして、滝の様にお湯が上から落ちてきている。

シャワーが無くても良いほどの水量で、それでいて湯船にお湯も張っている。

そして、オーバーフローして、湯は排水溝へと流れていっていた。

ここは、中世ヨーロッパをモチーフにした荘園屋敷。

そこに、こんな大掛かりな給湯設備?

でも……そんな事チクチク言うつもりは無い!

限りなく速いスピードで、≪装備フィギュア≫の武器防具全解除ボタンを押す。

今の今までかぶっていたフード付きケープ、そして胸を覆う鎧、両手の長手袋と両足のブーツ……そして、腰の武器。……おそろいにした,……真似をした……細い剣が一気に消滅。

そのフードの中は栗色のショートヘアが露になる。

そして、残ったのは七分袖のウールカットソーとタイト皮製ロングパンツだけだ。

そうすると、さっきまでのボタンが、≪衣類全解除≫に変わっているので、それを押す。

すると、上着、パンツが消滅。

簡素な綿のの下着二枚が僅かに残存する。

「ふう……。まあ……大丈夫だとは思うんだけど……」

レイナは、一瞬扉の方を見た。

……覗かれているような気配はない。

「そう……だよね。あんな可愛い子が……ううん!」

首を振る!

そして、更に変化した≪下着全解除≫ボタンを押す。

それらの操作でアバターである自身の体は完全な無装備状態になり……

仮想の冷感が肌を冷やりと撫でていた。

そして、直ぐに風呂の方へと入る……。

まずは左足から……

「ッ……ああ……。」

つけたところから……感覚信号が頭へと直撃したような気がした。

そして……上から落ちてくる滝の湯に頭をあて……

全身満遍なく温まったところで……。





“どばしゃーーーん!”





音を立てながら湯の中へ……。




「うあああ………。」




まるで……悶えているような声を出してしまっていた。

堪えることなんてできない……。

確かに、ナーヴギアと水分の相性もあるのだろうか。現実と違ってお風呂そのものを再現なんて出来ているわけじゃないが……

だけど、【入浴している感覚】が脳へと送り込まれている。

そして、何よりも……

眼を閉じて……手足を伸ばしてみると些細な違いなんてなんとでもない。

入りたくて入りたくて……たまらなかったのに……

そして、叶ったのがこんな超高級のお風呂

宝くじが当たる確立だって思える。

こんな所で手足を伸ばせるなんて……。

本当に……夢のようだ。




―――ああ……おねえちゃんじゃないけど……私も思い残す事ないかも……。




そう思ってしまう。

この数日、凄くつらかった。

おねえちゃんと……別れて、

危ない道も何度もわたり……。

無茶もして……。

それでも、私も 貴重な時間が失われて行くのも嫌だった。

でも……1つだけ思うところがある。

このお風呂もそうだし、食べ物だってそう。

……現実の世界でこれ程までにもの恋しくするだろうか……?

ありふれた毎日のお風呂……。

でも、恋しくて仕方が無い仮想世界のお風呂……。

いったい、今の自分にとってどちらが現実なんだろう?

わからないし 答えなんか出ないけど……とても大切な事だと息を詰めていた。

「お姉ちゃんにも……教えてあげたい。……でも。」

今はとても天国気分だけど……。

やっぱり……寂しい。

お姉ちゃんと一緒だったらどんなに………。

「ううん……明日……明日話してみよう……。もう……10日以上話をしてない……けど。」

不安はあるが、彼の言うとおり。

心を決めていた方が良い。

そう思っていた。








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