24話 逃走
第2層・ウルバス
キリトと別れたリュウキはそのまま主街区のウルバスに向かった。
そこは直径300mほどのテーブルマウンテンを外周部だけ残して丸ごと堀りぬいたような街だ。
南のゲートから中へ入ると、その街特有のBGMでつつまれる。
次の街次の街で様々なBGMがあるが、大体は同じ感じだ。
だが、層と層のBGMは格別に違うものがある。
なんといえばいいか言葉は中々見つけられないが、
【新しい層にきた!】と言う事実を新たにさせるのだ。
「まぁ……βの時に来たから、今はそうでもないがな。」
そんな気持ちもリュウキにとっては、そこまででもないようだ……。
そして、あたりを見渡す。
当たり前だが、プレイヤーは誰一人としていなかった。
それもそうだ、つい数十分前に第1層のBOSSを倒してきたばかりだから。
いるとすれば、キリトくらいのもの。
後はアクティベートをすれば入ってくるだろう者たちだけだ。
そして、アクティベートはたとえ自分でしなくとも、フロアBOSSが滅べば2時間後自動的にアクティベートされる。
だから、自分でしなくてもいいのだが……。
「まぁ……また、情報独占とかなんとか……っていわれるもの嫌だしな。……まあ、間違いなく疑われるからそのあたりはしっかりしないと……か。」
リュウキはそう呟いた。
だが、厳密に後1時間以上は時間がある。
……あの時BOSS攻略に参加していた連中は全員リュウキが2層に来ている事を知っている。
そして、アクティベート化をするともあの時に言ったのだ。
その上でしない……と言う事は、先刻のように、大勢の恨みや反感を買うだろう。
……流石それは、嫌を通り越す事。
「さて……」
リュウキは転移門……まあ、ただの石積みのアーチだが、それを見つけると、右手を伸ばした。
すると、その場所に鮮やかなブルーの光があたりを照らし出した……。
そして、数秒たった後 転移し かなりの人数のプレイヤーがこの場所へ集まってきた。
NPCたちの演奏があたりに響き渡る……。
だが、もうそこにはリュウキはいなかった。
「あれ……?ここが開いたって事は誰かがアクティベートしてくれたってことのはずなんだけど……。」
「だよな?なんでだ?」
そんな会話、そしてきょろきょろとあたりを見渡すプレイヤーが増えてきた。
……言動と行動で元βだと言うのがわかる。
「……そういえば、βのときもあったな。開通記念……NPC達の演奏を奏でるのが。……最後に見物をしていたのは確か、8層……だったか?」
以前も言ったがあのβテストの時は、再度BOSSに挑戦と言う変わった仕様もできるようになっていた。
開放されたのはリュウキの16層までだが、そこまで来るプレイヤーは殆どいないのだ。
なぜならば、来たところで直ぐに死んでしまうからだ。
自らの強さに合わない層だから仕方がないのだ。
……1000人中のベテランMMO経験者の連中が唯一ギリギリいけそうな場所が、キリトが主戦場にしていた第8層。
ゆえにβの時は集まってきて、NPCたちと一緒に騒いでいたのは8層目までだったと記憶している。
「……まぁ 騒がしいのは得意じゃないからよかったんだがな。」
このBGMを懐かしみながらも、特に興味のないリュウキはそのまま街中へと向かって言った。
だが……その最中だ。
“ビュンッ!!”
見覚えのあるプレイヤーがかなりのスピードで街の南へと走り去っていった。
「………ん?」
それだけなら、別段驚きはしない。
だが、驚いたのはそのプレイヤーの後を追って走って行く2,3人のプレイヤー。
傍から見れば…… いや、傍からでなくとも、視れば一目瞭然。
「……それにしてもなんで【アイツ】が追われてるんだ?」
リュウキはそう呟く。
そう、追われているのだ。
街中では別に危険もないはずだが……。
なぜか、いやに気になった。
その追われている相手がだ……
「………いってみるか。」
リュウキは向かう方角を変更し、
その連中を追っていった。