30話 クリスマス・イベント
2013年12月19日 第49層・ミュージエン
その街の中心……。
巨大なクリスマスツリーの傍にある、小さなベンチに座りメッセージを確認した。
そして、もう1枚の紙も確認する。
「なるほど……」
そのメッセージとはアルゴから貰った情報2つだ。
その情報とは……クリスマスに出現すると言うフラグMob。
クエスト等の攻略のキーとなっているモンスターだ。
それは、数日、あるいは数時間に1回と言うペースで出現するが、中にはたった一度しか倒す機会のない、いわば準ボスモンスターの様なものも存在する。
層が上がればあがるほど、当然だが強さも比例してゆく。
それは、ボス攻略に準じた大パーティで挑むのが常識だ。
「……アイツの考えはわかりきっているな。」
リュウキは、情報誌を見ながらそう呟く。
……そう…アルゴから買ったもう一つの情報。
このイベントの噂が立ったほとんど直後。
……キリトが買いに来たと言う。
その情報もアルゴは、売るのだ。
売れる……金になるとわかれば、自身のステータスでさえ売る、
鼠の仇名は伊達ではない。
「………だが、オレにとっては好都合ってな。」
リュウキは、装備フィギュアから、武器を選ぶ。
……これから狩りに出かける為だ。
その場所にキリトがいることはもうわかりきっていたからだ。
第46層・アリ谷
名の通り、その谷に現れるモンスターは大アリの軍団。
数は非常に多いがそれは決して雑魚ではない。
安全マージンをとっていたとしても、数にものを言わせられ、囲まれてしまえば忽ちHPバーがイエローになる事もざらだ。
だが……それでも 今現在最も効率の良い狩場となっているのだ。
アリは、攻撃力は高いが、防御力そしてHPは思いのほか少ない。
だから、攻撃さえ受けなければ、短時間で大量に倒す事ができる。
それは、勿論パーティプレイでだ。
ソロの場合は囲まれる可能性が高い為、決して効率が良いとは言い切れない
囲まれたら、その高い攻撃力でゲージを一気にもっていられるからだ。
そして、人気スポットゆえに1パーティ1時間までと言う協定が張られている。
そんなところだから、時間帯によれば、プレイヤーの数も多い。
だが……目的の人物を探すのはわけないのだ。
なぜなら……その人物は1人で並ぶ。
そんな事をするのは自分が知る中でも1人しかいない。
そう……キリトだ。
「ぐっ……ッ!!」
キリトは、アリたちの酸性の粘液を被弾してしまい、バランスを崩す。
当然、自分自身の脳でプレイしているも同然だから、集中力が切れれば、動きに切れは無くなり、被弾する可能性が増加する。
何時間もぶっ通しでしていたらそれは必然だろう。
“ブオオオオッ!!”
キリトの背後から襲いかかろうとしていたアリが衝撃によって吹き飛ばされ硝子片となった。
「……まだ 1時間たってないだろ?」
キリトは、振り向かずにそう言う。
「……すまんな。随分無茶な狩りをしてると思ったら、つい手がでた。」
リュウキは片手剣を肩に担ぎそう言っていた。
「だが……時間は後1分も無いだろ?」
リュウキはキリトにそう聞くと……。
キリトは頷き、
その場から離れた。
その姿は襤褸切れの如く、真冬の地面に突っ伏していた。
「……オレが入らなかったら、お前……」
リュウキはそんな姿をしたキリトを視て厳しい表情を作った。
「大丈夫だ。……あれくらいさばけられる。確かにリュウキが入ったから時間は短縮できたが。」
決して強がりでは無いようだが……。
とりあえず安心した。
そんな時だ。
「ほれっ」
リュウキのほかに来訪者が1人。
後ろから、キリトに向かい回復ポーションが跳ぶ。
それを受け取ったキリトはありがたく頷き、栓を親指で弾くとむざぼる様に呷る。
その味は苦味のあるレモンジュースの様な味。
疲れきった体には途方も無く美味く思えるのだろう。
そのポーションを渡した相手は、このデスゲームが始まったときからの付き合いである、
ギルド≪風林火山≫のリーダークラウンだ。
そのスタイルは相変わらずのもの。
バンダナのシタで無精ひげに囲まれた口もと。
そして、そのひげに囲まれた口をひん曲げて言った。
「リュウキの言うとおりだろ?いくらなんでも無茶しすぎじゃねェのか、キリトよ。今日は何時からここでやってんだ?」
「ええと……夜8時くらいか?」
それを聞いたリュウキは。
「……話の通りだな。相変わらず無茶をする。」
やれやれと言う感じで見ていた。
「無茶を通り越してんだろ!6時間は篭ってるじゃねえか!こんな危ねえ狩場、気力が切れたら即死ぬぞ!」
クラインは興奮したように顔を近づけてくる。
「……むさ苦しい。顔を近づけるな。」
リュウキは剣の柄でクラインを押さえつけた。
「むげっ!それどころじゃっねえだろっ!」
「キリトは簡単にくたばったりしないだろ……。それにそこまで考えなしでもない。」
キリトを視ながらそう言う。
あのギルドの壊滅の件の詳細を詳しく知っているリュウキからすれば、わからない事も無いが……。
「ああ、平気だ。待ちがいれば、1、2時間休める。」
キリトはそう言うけど、
それは……。
「……それは嘘だな。」
リュウキは腕を組んでそう言う。
「なに?」
キリトは少し驚いていたようだ。
「……こんな時間帯でそんなに待ちがいるわけないだろ?と言うか、それが目当てだろうが……。いくらクラインが馬鹿でも、そんな説明だったら納得しないぞ?」
「だ〜〜れが!馬鹿だッ!!」
突っかかってくるが、軽く回避する。
その華麗なステップを目の当たりにしたクラインは……。
「はぁ……おめーらが強すぎるって言うのは初日から嫌って程知っているけどな、そういえば……お前ら今レベルはどれくらいになってるんだ?」
クラインが、キリトとリュウキに聞く。
「今日で上がって69だ。」
キリトは自身のHPバーの下に表示されているレベルを見てそう言う。
「………83。」
あまり、ステータスは言うものじゃない。
いろんな目で見られるからだ。
「……リュウキ。そんな上にいたのか……?14も離れているとは思わなかった……。」
キリトは驚いているようだが……それでも悔しそうな顔をだしたとしても、妬ましそうな嫉妬の様な表情はしていない。
そこが他のプレイヤーと違って良い所だと思う。
「……それ言ったらオレはどうなるんだよ。……キリトはオレより10は上だし、リュウキに関しては20は上かよ……。それにリュウキはいったい何処でレベル上げをしてるんだよ……。キリトの様に無茶してるようにみえねえし……。」
クラインは不思議ちゃんを見るような顔をしていた。
「てきとーにやってる。」
あっけらかんと答えるリュウキを見て2人して同時にため息をしていた。
「はぁ……常軌を逸してるな。キリトは勿論だが、リュウキもいろんな意味で。」
なにやら失礼な言葉が聞こえてきたが、
軽く無視しよう。
「ってかよぉ!ここ最近キリトはよく見かけるよ。レベル上げの仕方が常軌を逸してるっだ感じだぞ?マジで。なんで そんな無茶をしなきゃならん!ゲームクリアの為……なんてお題目は聞きたかねえぞ。お前ら2人がどんだけ強くなったとしても、ボス攻略のペースはKoBとかの強力ギルドが決めるんだからな。」
「……ほっとけよ。レベルホリックなんだよ。経験値稼ぎ自体が気持ち良いんだよ。」
その笑みは若干自虐的だ。
「って!なわけねえだろが……そんなボロボロになるまでする狩がどんだけキツイか、それくれぇオレだって知ってるつもりだ。それがソロなら尚更、幾ら70や80あったとしても、この辺じゃソロだったら、まだまだ安全マージンなんてあってないようなもんだぞ。綱渡りもいいところだ、向こう側に転げ落ちるギリギリの線でレベル上げを続ける意味が何処にあるんだって聞いてンだよ。」
この男は本当に仲間想いの強い男なのだ。
クラインはSAO以前からの友人達が中心となって結成したギルド≪風林火山≫のリーダーだ。
そして、メンバーの殆どが過干渉嫌いの無頼派でクラインも例外ではない。
……良い奴ではあるが、そんな男がここまで言ってくる。
と言う事は……。
「なるほど……。クラインも知ってたか?キリトが狙っているものを。」
リュウキは確信言ったようにそう聞く。
「んな!お……オリャぁそんなつもりじゃ……。」
いや、そんな表情をする時点でアウトだと思うが……?
「……ぶっちゃけて話そうぜ?リュウキの様にさ。それにオレがアルゴからクリスマスボスの情報を買った、って言う情報をお前が買った……という情報をオレも買ったのさ」
そのキリトの言葉を聞いて……クラインはもう一度目を見張る。
「んだと……!くそっ……アルゴの野郎……鼠の仇名は伊達じゃねぇな……。」
「……今更気づいたとしたら遅すぎだろ。アルゴの性質くらい付き合う前から把握するもんだ。」
素早く突っ込む。
「ちょっとまて!なら、リュウキ!おめーにも聞きたいことがある!」
クラインはリュウキに指を突きつけながらそう言う。
「………?」
「アルゴの情報だが!なんでお前の情報だけ極端に無いんだよ!」
突然……クラインが叫ぶ。
確かにそれに関してはキリトも不思議に思っていた事だ。
だけど、直接本人に聞く……んなことしたら、本人の情報を買おうとしている!っと思われ良い印象を受けないだろうに……。
リュウキは、クライン問に……
とりあえず、苦笑いをしていた。