小説『猫語-ネコガタリ-』
作者:†綾†()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

■第十四話【屋上の猫と俺】


俺の目の前には、青い目をした黒い猫が一匹。
ちょこんと座っていた。
そして身体を猫のような仕草で、毛繕いをする。
…まあ実際に「猫」なのだが。
数秒後、伊坂は一度ピタリと毛繕いをやめ、俺にこういった。

「…私や泉以外にも同じ「猫」はいる。朽田君、もういっそこの際こっち側に
 飛び込むのも楽しいんじゃないかしら」

伊坂の視線の先は、…もちろん俺だった。
…完全に楽しんでるな、伊坂め。

「こっち側って何だよこっち側って」
「分かってるくせに分からないフリするなんてひどいわね、これは冗談なんかじゃないわ」
「……あー、それより、お前以外の「猫」って…そんなにいるのか」
「………。(完全に流したわね…。)」

流したのが原因か、伊坂にじっと睨まれた。
…飛び込むってなんだよ、飛び込むって。

「…ええ、私以外に…、まあそこそこ居るんじゃないかしらね」
「ふーん…そういえばさ、伊坂さっき「泉が居た」って言ったとき、
 何であんなに驚いたんだ?」
「…伊坂家はね、3年に一回、集まることがあるのよ、全員。」
「全員?3年に一回か…、何だか忘れそうだな」
「…だから驚いたのよ、泉がこの町に居るなんて、3年に一度の集まりしかない…ってね」

しかし、猫がわらわら居るなんて…。その全員は
十二支に入れなかった「猫」という動物に取り憑かれているのか…。

すると、伊坂の耳がピクリと動いた。


「…朽田君、私がいいと言うまで後ろ、向いてくれる?」
「…ん?あ、ああ分かった」

俺は言われるがままに、後ろを向いた。
すると後ろからボン!と言う音がして、びくりと飛び上がった。
何が起きたんだ。


「……、もういいわよ、朽田君」

その声に答えて、くるりと振り返ると、伊坂は
「猫」ではなく、もとの「伊坂寧」に戻っていた。

「戻った…のか?」
「ええ、戻ったわよ。少し時間がたつと戻るのよ、それに…」
「…?どうしたんだ?」

伊坂の視線は屋上の出入り口の扉だ。
…すると、ドタドタと屋上の階段を駆け上がってくる音がした。
この音に気付いていて言ったのだろう。


…誰だ?



どんどん足音は近づいてきた。
そして扉が勢いよくバーン!と開けられた。

「…なんだお前ら、こんなところで。もう予鈴は鳴ったぞ、
 早く自分たちの教室に戻れ」
「え、…あ」

来たのは先生だった。…何を期待していたんだろう…俺は。


でも先生はあまりにもしつこいので仕方なく
教室に戻ることにした。
…教室に帰る途中、

「伊坂、お前さっきの足音、いつぐらいから分かってたんだ?
 俺、全然分かんなかったんだけど」






すると伊坂は、ふっと笑ってこういった。





「…さぁ、…ね」





「何だソレ。」



鈴の音はまだ鳴りやまない。

【続く】












-15-
Copyright ©†綾† All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える