■第十七話【伊坂家に泊まる】
「…俺、何時間寝てた?」
「えっとね〜…大体2時間は寝てたかな〜」
泉が俺の傷口を撫でながらにっこり笑った。
…まじか。
「じゃぁ…俺帰らないと」
立ったとたん、頭がぐらりと大きく揺れた。
それと同時に頭痛が走った。
そして、俺はバランスを崩し、しゃがみこんでしまった。
「いって…」
「だいぶ強く打ってたみたいだからね、無理もないよ」
悠一さんは、ゆっくり頭を撫でた。
近くに雅希も来てしゃがみ、こういった。
「なぁ、あんま無理すんなよ。まだ急に起きたって頭痛が走るぞ」
「そうよ朽田君、まだ安静にしてないと駄目だわ…それに外はもう真っ暗よ」
伊坂は窓のカーテンを開けて外を眺めながら言った。
「だけど…あんまり遅くなんのもなぁ。」
すると泉が何かひらめいたように、
目を輝かせた。
「お兄さん!」
「何だ泉」
泉の顔は俺のもう目の前にまで来ていた。
そして泉は俺に乗り上げ、言った。
「今晩、泊まっていきなよ!」
「「「「…………は。」」」」
全員が呆然とした顔で泉を見つめる。
無理も無いだろう。
「…泉お前なぁ、人の都合ってもんがあるだろ」
「だぁって〜…。もう暗いし寒いし〜」
いやいや、道が見えないほど暗くはないのだが。
まあ、バス停まではすぐ近くに…。
…ん?そういや伊坂の家って、どこら辺だっけ。
あれ、俺…。帰り道…、
「………分かんねぇッッッッ!」
「「ですよね〜」」
悠一と雅希は声をそろえて言った。
そして伊坂はやっぱり、と言う顔をしていた。
だけど泉は初めから分かっていたように、満点の笑顔を俺に見せた。
…泉の周りに花畑が見える……。
「…ああ、なら朽田君、家の人に電話。した方がいいんじゃない?」
「え、なに、もう泊まるの決定なのか」
「だな。まぁ今日はお言葉に甘えろよ〜」
まぁ、道が分からない限り帰れないしな…。…仕方ない。
観念して泉に「分かったよ」と言うと泉は俺の周りを
ぴょんぴょんと、飛び回った。
「なら僕、お兄さんの家に電話してくるねー!」
「あ、ちょ」
言う暇もなく泉は廊下にでて、走り去ってしまった。
…てか泉は俺の家の電話番号知ってるのか?
…ははは、まさか。
すると、悠一さんは俺の肩にポン、と手をのせた。
「羽乃君、余ってる部屋で悪いけど、そこ使ってくれるかな」
「あ、いえそんな、十分ですよ」
「そうか…。いやいや、すまないねぇ」
そう悠一さんは言って俺の頭をくしゃくしゃと撫でた。
何故か、とても幼くなった気分だった。
「なら、寧君、羽乃くんを部屋に連れてってあげて」
近くにいた伊坂に悠一さんが手招きをした。
「そうね、じゃあ朽田君、ついてきて」
「あぁ、あと着替えは雅希君に借りるといいよー」
後ろからまた悠一さんが声をかけた。
どれだけ気をつかってくれるのだろう。
そうして俺は、伊坂家に泊まることになった。
何故か。
【続く】