■第十九話【実散チルチル】
「…み…?なんだって?」
「実散、俺と同じ年の奴だ」
「実散」。雅希はその子の入院している病院に、
よっていて遅くなったと話した。
その実散と言う名の女の子は、昔から体が弱かったらしい。
だからあまり頑丈ではなく、ほとんど病院に居ることが
多かった。
学校にも行くのだが、大体いつも同じ時期に
体をこわし、入院しなければならない。
「…実散は、学校にもいけねぇからさ、学校の友達が…いないんだよ」
「…」
「だから俺は毎日、実散の病院通ってるってワケさ。」
雅希は再び手を動かし始める。
先ほどの勢いとは全くといっていいほど違うが。
「だから今日も遅くなったーって事だよ」
「そう、だったのか…。」
「そう言うことだよ。」
そう言って雅希は「ごちそうさま」と言って、
自分の部屋に戻った。
…きっと毎日行くと言っているのだから
明日もきっと行くだろう。
そして俺も食べ終わり、皿を運んだ。
すると伊坂が俺に問いかけた。
「…ねぇ朽田君、私も明日、実散の病院に行くのだけど、
一緒に行かないかしら」
「え…?俺?」
でもいきなり知らない人が来てビックリしないだろうか。
…いや、するだろうな。うん。
「でも、何で俺なんだ?悠一さんと泉は行かないのか?」
「泉は行くけど…、悠一は本家に行かないといけないし、ね…。」
「…まぁ…別に何もないし、いいって言うんなら」
なら決まりね、と言って伊坂は帰りしなに行きましょう、と
伊坂も自分の部屋に戻っていった。
リビングには、ぽつんと自分一人が残った。
「…さて…、俺も戻るかな」
くるりと振り返ったその正面には、
…泉。
「ぅおわっ!?い、泉!?」
「お兄さーん!明日チルちゃんの病院に行くの?」
「え?あ、ああ。泉も行くんだろ?」
「うん!雅希は先に行ってるってさ!」
…何となくだが泉はいつもいきなり出てきて、
心臓に悪い。そして何故か話をいつも聞いている。
すると、泉が手首についている鈴が、
なにやら、ゆるんでいる。今にもとれそうだった。
「あれ〜おかしいなぁ、鈴がゆるいなぁ…それ!」
ボン!
鈴もとれてしまい、一瞬にして泉の姿は消えた。
泉は多分、取ってからくっつけようとしたのだろうが、
その前にとれてしまった。
煙の先には伊坂と同じ、黒い猫の姿。
泉が呆然と立っていた。
「む〜…?あれ、戻っちゃった!鈴、鈴…あ、あった」
チリンと鈴は鳴るがひもがちぎれてしまい、
つけれない。らしいので仕方なく他のひもを付けた。
「わ〜!有り難うお兄さん!可愛いね!」
「…改めて言うと猫が喋ってる事って…。ん?」
でもよく見ると、目の色が違う。
伊坂は確か青色だったが、泉は緑色だ。
あれ、じゃあみんな目の色って違うのかな…
【続く】