小説『猫語-ネコガタリ-』
作者:†綾†()

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■第二十七話【逃走猫 其の参】


「…どうして、そう思うんだ?」
「お母さんは…、私のことが嫌いなの…」
「…?」

その猫の姿の実散ちゃんの眼には
光が見えなかった。
細いからだ。臆病な眼。

正直見ていてもつらかった。

「…お母さんはいじめのこと、知ってるのか」
「…」

実散ちゃんは黙って首を縦に振った。
「相談はしたのか?」と言うと、
うつむいてこういった。

「お母さんはきっと、私が「化け物」
 だから、私のことは嫌いなの。私は…「猫」…なの。
 どうして「人間」じゃないのって、何度もお父さんに言われた。きっと相談なんて迷惑…なの。
 だから家は家族では住んでないの…雅希と羽也風と…飛鳥とすんでるの」


…お母さんとお父さんと住めなくて、
寂しくないのだろうか…。いや、今の実散ちゃんは
お父さんやお母さんにかまって欲しいけど

…猫、だから…?




「そりゃ…つらいよな。かまってもらえないと
 俺だって心が持たないと思う」


「…え?」





「誰も信じてくれなかったら、…俺はつらい。
 誰かに…自分を信じて欲しい。これは俺のわがままなのかもしれないけど。」
「…」


だってそうだろう。誰だってそうだ。
誰かと話がしたいのに誰も自分の席に来ない。

…こないんだ。

「…でも…、」


すると、向こうからすごい勢いで走ってくる
音がした。
どうやらこちらに向かってきている。




…実散ちゃんのお迎えってわけか。


なあ、雅希。







「実散ッッ!!」
「…雅希…?」



「お前、何してるんだよ…こんな、…体でっ…!」

雅希はそばまでかけより、そっと
細い体を腕で包んだ。

「お前の母さん…、どれだけ探して心配したと思ってんだよ…」
「おかあ、さん…が?」
「ああ、それで俺に言ったんだ、いままで、…ごめんなさい」
「…!」

その瞬間、実散ちゃんの目から涙が
あふれてこぼれた。

「実散ちゃん、…お母さんに、自分の気持ち、
 伝えてみたらどうだ」
「…私の…気持ち…?」







誰かに信じてもらいたい。
そういわなかった。いえなかったから。




だから、今。





【続く】

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