小説『猫語-ネコガタリ-』
作者:†綾†()

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■第二十九話【おかえりなさい】


ただ、ひたすら走っていた。
地面を駆け回った。お母さんもとへ。

「話す」ということを教えてくれた
雅希、「向き合う」ということを教えてくれた
不思議なお兄ちゃん。

お母さんや、お父さんにもこの気持ちを



伝えたい。今、私は「話す」から。



「お母さんっっ!」
「実散…?」

背中を向けていたお母さんはくるりと
振り返る。そして私がたどり着くまで待っていてくれた。

「お母さん…お母さん…!」

お母さんに駆け寄ると、なぜか急に涙が
あふれた。涙で前が見えない。よくある事。

「実散…ごめんなさい…あなたのこと…こんなお母さんでごめんなさい…!」

お母さんは実散をしっかり抱きしめた。
お母さんは、雅希がいきなり実散ちゃんのお母さんのもとへ
来たらしく、今の実散ちゃんの姿を全部はなしたという。

そのときの様子がこうだという。

「あんたが!ちゃんと見てやらねえから、実散はあんな風になったんじゃないのか」
「…私はちゃんと見ていたわ、あのこが勝手に迷惑を…」
「そんな事言ってるやつが一番見てないんじゃないのか!?
 ふざけんな!実散をちゃんと見てやれ!「いじめ」に頑張って立ち向かった
 実散を!見てやれよ!甘えさせてやれよ!…それが…」





親ってやつなんだろ…。






「そう…雅希くんが言ってくれたの…。駄目ね…気付けなくてごめんなさ…」
「ううん、いいの…もう、…いいの」



ただ、二人は慰めあっていた。
これで誤解…は解けたのだろうか。
それならばいいのだが。

後ろで見ていた俺と雅希は邪魔をしないように、先に
病室に戻ろうとしていたその途中、

「…俺、親いねえからさー…「親」ってもんがわからないんだよ」
「…そう、なのか」
「ああ、泉と同じで小さいときに…事故で、な」

泉も…?
そんな風に一度も見えなかった。
…いや、見えないようにしていたのか。

「僕は大丈夫」

そう思わせたかったんだろうか。

「でも、今は全然悲しくない。…実散やお前らが居るからな。」

俺に振り返りにやりと笑った。
その笑顔は今まで見た中で一番笑顔だった。

「そりゃどうも。」
「あ、なんだよ照れてんのかー」

照れてない。

いや、うれしいんだろう。


そして病室に戻ると、伊坂と羽也風が待っていた。

「朽田くん、どうだった?」
「ああ、…ばっちりだよ」



すると伊坂はふっと笑って迎えてくれた。



「おかえりなさい」

と。

【続く】

-30-
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