小説『猫語-ネコガタリ-』
作者:†綾†()

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■第三十二話【過去、現在。貴方は。】


「…それってめずらしい事なのか?」
「まあ、私や雅希の引っ越してくる前のその前の所はひどく
 私たちを嫌っていたからなぁ。チルチルの病院行きも
 今のいじめに繋がっているんだろう」

ち、チルチル?ああ、実散ちゃんの事か。

「でもどうしてそんなに「人間」は「差別」って
 やつを覚えちまったんだろうなぁ」
「私たちは「とりつかれた」だけのちゃんとした
 人間なのに前の前の小さな田舎者達はは私たちを嫌っていたな」

…なぜそこの人たちは「伊坂家」をそこまで
嫌ったんだろうか。

「まあそりゃー…「化け物」とか言っていたし…
 私と雅希はあまり気にしていなかったのだが」

それから話を聞くとこういうことらしい。
その田舎に引っ越してきた、彼女と雅希、実散とあと一人
男の人がいるらしいが、彼女たちはそこに住み始めて
間もないころ、その村の住人の誰かが、

「猫」になる姿を偶然目撃してしまったらしく、
そこから嫌がらせなど受けるようになっていった。

それから、実散ちゃんの様子も変わっていき、
雅希はなるべく体の弱い実散ちゃんからは

離れないようにしていたらしい。



だけど、とうとう。





実散ちゃんは追いつめられ、
倒れてしまったらしい。






「…とまあ、話せばこういうことだ。だから関わるものなど
 地獄にいったようなものだ、一部はそういっていた」
「…伊坂…寧も…同じような事にあってたのか…?」

「さぁ…。私たちと会うのは3年に一度だからな。
 一緒には住んでいないのでよく分からない。」
「…そうか…」


すると彼女は優しい目をして俺の頭をなでた。
まさか後輩に頭をなでられるなんて、
思いもしなかったので、俺は黙っていた。


「…でも、今は実散も大丈夫だそうだな。
 朽田羽乃さんのおかげと聞いている。…有難う」
「…俺は何もしてない。俺は…慰めるということしか
 知らないんだ…。」



彼女の手は温かい。とても。


温かかった。




「それでも、実散にとってはきっと
 とてもとても嬉しいことだったんだろう。感謝している」
「…そうか。ならよかったよ」


そして彼女はそっと手を離した。


「…ところで」
「ん?なんだ?」

大事な事を聞いていないのに気付いた。


「俺、君の名前聞いてないから
 教えてくれないかな?って…最初に言ったんだけど」

「…あ!これは失礼した!改めて。私は伊坂飛鳥。
 これからよろしくお願いします!」


飛鳥と名乗ったその後輩は
右手で敬礼をして、俺に笑いかけた。



【続く】


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