小説『猫語-ネコガタリ-』
作者:†綾†()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

■第三十八話【過去の過去】


「色々…あんだな。」
「…ええ、まぁ、ね」

黒い長い髪が風でなびく。その一本一本がとても綺麗で。
するとバスが急停車して、大きく左右に揺れる。
そしてまた俺は窓際にいたもので、また窓に頭をゴン、と
ぶつける。改めてどんくさいな、と思う。

また信号が青に変わり、バスは動き始める。


「…泉は``アレ``以来…いまだに樹雨樂とまともに話せてないし…
 今回のこの「集まり」に泉はかけてるの。『謝る』って、ね」
「謝る…?それって泉が悪かったのか?」


伊坂は首を横に振った。

「泉は…まだその時小さかったの。泉は両親が
 亡くなったお葬式の後に、その「集まり」があって…
 泣き喚いてたの。集まりが始まっても。だから私と
 飛鳥がとめようとしてたんだけど…」



     *




「うわぁぁあああーっ!お母さんどこなのー!!おとーさーんっ!」
「泉、お母さんはもうちょっとで帰ってくるから…、今は
 静かにしてて…。」
「ほ、ほら!泉、おかし買いに行こう?ね?」
「やだぁあーっ!おかーさーんっ!」

それでも泉はおさまらず、みんなが見ているなか、頑張って
あやそうとしていたが、上から黒い影が見えた。
白く美しい髪がなびく。

…樹雨樂だった。



「…!!樹雨樂…」


「…」



樹雨樂は泉をじっと見つめていた。ただ、…何もいわずに。
すると泉も樹雨樂がそばにいることに気付くと、がしっと
樹雨樂の服のすそをつかんだ。




「おかーさん…僕のおかーさんとおとーさん、どこいったの?」




すると樹雨樂はすとんと、泉の前に腰を下ろした。
そして、一度にっこりと泉に向かって笑った。

たった一度だけ。



「お前の両親は、もういない、帰ってこない、お前を愛すことは
 もう二度とないし、お前の前にも現れることはもうないでしょう…ねぇ?」

樹雨樂の手が泉の顔に触れようとしたそのとき、

「じゅ、うらく…?」
「そんなに『アノ』両親のもとへ逝きたいなら私が今、この場で、
 殺してさしあげましょうか…?…泉。」



一粒の涙が 零れ落ちた。


【続く】

-39-
Copyright ©†綾† All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える