第六話【嘲笑う猫】
兎織と昼をすませたあと、すぐに教室に戻った。
午後の授業は俺の得意科目の数学だったらしいが、
急な先生の出張のため、
自習に変わった。
…自習なんて何をすればいいのかよく分からない。
だから何となくノートのページを、
ペラペラとめくっていた。
そしてわずかな窓の隙間から
ちょうどいい風が吹き込む。
俺の席はちょうど窓際なので
これまた何となく、外を見る。
外と言っても目の前には大きな木があるのだが。
すると、一匹の黒い猫が木の上にのぼってきた。
「……ん…?猫…?」
そしてこちらをじっと見つめる。
その俺を見る目はとても綺麗な青色で、
何か引きつけられる。
俺もまたその猫をじっと見ると、
見覚えのある鈴のついた
首輪がついていた。
(…あれ、この鈴…どっかで…、確か…)
と、考えているうちに
黒い猫は俺を嘲笑うように逃げていった。
…あぁ…、思い出せない…。
ズルズルと頭を抱え込む。
一度こうなると思い出さないと
気がすまないし…何より気持ち悪い気分だ。
『チリン… くすくす、後、思い出すと思うのだけどね…』
この広い空に 誰かの嘲笑う声が聞こえた気がした。
そんな間に自習の時間は終わった。
…何してたんだ。俺はこの時間。
猫ごときに…。
【続く】