小説『ストーリー』
作者:72マヨ()

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8話 〜声の主〜



小説コンクール。
これは、俺たちにとって、夢の第一歩であり確実に自分の今の実力を確認できる場所でもある。

実力を確認できる。
それが、今の俺たちにとってどれほどの糧となるだろう。
どれだけど自進となるだろう。


「泰助、お前、結構できてんな」
そう口を挟んできたのは、俺と同じく自分のパソコンで書いてる雷鬼だった。
「うん…。雷鬼は?」
「あ…まぁ…ぼちぼち?」
雷鬼はそう言って顔を引きつらせた。
どうしたんだ?

それから、またパソコンに向かって頑張って何かを打ち込んでいた。




□■食堂■□

「おい、新垣!」
そう呼ぶのは、同じ学部の風上秀介(かざかみしゅうすけ)
授業受けてたときに隣に座ってたから一緒にしゃべってた奴。
だけど、ほんの一言、二言だったはずだぞ?
「風上、どうしたんだ?」
「いやあ、今日さ、みんな風邪引いてさ。俺1人」
みんなというのは、きっと一緒に食べる奴のこと。
俺はいつも、都夢技と食うか1人だ。
「あのさ、坂上さんさ、可愛いよね」
なるほど、こいつは都夢技狙いなのか。
「今日は、都夢技いないよ」
俺がそう言うと風上は少し残念そうな顔をした。
でも、すぐに顔を上げ、ニコリと笑い、
「そっか、じゃー一緒に昼食おうぜ!」
そう言って、風上は近くの机に座った。
風上の昼はハヤシライスか。

そっから、俺たちは、黙々と食べ始めた。
と言っても、風上は喋りたいらしく
たまに話し出すけど、俺が短い返事をして会話が終了してしまう。
でも、風上の次に口にした会話は、俺が喋らずにはいられなかった。
「な、新垣」
「なに?」
「あのさ、脳科学研究学部の益岡ってお前知ってる?」
益岡…あ、雷鬼か…。
「知ってるけど…」
「どういう関係なの?」
急にどうした…。
でも、この問いかけには答えなければいけないだろう。
「普通に、同じ高校で、今、同じサークルにいるだけだけど…」
「へ、同じ高校だったの?」
俺が普通に返事をしてやると、風上はそう驚いた声を出した。
何をそんな驚くことがあるんだ?
「何か変か?」
俺がそう言うと、風上は口を開いた。
「だってさ、あいつ、俺に「新垣泰助ってどいつ?」って言ったんだぜ?」
は?
雷鬼が俺のこと探してた?
って言うか、俺が新垣泰助だって知らなかった?
「どーいうこ…「あれ、泰助じゃん!」
風上に聞こうとした俺の言葉を誰かが遮った。
俺はその声を背中から受けていて誰か分からない。
でも、風上の顔が固まってる。
どうやら、声の主は雷鬼のようだ。
俺は振り向いて雷鬼に話しかけた。
「どーした?雷鬼って学食なの?」
「いや、今日は弁当忘れ」
そう言って雷鬼は持ってたラーメンを俺の横の席において座った。
「なんか、都夢技ちゃん以外の子といるの初めて見た」
そう言って雷鬼がニコリと笑う。
なんか、気味悪い。
雷鬼の笑顔が引きつってるのが分かる。
「そういえばさ、俺さ、高校で泰助とあんま関わりなかったじゃん?」
あんま?
全くだろ?
「でも、名前は覚えてたんだよね。顔は覚えてなかったけど」
俺も、名前は覚えてた。
なぜだか分かんないけど…。
「だから、文藝学部に行って、この人に聞いたんだ。どいつだって」
この様子だと、さっきの会話、こいつ聞いてたみたいだな。
でも、わざわざこれを話すってことは、なんか隠してる。
そんなことバレバレなの、こいつだって分かるだろ…。

そっから、雷鬼は語り出した。
「で、俺は、ひとりぼっちだった泰助のこと可哀想だなぁとか思った。
 だから、関わりなかったけど俺は泰助って呼ぶようになったんだ」
そんな話はどうでもいい。
雷鬼が俺のことなんで泰助と呼ぶのかなんてどうでもいい。
知りたいのは、なぜ、俺は雷鬼の名前を知ってたかってこと。
それと、ときどきだす引きつった笑顔と低い声。
この理由はなんなのか…。
大事なことはこいつはなにも言わない。
まぁ、それが隠したいことなんだろう。
昔、俺と雷鬼の間でなにかが起こった。
それは、俺でも理解できた。
「早く、食べないとラーメンのびるよ」
語り続ける雷鬼に俺はそう言うと、自分の食べたものを持って、席を立った。


食堂を離れたときに思い出した。
同じ高校にもう1人通ってたってこと。


「おい、都夢技」
「あっ、泰ちゃん…。ゴメンネ。昼行けなくて」
都夢技は会うなり、食堂に昼行けなかったことを謝った。
別に、お前と一緒に食べたいと思ったことはない。
「別にいいよ。それよりさ、お前、高校の時雷鬼と関わりあったか?」
「雷鬼くんと?知らないよ。だって、名前も知らなかったんだもん」
…名前も知らなかった?
人と関わりの少ない俺でも雷鬼の名前を知ってたのにか?
「じゃ、俺の口から雷鬼の名を聞いたことは?」
俺がそう都夢技に問うと、都夢技は小さくため息をついた。
「あのさ、私さっき名前も知らなかったって言ったよね?聞いてないよ」
ますます分からない。
あの引きつった笑顔も、
あの低い声も
なんで俺が雷鬼の名前を知ってたかも…

なんで、都夢技も知らない名前を俺は知ってたんだ?
なんで、雷鬼は俺の名前を知ってたんだ?
なんで、都夢技はなにも知らない?

なんで、なんで、なんで…。

そう考える度、高校のことを思い出した。
まぶたにまたあの光景がうつる。
もう嫌だ。
思い出すな…。
高校時代を思い出すなんて真っ平御免だ…。

でも、そう思う度、高校の思い出は蘇る。
鮮明に、正確に俺のまぶたにうつしていく。


その日から、俺はまた寝れなくなった。

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