65話「歪み始める物語(前編)」
〜戦争終結の翌日〜
〜ワノ国・???〜
〜???side〜
ガァァン……!
余の放った矢が見事的の中心に命中する。……フゥ……一時間ほど射たし、矢はもう止めるか……砂浜での乗馬もこなしたし、今日の鍛練はここまでにしておこう…………む、この気配は……
「片付けを頼むぞ。あとバサラと四郎以外誰も入れるな。」
「はっ」
城の庭での矢の鍛練を終え、庭の片隅に控えていた小姓に命じる。まずは人払いをしなければな。
そして部屋に戻る……と。
「弥七か……ご苦労。……苦しゅうない。近う寄れい。」
そう声をかけると濃い闇の中から現れる『忍』の弥七。『ご老公』の懐刀だ。
「随分早いな……マリンフォードからわずか一日で着くとは……流石よ。ところで、もう水戸のご老公には報告し終わったのか?」
「はっ……いえ、上様への報告を後回しにするのは恐れ多い事でありますので……」
「よいよい。そこら辺は気にするな。余が無理を言ってご老公からお主を借りているのだからな。ご老公の命令が最優先で良い。」
「はっ……勿体なきお言葉……」
「かまわんさ。この国の間者として最も優れている者の一人だからな。事実を言ったまでよ。……して、報告を聞こうか。」
「はっ……文で一度お伝えした通り……やはりシオリ様が無事生きておられました。この写輪眼で確認しましたが完全に本人でございます。」
う〜む……本当であったか……驚いたのう……
「して、あやつの様子はどうだったのだ?」
「誠に不思議ながら……天才的と言われた剣術は素人同然でありました……が、そんな事など問題にならない程の力を持っておられました。」
確か……リヴァイアサンか……世界でも最大の禁忌と言われている……それに生身でも海軍大将二人をも相手取るか……人間にできる芸当ではないなぁ。余でさえ二人がかりは勘弁してほしいというに。しかし…一年前不意に姿を消してどこをほっつき歩いているのかと思えば……何があったのやら……
「「上様!」」
お、もう来たか……流石にあやつの事になると人が変わるな。
「バサラ、四郎、早いのう。」
「はっ……話を聞いていてもたってもいられず……」
それはそうだろうな。許嫁に弟であればな。
「しかし……驚いたであろう?」
「はっ……まさか海賊になっていたとは……一体なぜあの様な愚行を……」
愚痴を言うのは銀色に輝く短髪の美青年……犬神バサラ。
「姉上が生きておられたのは僥倖ですが……それならなぜ僕達に連絡をくれなかったんだ? そんなに頼りないのか僕は……」
シオリの双子の弟である四郎が呻く。シオリと瓜二つだから複雑だなぁ……
「そこら辺はどう感じた? 弥七。」
「あのいくさ場で唯一それがしに気づいたのはシオリ様のみ……雷を纏った妙な男も違和感を感じていた様で……しかし馴染みがあるはずの自分の気配に一切無反応でした。そこから考えられるのは……」
「ふ〜む……記憶喪失の類いか?」
「一概にそうとも言えませぬが口調も相当野蛮になられていたので……少なくとも以前とは人が違う様でした。」
「……そうか。とりあえずは……余が迎えに行ってみるか。」
「「「ハア!? 何を血迷っておられるのですか!?」」」
うぅ……そんなに阿呆を見る様な目をするな。傷つくではないか。
「何時もの様に『シンノスケ』と名乗って召しているのを少し変えればバレまいて。」
「「完全にバレると思いますが。」」
「今までみたいに国内ではないのですから……お願いですから自重してください。」
……う〜む……残念無念。良い羽伸ばしになると思うたのだがなぁ……
「それから……シオリ様の件以上に信じ難い事態が発覚しました。」
「……報告によると……余の妹が見つかったと?」
「はっ……名を変えておられましたがお姿、気配の質を鑑みても……くいな姫に相違ありませぬ。」
「……そうか。無事だったか……やはり『闘神』の手でか?」
「いえ、海軍におられましたので現在もあの方が係わっているかは……」
「そうか……思えばあの時……『闘神』とまで讃えられたコウシロウがあの時……いくら余の政敵から妹を守るためとはいえ……無茶をした。」
「確かに……ですがあの時はあれ以上の策はありませんでした。」
「分かっておる。だから余としてもあやつを処罰する気にはなれん。……ただ余が今代……80代将軍になったのだからなぁ……帰ってくれば良いものを……」
「何か事情があるのやも……」
「……うむ。くいなに関しては……もうしばらく静観するしかないか……やはりまずはシオリと接触せねばな……余が行けぬ以上は……バサラ、四郎、お主らに任す。連れ戻せとは言わんが……真相を出来れば突き止めてくれ。」
「「はっ」」
「うむ……では徳川家80代征夷大将軍徳川義宗の名において勅命を下す。山彦バサラ、天草四郎の両名は海賊『傾国のシオリ』と接触、交渉に当たれ。」
「「御意!!」」
「弥七は海軍の……確か新しい配属先がG5支部だったか? そこに潜入、逐一情報を伝えよ。」
「御意!」
余の勅命により散開する皆のもの。……さて……どうなるかな……事によっては……世界政府と戦う事になりそうよのう……
〜新世界、とある島〜
〜???side〜
白ひげのジジイが勝ちやがったか……グハハハハ!! 海軍も生っちょろくなったなぁ?
衰えまくったジジイに勝てねぇとは……道理でおれに正面からかかってこねぇはずだ……
にしても……アマクサ・シオリ……異名が傾国のシオリ、か……コイツァ久々に骨がありそうなヤツが現れたもんだ……
生身でも海軍大将二人を相手どる強さ……なかなかのもん、いやとんでもねぇシロモノだ。十何年振りに死力を尽くせる敵の出現かもなぁ……
まったく……赤髪の野郎はまともに相手してくれねぇし、ジジイは家族ごっこで萎えるし、あのババアはお菓子に夢中でホント生殺しだったもんなぁ……嬉しすぎるぜぇ……
「主、何をぼけっとしておられるのでござるか? そんなに戦争に乱入したかったので?」
「うるせぇなミフネ!! 悔しくなんかねぇぞ!言っとくがな!」
赤髪の野郎の挑発に乗っちまって振り回されちまったぜ。
「…………」
なんか言えよスナガ! …全く、虎野郎め! 今度シメてやる。
「タイガーマスクというコードネームが気に入っている……」
それは色々勘弁してくれ。
「傾国のシオリ……あの化け物の姿には誰も勝てないな……リーダーのあの『力』でも。」
確かにショウの言う通りだ……あの化け物はやりすぎだろ……ヒクわー
「つかショウ、今度デートしてくれよ! その赤紫の冷たい目がたまんねーんだよなぁ〜」
「一度死んだらどうだ? しかし、アマクサ・シオリか……マルコ並のゾオンは私達以外いないと思っていたが……想像を遥かに超えていたな。
……いや、それよりもだ。話が終わったらちょっと空島まで散歩に行きたいんだが?」
……空島がちょっとって……相変わらずふざけた能力だよなぁ……
「……フフフ……暗殺のし甲斐がある……我の能力が通じるか否か……楽しめそうだ……」
闇に溶けてる根暗野郎。気配の消し方は相変わらず怖ぇくれぇだな。テラーのヤツ……『アサシン』だからってプライベートまでこれだもの。
「我が虹色の脚でも……あれには勝てんな……桁、いや次元が違う。……あっそうだ。……そろそろバラティエに帰ろうかな……ゼフの馬鹿に小言言いたくなってきたし……」
東の海は遠すぎるだろ!ワイルドさん!
「ンマー! 彼女の力は驚いたなぁ。おれもゾオンだが次元が違いすぎて笑えてきたよ。あ、そうそうおれも弟のいるウォーターセブンに……いや、なんでもない。そう睨むな……」
パイソンさん……調子に乗ってやがる……
「気にくわないヤツはこの斬鉄剣のサビにしてやろう……」
刀を延々と手入れしてる侍…イシカワ・ザンジ、いや石川斬次だったか?ワノ国の言い方だと。
「ん? そういや『処刑仕事人』の蜂野郎と『吹きすさぶ風』はどした?」
「エクスキューショナー達ならまた殺し合いしている……」
ショウがこちらにゴミを見る様な目を向ける。……おれにはそっちの趣味はないんだが……
「そういや『修羅姫』はまだ遊んでんのか?ちょっと前大型海王類数十頭狩ってくるとかほざいてたが…」
「ただいまー!」
と幼女がぴょんぴょん飛び跳ねながら帰ってきた。この娘を初めて見た時はぶっ飛んだわ〜
「釣果は良かった様じゃねぇか。」
「うん!でも途中でGなんとかって海軍が来たからそれ潰してて時間食っちゃった〜」
グ、グハハハ……ハハハ……片手間で潰してくるかよ……ますます強くなってんなぁ……まだ『成長期』ってかぁ?
「リーダー……『超人破壊師』と『聖戦』が任務から帰ってないが……ほっとくか?」
とワイルド。う〜ん……象野郎とミイラ男までマイペースとは……まともなのはコイツとミフネぐらいだよな〜
「任務って……単にストレス発散しにいっただけだろうが……」
『聖戦』もだが……全く自由すぎるヤツが多すぎるぜ……
「頂上戦争といえば……モリアがいなかったでござるな。」
と斬次。
モリア? ………………?
「モリアって誰だっけ?」
「……王下七武海の一人。……確か12年ほど前に倒した……はず。」
「12年前ぐれぇっつったら…あの野郎との抗争の最中か……
…………思い出せねぇ……強かったら覚えてるはずなんだが……」
マジで誰だっけ……つか七武海ってのは数年前に糸出すもやし野郎ボコってだいたい実力の底が知れたしな。
あれからあのもやしは従順になりやがった。も少し反骨精神を見せてほしかったがなぁ……
「10000人以上とタイマンしていればそりゃ忘れる……本当に暑苦しい……」
アサシンに言われてもなー真逆な商売だしー
「とにかく我ら戒導十二界主は、挑んでくる者は正面から叩きふせるまででござる。」
ミフネが纏める。侍二人いるとござるござるうるせぇわ。それはそうと確かにな……所詮人造ゾオン軍団は余興にすぎねぇし……軍団数百人よりコイツら12人の方が危険極まりねぇからな。
「うん! ぶっ潰すよー♪」
修羅姫が本性出すとウチが大変な目に会うんだが……コイツなら傾国(人間形態)に勝てる……のは無理かなぁ? やっぱおれじゃなきゃな!
「やれやれ……久しぶりにワクワクしやがるなぁ…早く来いよ?
新世界に君臨するこのカイドウにやられるためにな!」
「女に弱いくせによく言う……」
「君臨って……赤髪を倒してから言ってくださいよ。」
…締まらねぇ事言うなよ…ショウにパイソンさん。空気読め! 全く…………
〜グランドライン・白土の島バルティゴ〜
〜革命家ドラゴンside〜
「そうか……くまが……」
くま……やはり『あの事』が原因か。
それに、ルフィ……あの戦争で一躍名を挙げたか……しかもあの娘に助けられるとはな……しかし……天竜人共全ての排除か……さて彼女は……『世界』に勝てるか……
「あら……連絡、イワちゃんからだったの? 私も話したかったわ〜
何年もインペルダウンに潜入してたんでしょ? 衰えとかしてなかった?」
とオレンジ色の髪の女……セフィス。
「フ……『救世主』の言葉とも思えんな。映像電伝虫で見たかぎりは健在だった……
そういえば……娘はウェザリアに飛ばされた様だ。」
「えぇ!? なんであんな島に?」
「確か天候と科学の空島だったか……くまの報告が確かならあれ以上の場はなかろうよドラゴン殿。」
「そういえばそうだな……流石あの島の事まで知っているか……黒博士。」
全身黒ずくめの黒い仮面を被った男に話し掛ける。
「伊達に数百……数十年生きていないのでな。それよりも……もうすぐ『戦鬼』アストリア殿も帰還する……そろそろ次の作戦でも練っておくと良かろう。」
普段はとても穏やかなだがな……しかしその戦いぶりは…………ただ、道に迷っていなければ良いが……
「ところで博士は傾国のシオリをどう見た?」
「気が遠くなるほど長い年月……ありとあらゆるものを見てきたが……あれほどの規格外は久しぶりだな。」
「そうよね〜……リヴァイアサンか……私の能力とどっちが強いかな〜」
「…………彼女の目的を考慮すれば戦うべきではないな……そもそも彼女と戦えるほどの『力』を出すつもりなら島一つ……いや、それ以上の規模が滅びるぞ。」
冷静に分析する博士。
セフィスもまた、常軌を逸した存在だからな……間違っても国の中心地では二人の衝突は起こってはいけないだろう。間違いなく国が滅ぶ。
しかし……これからは……『海』と『天』……状況次第では我等擁する『地』がぶつかり合うか……世界全てを巻き込んで、残るのは……