小説『Believe 1』
作者:Bor Choko()

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「はあ……」
 まだ慣れない、いや初めて見る道。
 彼女はそこを歩く。周りでは自分と同じ制服を着た女子生徒、そして同じタイプの制服を着た男子生徒がぞろぞろと同じ方向に向かっている。
「はあ……」
 また溜息が出る。またか、というのが心情だ。
 校舎に着くと、下駄箱がずらりと並んでいる、
 まだ真新しい学校指定の内靴を取り出し、今まではいていた外靴を教えられた中に入れる。玄関からのまだ暑い9月の風が通る。
 キュッと音を立てて、職員室へ向かう。真新しい校舎。さすが改装してまだ数年というだけある。
 床は鮮やかなクリーム色の木が使用され、床以外にも木材が使われている。木材の暖かさ、おだやかさが伝わってくる。
「失礼します」
 小さくはない、でも大きすぎもしないそんな声で言うと、ニコニコと笑顔を浮かべる男性が近づいてきた。
「やあ、よく来たね。僕は中野明。これから一緒に頑張ろうね」
 笑顔を向けられ、本人は、
「はぁ……よろしくお願いします」
 冷めた態度である。
「じゃあ、行こうか」
 書きやすいありふれた名前だなと男性教師を評価しながらついていく。
 ホームルーム直前の、生徒がほとんど教室に入ってしまった廊下。教室から聞こえる騒ぎ声が遠い。
「ここだよ」
 中野教師が足を止めた。目の前には2年4組と表示された教室。他の教室と変わらず騒がしい。チャイムが鳴り、中野教師は彼女についてきてねと言い、木製の扉をガラッと開ける。
 教卓の前に立った中野教師の横に立ち、うつむく。周りに溢れ出す言葉を無視し、彼女はただうつむく。
「自己紹介をお願いします」
 そこで初めて彼女は顔を上げる。
「清涼院千尋(せいりょういん ちひろ)です。よろしく」
 そう、彼女は転校生だった。もう何度も貼られたレッテルを背負う少女だった。

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