小説『おかっぱ頭を叩いてみれば』
作者:しゃかどう()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

「屋上で食べよう」
同じクラスの連中に、そう言われた。ここは中学はない私立なのだが、中田という奴は小学校の頃からなぜかずっと一緒のクラスだ。彼は活発で人気者な性格で、いつだって何かの中心にいる奴だ。
彼がそういったのだ。
「屋上なんて、面倒くせえなあ」
中田は言うなよ、とか何とか言って、僕を引っ張り上げた。他の奴らものそのそと歩き始める。
栗色の髪の毛は無造作だが、彼は顔が良いので他のクラスの女子に話しかけられるのもしばしばだ。
「なんで、急にそんなこと」
「…別に、気分じゃん」
語尾を少し上げて話した彼は、何故か上機嫌なようで、すたすたすたんと階段を上って行った。東階段は昼下がりの溢れんばかりの日差しを浴びていた。
「ぽかぽかするねえ」
のんはそう言ってケラケラと笑いながら、バカでかい弁当箱を大切そうに抱えている。のんはのんびりだからのん、とつけられたほどののんびりである。そのぽちゃぽちゃした身体で、野球なんかするから驚きである。彼がグランドを走る姿を見たら、たぶん僕は我慢できないだろう。
しかし試合は何度か見ている。

5,6人の男子…僕たちの他に生徒はいないようだった。まるで青春映画のワンシーンのような光景に虫唾を覚えたので、腕をさすった。
「あれ…」
中田は何かを探すように、ぐるぐるとまわりを見ている。少し顔をしかめた顔で隅から隅を舐めるようだ。
だがコンクリートの殺風景な屋上には誰もおらず、まるで地平線の様な床が続いているだけだった。
「どうした」
「いや…」
もごもごもごと口をしている中田は、それでも様になっている。
「なんだよ、言えよ」
小林が言う。
「いやあ―…」
彼がそのくっきり目の瞳を細くして、少し顔を赤らめた時だった。
「ボブ!」
秋風に攫われそうな細い影。生々しいほど白い首。僕はボブを見た。
大きな謎の機械の影で、何かをしていたが、僕に気付くと慌てて手に持っていたものを隠した。
「せ、先輩…」
上ずった声も、驚いたことも初めて見たが、そんなことはどうでもよかった。昨日の夕方の独り暮らしだと語った彼女の顔が頭から離れなかったのだ。何故か、彼女に話すこともないのに彼女へ向かって小走りに走った。彼女はまるで小動物のように、学年カラーの赤い上履きでじりじりと後ろに下がってゆく。
「あ」
と、遠くで中田が言う声が聞こえた。
「ボブこそ、こんなところで何やってんだ」
「いえ…何も…」
手を後ろにしている。何か悪いことをした子供のように目をそらしている。彼女は隠し事が苦手らしかった。
魔が差したとしか言えない。
僕は彼女の後ろにしまってある細い腕を掴んで手繰り寄せた。

-5-
Copyright ©しゃかどう All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える