小説『おかっぱ頭を叩いてみれば』
作者:しゃかどう()

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「いっ」
痛い。と彼女は言った。だが、申し訳ないと思う前に僕は見てしまった。
礼儀正しくて、規則に厳しい。そして何より妥協することのない真っ直ぐなこの子が。
「煙草…」
「ち、違うんです」
それはラッキーストライクという銘柄の煙草だった。大切そうに先ほどもっていたが、既にそれは大分ボロボロで、かなり古い物のように思えた。はっとして煙草を取り返そうとしている彼女を何とか抑えて、中身を見る。一本、ない。
「吸ったのか」
「吸ってません」
「…別に、俺は規則に厳しくないけど」
けど、才能があるお前に肺を汚してほしくない。そういうと、違うんです、誤解ですと泣きそうな顔をしてボブは繰り返した。とりあえず煙草を返して、振り返れば、中田が来るところだった。
「どうした」
「その子、知り合いか」
「ああ…後輩だ」
「…」
彼女は初めて年下らしくというか、幼い拗ねたような顔をしていた。中田の言葉も耳に入らないようで、ぎゅうっと煙草を握りしめている。
「俺、中田ワタルっていうんだ。こいつー…飴村の小学校からの友達」
「小学校からなんて、長いおつきあいですね」
元に戻ったのか、彼女はやわらかい声色で話している。何故か、心の奥がむずむかとした。
ワタルって呼んでね、と彼は彼女のおかっぱ頭をふわふわと撫でた。
「君の名前は」
「1年の、あずみ、はんなです」
もぞもぞと紺色のスカートのポケットから、白い携帯を取り出すとプロフィール画面を出して見せている。僕も覗き込めば、【安曇梵成】と書いてある。
「はんな、ちゃんかあ」
「は、い」
警戒心が抜けない目である。彼女は少し震えた腕でそうっと彼の腕を外すと、彼女はでは、と言って去って行った。
「あの子」
「うん」
「俺好きだわ」
彼はさらりと言ってのけ、男のむさくるしい集団に挨拶されてペコリと挨拶しているボブを見ながら言った。
「はあ…え」
何言ってんだよ!と僕は突っ込んだ。
「前、ここで見たんだよ。もさもさメロンパン食っててさあ」
友人たちの輪の中に戻るべく、僕らは歩き始めた。
「すっげえ真面目そうだったのに…煙草吸ってたんだ」
「やっぱり…」
「火はついてないよ。ただ、中身の匂いを嗅いでね、ふわって笑ったんだよ」
そいで、好きになった。と彼は酷く幸せそうな顔をした。

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