小説『鸚鵡貝は裏切らない【完結】』
作者:魚庵(ととあん)(・胡・晴・日・和・)

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 幼馴染みの異性と恋に落ちる確率などは、漫画やドラマや三文恋愛小説ならいざ知らず、実は皆無に等しい

のが事実だ。

 何が良くて、子供の遊びの延長のように恋愛までしたがるのか、さっぱり解らない。まず、ありえない。

 そう思いながら、私は今、幼馴染みの恋人に収まっている。



 しかしながらそれは、私が私を裏切らない為に、たとえ一生を懸けてでも守り貫く嘘なのだ。




「のぶ、私、のぶのことが好きなの。ずっと好きだったの……付き合って欲しいの。幼馴染みや友達としてで

なく、彼女として」

 親友がフラレた翌日に、私は彼女をフッた幼馴染みに告白した。

「は?何言ってんの、七恵。お前はずっと友達じゃん。寝ぼけたこと言ってんなよ」

 一発玉砕のその返事に私は満足した。

 のぶが私を好きでないことなんて百も承知だ。

「うん、わかった……またお願いに来る。私の気持ちは変わらないから」

 あの日から、私の嘘は始まった。





 私と戸川暢志は、幼馴染みだ。

 のぶの家が割烹やっていて、うちはそこに出入りする酒屋だった。家も近所で親同士がまず仲がよかったの

で、時を同じくして子供が生まれれば、必然的に一緒に遊ばせる。単に、家庭の事情で幼馴染みになった、出

来レースみたいに育んだ友情で成り立った友達だった。

 ……惚れるわけがない。



 幼い頃から、よく一緒に遊んでいた。

 保育園も一緒。小学校も一緒。夏休みも冬休みも、いつも一緒が当たり前みたいに、いつも手を繋いで朝か

ら晩まで、転げ回って遊んでいた。

 兄弟と言うか、もう双子みたいに、同じ時に同じ場所で同じものを見て来たのだ。

 だから一層……惚れられるわけがない。



 小学校でもずっと一緒ではあったけど、四年生頃から男子と女子で別々に遊ぶ頃になると、私たちも自然と

別々に遊ぶようになった。

 六年生になる頃には、クラスの中で誰が好きとか誰々はデキてるとか、そんな色っぽい話が出始めて、幼馴

染みで一緒に遊んでいるだけでからかわれる対象にされるので、お互いに大迷惑だからと更に自然に、一緒に

居ることがなくなった。

 ……ほらね?どこらへんで惚れんのよ。

 それはのぶも全く同じだった。

 ちなみに、小学校の頃までは「のぶちゃん」「ななちゃん」と呼び合っていた。



 中学に上がる頃には既に一緒に学校に行くこともなくなっていた。

 クラスも離れてしまったので、一緒に帰ることもなかった。

 別にそれが寂しいとか思った事は、一度もなかったし。

 それどころか、中学に行き始めたら、のぶは大変モテた。同級生から上級生、たぶん女教師からも、想いを

寄せる女ばかりがのぶの周りにはいつも貼りついていた。

 当然、幼馴染みである私は年中知らない女に呼び出されては、のぶとの関係を疑われ、誤解が解ければのぶ

情報をリークさせられた。

 逆にのぶの何がそんなに魅力なのかと訊くと、皆さん一様に、

「顔立ちがキレイ!」とか「スタイルがカッコイイ!」だとか、ワケがわからん事しか言わない。

 ……そんなにカッコイイかなぁ?……まぁ、美しく成長したのかもしれないけど……

 私から見れば、夏休みに一緒に昼寝してのぶが寝しょんべんたれて私の布団を濡らして怒られて、干した布

団が乾くまで下半身丸出しで立たされてた印象の方がずっと強くて、カッコイイ対象にはとても見れない。TV

に映るカッコイイアイドルは寝しょんべんなんかしない!


「そういう歴史が、羨ましいんじゃない?」

 後になって、彼女がさして羨ましい風もなく言っていた。彼女は彼女なりの見方で、私はのぶを好きだと思

っていたに違いない。



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