小説『遠い町からやってきた。』
作者:加藤アガシ()

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「何?」ドアを開けて一番、フナムシはうつろな目でじっとりと僕らをにらんでそう言った。
あいかわらず、脂っこい髪はもじゃもじゃで彼の顔の70パーセント近く覆っていた。


「何じゃねぇよ!!!うっせぇんだよ!!!」

ヒノキさんはそういうとフナムシの股間をいきなり蹴り上げた。
「ええ〜!」僕は思わず、声を出した。うそーん。いきなりの暴行。



突然大事なところを蹴られたフナムシは「ウ”ウ」と何とも言えないうめき声を出しながらその場にうづくまった。突然なことに衝撃を受けながら、僕は妖怪のようなフナムシがうづくまる姿がなんだか映画のワンシーンみたいに思った。そしてそんなこと考えている場合じゃないとと突然我に返った。

「ヒノキさん何してるんですかッ!?」

「はは。マサル、いくぞ!!」ヒノキさんはニヤッとしながら、フナムシの部屋の中を指差しながらそう言った。入る?入るのか?ここに?

僕は何がなんだかわからなかた。


うずくまるフナムシの横を通り抜け、ずかずかと部屋に乗り込むヒノキさんの後を僕は仕方なく追った。
フナムシは押し寄せているのだろう痛みに耐えながら「やめ…ろ…」とボソボソ言っていたが、ヒノキさんはフナムシ自身の存在をもういないものとしていた。

「きったねー部屋だな」そういうとヒノキさんはポケットから小型のデジカメを取り出し、部屋の中をパシャッパシャととり始めた。僕は本当にもう意味が分からなかった。


「なんで写真ですか?」

「思い出作り。こんな写真めったにとれないぜ」僕の問いにヒノキさんはそう答え、写真を撮りまくった。


「う”ううううう」フナムシは相変わらず呻いていた。
ここは地獄か?僕は混乱する。



「よし!始めるか!」

「何をです?」

「大掃除☆」


ヒノキさんはそういうと、フナムシのぐちゃぐちゃ部屋(ゲームとか、エロ本とか、食べかけのカップラーメンとかいったものがあちこちに散乱している)をテキパキと片づけ始めた。
あっけにとられた僕もヒノキさんのそれに従った。


僕らは一言も喋らず黙々と片づけた。(ヒノキさんが持ってきた大量のゴミ袋にぜんぶいれるだけ)
フナムシのうめき声だけが部屋に響く。

フナムシが回復してきたと思うとヒノキさんはさらにフナムシの股間に追撃を加え、部屋にあったガムテープで口をふさぎ、電気コードで体を縛り、彼の自由を奪った。
暴行、住居侵入、監禁。もうヒノキさんは立派な犯罪者だった。






「ふぅ。この辺でいいだろ」


掃除を初めてどのくらいたったのだろう。
ヒノキさんはそういうと、手を止めた。

そして、もぞもぞ動いているフナムシの言論の自由を奪っていたガムテープを勢いよくはがした。
たぶん、わざと痛くなるように。


「な、な、なにするんだ!!!お前らはッ!!!ぼ、ぼ、ぼくの部屋に突然入って!これは犯罪だぞ!!う、う、訴えてやる!!!ぼ、ぼ、ぼくをこんな目に合わせてただで済むと思うなよ!!」

フナムシは絶叫した。

しかし、ヒノキさんはフナムシの前でしゃがみこみ、奴の髪を右手で完全にかき上げ(ヒノキさんがフナムシの髪に触れた瞬間、僕は思わず汚いと思ってしまった)、ちゃんとフナムシ目を見て言った。


「いちいち、うっせーんだよ!お前みたいなやつが一番むかつくんだよ!俺は!前を見ろ!!ちゃんと俺を見て話せ!!この蛆虫野郎が!!いつまでもウジウジ逃げてんじゃねぇ!!」


「…ッヒッ!」

ヒノキさんのドスの利いた声にフナムシは今にも泣きだしそうだった。
というより、たぶん若干泣いていたと思う。
そして、フナムシは何も言えなくなりうつむいた。


ヒノキさんは今度は左手でフナムシの頬をつまむと、ふっと笑って言った。

「俺がお前を変えてやるよ」







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