小説『コメディ・ラブ』
作者:sakurasaku()

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こんなにも後味の悪いビールは久しぶりだ。

誰一人として喋らない異様な空気の中、優海ちゃんの部屋で4人でビールを飲んでいる。

旅館の女将さん(っていうか俺の母ちゃんだけど)に頼んで酒とつまみを出してもらったはいいものの

「優海ちゃん。するめ食べる?」

「優美スルメなんてださいものいらない。」

晃さんが時々、優海ちゃんに話しかけてはいるけれど、こんな調子だ。

飲もうって言いだした本人の美香はさっきから黙ったままだ。

やっぱり美香はしょせん一般人だ。スーパーアイドルの優海ちゃんの説得は無理だよな。

なんて、駄目だ。俺が美香を信用しないでどうする。

「優美ちゃんほらタラチーズがある」

晃さんが懲りずに話しかける

「いらないもん。優海お肉が食べたい」

まだへそを曲げている。次の瞬間いきなり小山村の母が口を開いた。

「優海ちゃん、今からお肉食べさせてあげるから、ちょっと目つぶって」

優海ちゃんは素直に目をつぶる。

「はい口を開けて」

優海ちゃんは素直に口を開ける

この子は本当は素直ないい子なんだなと思った。しかしこの部屋には悪魔がいた。

「おい美香やめろ」

晃さんは唖然として声がでていなかった。

悪魔こと小山村の母はササ虫を口に入れた。

「あっこのお肉おいしい」

アイドルがささ虫を食っている。この村でも年寄りと美香ぐらいしか食わねえササ虫の佃煮を

スーパーアイドル優海ちゃんが食っている。

「優海、このお肉味付けも好き。甘くてさっぱりしてる」

優海ちゃんが久しぶりの笑顔で答える。

晃さんが唾を飲み込んだのがわかった。今俺と晃さんは同じことを考えている。一心同体だ。

よし、優海ちゃんに見せるなよ。絶対正体を見せるなよ。

「今食べたのざざ虫っていうんだよ」

俺達の期待とは裏腹に悪魔が笑顔で物を見せる

「えっ。やだ。気持ち悪いよ。優海食べちゃったよ。えーん牧子さん!」

優海ちゃんが泣き叫んだ。ほらみたことか。

「……でもすごくおいしかった」

俺達は耳を疑った。

「でしょう」

悪魔がまた笑顔で言う。

「すごい!優海って虫食べられるんだ。すごーい!!」

優海ちゃんは喜んでいる。

俺は今やっと気付いた。優海ちゃんは…………おばかさんだ。




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