小説『コメディ・ラブ』
作者:sakurasaku()

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「優海さん、今日は来てくれますかね?」

スタッフが落ちつきなく俺に尋ねる。

「大丈夫だ。安心しろ」

俺は落ち着いているかのように振る舞った。本当は俺が一番心配だ。

スタッフが歓声を上げるのが聞こえてきた。

優海ちゃんがきた。

「おはようございます。皆様ご迷惑おかけしてすいませんでした。」

優海ちゃんが監督の所に駆け寄っていった。

それを見たスタッフ達がどんどん俺の所に集まって来る。

「晃さんさすがです」

違う。俺じゃない。

「晃さんって男前です!」

おいやめろ。解決したのは俺ではない。そんなに褒め称えるな。

「やっぱり晃さんは無敵です」

俺はスタッフ達に我慢できず、言ってやった。

「……まぁね。俺にはできないことはない!」






昼間はあんなに暑かったのに、日が暮れた今は風が強くて寒い。

まあいい。寒い方が畑仕事に合ってる。

それにしても、昨日はまた余計な仕事引き受けて、なんか疲れた。

桑を持つ手が痛い。

優海ちゃんだったかな。ちゃんと仕事に行っただろうか。

本当にどうしてこんなに女って馬鹿ばっかりなんだろうと無性に腹が立った。

桑を思いっきり振り下ろすと、固い土が見事に割れた。

「ふぅ」ため息をついた。

その時、後ろから「美香先生」と声をかけられた。




ロケが終わり、夜部屋で一人でいても面白くない。

ふとあいつのことを思い出した。

あいつに礼でも言いに行くか、散歩がてら小学校へふらふら歩いてみた。

誤解する人なんていないと思うが、

あいつに女としての役割は求めてはいない。

小学校まで来て、門の中をのぞくと本当にいた。

声をかけようとはしたが、なんて呼んでいいのかわからない。

考えた挙句

「美香先生」

と呼びかけた。

「なに?」

あいつが訝しげに振り向く。

「昨日のお礼。」

また戦いになったらたまったもんじゃないので、チョコを一粒あいつにむかって投げる。

「東京のチョコだぞ」

「えっ、本当?」

意外と嬉しそうで驚いた。やっぱり田舎は東京という言葉に弱い。

「先生、ところで何してるの?」

と尋ねた俺がばかだった。

奴は急に笑顔になり鍬を見せてきた。嫌な予感がする

「もう帰ろうかな」

後ずさりする俺。

「せっかくきたんだから手伝ってよ」

「お前この俺様に何いってんだ。俺は5000万人が涙した、純愛ドラマ、ラブアゲインの……」

「いいから」

「近寄るな!やめろ!」




俺はいい奴だ。本当に人がいい。

ゴム長靴に頭にタオルまでまかれ、鍬で畑を耕している俺。

誰がどうみたって田舎者だ。

「こんなこと、子どもにやらせればいいだろう」

思わず本音が出る。

「こどもたちだと深くまで土起こせないし、肥料もめちゃめちゃにまぜちまうからな。」

「がっかりするぞ」

「何が」

「大人が耕した畑なんて」

子どもの気持ちになって答えてやった。

「だから夜やってんでしょうが。」

「えっ?」

俺は驚愕した。まさか……

「子どもたちだけで、畑作りから収穫までやるんだよ。大人は一切手伝わないことになってるから。」

「なんて報われない……俺。」

「そんなもんだよ」

さも当然かのようにあいつは笑う。俺とは根本的に考えが違う。

「俺だったら、子ども達の為に夜中にこっそり畑たがやしてますって写真付きでブログにのせるけとな」

あいつは何も言わず少し笑った。

そして俺、晃様に突拍子もないことをいいやがる。
   
「明日、子どもたちと苗うえするけど、来る?」

「……この俺様が苗上なんてださいことするか。俺はな全国5000万人が」

「わかった。わかった。…誘った私がばかだったよ。」

そうだ。本当に大馬鹿だ。この身の程知らずめ。

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