小説『コメディ・ラブ』
作者:sakurasaku()

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ここは自殺の名所で有名な断崖絶壁のある海である。太陽が地平線に半分隠れており、あたり一面がオレンジ色に染まっている。


女が崖の上から海を見ている。その後ろから男が追いかけてくる。


「おい待てよ!」


女が悲しみに満ちた表情で答える。


「あなたにいいなづけがいたなんて。…」


「俺にはお前だけだ。」


「だめよ。どんなに愛しても決して私達は決して結ばれない愛なのよ」


女は男から去って行こうとする。


「待てよ」男は女の腕を掴む。


「私は借金まみれの貧乏人の娘よ」


「俺はそんなの構わない。」


男、女を抱きしめる


「お父さんの借金が3億もあるの」

男が驚いて答える


「たった3億だけ?」


「えっ」


「たかが3億ぐらいすぐ返してやる。なんてたっておれはK財閥の社長」


石の上に片足を乗せ決めポーズをする


「本当に?ありがとう」


女は泣き崩れる





次第にテレビの枠が見えてきた。これは現実ではなく勿論ドラマだ。


画面の右下には続くとの文字が現れる


自分の部屋で友人の佐和子、哲也の三人でドラマ、ラブアゲインをみていた。


私はテレビを消して壁によりかかり、吐き捨てた。


「これの一体何がおもしろいんだよ。」


哲也も首をかしげながら言った。


「女の人は好きなんじゃないか」


すると佐和子がハンカチで涙を拭きながら満足そうに答える。


「うん、大好き」


私はそんな佐和子の様子を見ていたら、やっぱり女ってちょっと馬鹿なのかもしれないと思い何だか無性に腹
がたって言ってやった。


「ふーん。恋だの愛だのくだらねえことで公共の電波使うんじゃねえっつうの。」


この憤りを表現する為に思いっきり煎餅をかじってやった。


すると佐和子が世にも余計な超どうでもいい昔のことを言い出す。


「くだらねえっていうけど、美香ちゃんだって昔てっちゃんにラブレター書いたことあるんでしょう」


私は思わず食べていた煎餅をのどにつまらせて咳き込んでしまった。


哲也も動揺して意味もなく立ち上がっている。微妙な空気が流れる。


どうしよう。この場をなんとか乗り切らなければいけない。


「まぁ……そのおかげで恋とか愛のくだらなさに気づけたよ。てっちゃんありがとう」 


わざとらしくふざけて哲也に手を振ってみせた。


哲也は何か言いたげな表情でこっちをみているが、知らない。


そうだよ、身の程知らずにクラスの人気者のあんたに告白した私が悪かったよ。


気まずい空気を察して佐和子が話を変えた。


「それにしても、晃っていい男」


あいつの話か。


「この間週刊誌に8股かけてる現場とられてたよ。女の敵だ」


あの後、ネットでチェックしてやった。本当に芸能人だったが、やっぱり極悪非道の男だった。


もう一度怒りが沸いてきたので煎餅を思いっきりかじりとってやった。


すると哲也が小さな声でつぶやく。


「かけるほうもほうだけど、ついてく女もどうかと思うぞ。」


私は哲也をキッと睨んだ。


しかし、佐和子が不敵な笑みを浮かべて言った


「ふふっ、いい男はねみんなでシェア  した方が、多くの女にいい男がまわってくるのよ」


開いた口が塞がらない。


哲也は得意げに言う


「ほらっみろ。」


思わず黙りこんでしまったが、聞いておかなければならないことを思い出した。


「それで、どうしてこいつが村にいたんだよ」


佐和子も興奮して尋ねる


「そうそう。気になるわ。もしかして……」


哲也は急にもったいぶった話しかたになる


「実はな」


私と佐和子が息を呑む。


「なんと……今度このドラマの映画版のロケが……小山村であんだよ。しかも一ヶ月泊り込み」


私と佐和子は一斉に同音異義語を口に出す。「えーーー」


私が下の音域、佐和子が上の音域だ。


「この間美香が晃さんに会ったのは、その宣伝番組とってたんだ」


興奮して立ち上がる佐和子


「いやー!!晃と何かあったらどうしよう。やだ。もう。想像しちゃう。あーっも」


私と哲也は佐和子に言った


「ないないない」


哲也は感動しながら言う。


「すごいだろ!!俺はこの村がようやく日の目を見るかと思うと……」


佐和子は嬉しそうに拍手をしていた。


が、私は面倒なことになりやがってと心底思った。


今の気分を表現する為に煎餅を最大の音をたててかじってやった。


しかし、佐和子がまたお花畑なことを言い出す。


「もしかしたら晃と付き合えるかもしれない」


私が現実を教えてやらなければ


「佐和子ね、芸能人と恋に落ちるってないないない。ありえない。今時、ベタ過ぎて少女マンガでもそんな展開ないよ。」


佐和子がその言葉にトーンダウンして座った。


哲也は相変わらず「この村はな俺が……」と自分と村によっている。


あーあ、映画のロケなんて早く終わってとっとと帰ってくれればいいのに。


めんどくせえ。



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