ロケも終わり旅館の自分の部屋で一人ビールを飲んでいる。
「別に俺がいたってな……」
独り言をわざと大声で言いながら、テレビをつけても音楽をかけても何故か落ち着かない。
俺は心が躍る言葉を見つけた。
「あいつには借りがあるんだから、ここで返しとかないと大変なことになる」
サインを100枚頼まれるかもしれないし、200枚ぐらいかも。
俺の足は自然と学校へと向かっていった。
けれど誰もいない。真っ暗だ。
あいつのアパートにも行ってみたが誰もいない。
どこにいるんだ……
俺は何故かあいつに怒りにも似た感情を覚えた。
「いつものように、かぼちゃちゃんの所にいろよ!」
傍にあった信号機を思いっきり蹴った。
いてぇ。ああっ。いてえ。
信号機けっていいのはドラマの中だけだ。
足取り重く道路を歩いていた。
ふと顔をあげると、遠くからカップルが歩いてくる。
中年風の男がやけに若い女に絡み付いている。
「僕タン、あなたの犬になります」
大声で宣言している。
気持ちがわりいい。心底思った。
しかし、なんだか見覚えがある背格好だ……
「……監督!」
俺は思わず大声をあげてしまった。
しまった声かけるんじゃなかった。
監督と俺の間に気まずい時間が流れる。
「晃さん」
一人の女性に声をかけられた。
最初はファンかと思い顔を作ったが、どこかで見覚えがある。
「佐和子先生!」
確か、あいつの友人だったはず。
「晃さん何してるの?」
佐和子先生は一つも動じず笑顔でこっちを見ている。
「あ、あ、ああ晃君、ここで何してるの?」。
監督が動揺しながら言う。
こっちの台詞だと思いながらも、佐和子先生に聞かなくちゃいけない。
「……佐和子先生……あいつは?」
「……今は一人にしておいたほうがいいんじゃないかしら」
すべてを見通したような笑顔で佐和子先生が答える。
「俺はあいつのこと心配してるわけではなく、勿論女として見てるわけではなく、ただ単純に借りを返したいだけなんだよ」
俺はこんなに下手くそな台詞が脚本にあったら激怒する。
「……川に行くといると思うわ」
また、すべてを見通したような笑顔で佐和子先生が答えた。