小説『コメディ・ラブ』
作者:sakurasaku()

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「私、医者になる。あなたの病気絶対直して見せる」

「……俺なんかにとらわれないで、自分の好きな道に進んでくれ」

「あなたは何があってもたった一つの私の道しるべよ」

見つめあう二人

女は急にポケットから紙を出す。

「ほら見て、つう京大学の医学部、合格したの」

男は大げさに驚いた。


「はいカット」

スタッフの声が現場に響き、途端に騒がしくなる。

義信が駆け寄ってくる

「お疲れ様です」

「おい、なんで急に医者になることになってんだよ」

俺が義信にしか聞こえない声で愚痴を言う

「……そうですね。……でも、医療物は見てて面白いですよ!」

義信が必死に答える。

「俺が決めるわけじゃないからな……」

自分だって、雇われの身だってことは自覚している。

その時、スタッフがやってきた。

「晃さん。すいませんこの間の深夜の密会のシーン撮り直したいシーンがあるんですけど」

「……夜?」

俺はかぼちゃのことを思い出した。

「無理ですかね?」

「……勿論いいよ!何回だって撮り直すよ」

「有難うございます。助かります」

スタッフが礼を言って監督に伝えに言った。

俺、こんなにも好きになってたんだな。

愛しのかぼちゃちゃん。

自分でもこんなにかぼちゃを見に行きたくなっていたことに驚いた。




誰もいない職員室で学級通信を書いている。

「あー集中できない」
   
私は紙を丸めて放り投げる。

ふとした瞬間に晃の笑顔を思い出してしまう。

「恋とか愛とか馬鹿らしくて嫌いなんだよ」

わざと大声で叫ぶ。

本当に私は恋とか愛とかに夢中になっている女が何より嫌いだ。

自分で自分を思いっきり平手打ちする。

ビシッという音が部屋中響き渡る。

「いてぇ」

しっかりしろよ。自分。

しっかりしろよ。自分。

しっかりしろよ。自分

無限にこの言葉を唱えていると、花壇でガタっという音が聞こえた。

私は無意識に花壇に向かっていた。


外に出たけれど、あいつはいなかった。

本当に私どうかしてる。

落ち込みながら、一人でかぼちゃをみている

「だいぶ本葉がそろってきたな」
   
後ろを振り返るがあいつは来ない。

時計を見るともう8時30分になっていた。

「今日はこねえのかよ。芸能人って自分勝手なやつ。もう帰ろう」
   


俺はロケが終わり、急いで学校に来た。

愛しのかぼちゃちゃんは今日も元気だった。

けれど、あいつの姿が見当たらない。

校舎も真っ暗だ。

「あいつ今日はもういねのか。いいよな先生は好きな時間に帰れてさ」

俺はなんだかあいつに無性に腹が立った。



アパートの階段でずっと美香を待っていた。

携帯灰皿にどんどんタバコが増えていく。

「あれ、てっちゃん」

美香がとうとう帰ってきた。

「どうしたの?」

「……いや……またササムシが手に入ってさ」

俺は屁たれだ。相当な屁たれだ。

「上がっていきなよ」

美香が笑顔で言う。

「……じゃあそうするかな」

俺はあることに気がついた。

どうせ晃さんは美香を相手にするわけがない。

だったらもうしばらく、もうしばらくだけ、このままの関係を続けてもいいんじゃないか。

少し心が軽くなった。

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