苛立ちを抑えられず校門を思いっきり閉めた。
鈍い金属音が行き場をなくして辺り一面に響いた。
空を見上げると、満月よりも少し痩せた月がスポットライトのように俺を照らしていた。
心が少し緩む。
「好きだって言うだけなんだけど……」
近くの石を軽く蹴飛ばすと、石はコロコロと転がって草むらに消えていった。
人も車も動物も誰もいない道路を歩く。
街灯だけが等間隔に安心をくれる。
明日夜までロケその後、軽い打ち上げで、明後日の朝帰る。
どうしてもっと早く気がつかなかったんだろう。
あいつが何考えているかさっぱりわからない。
きっと今まで好きだって軽々しく言いまくったツケが回って来たんだ。
どうしても言いたくて、傍にあった街灯に話しかける。
「東京から村までたった3時間だからさ、遊びに来てやってもいいぞ」
勿論街灯は何の返事もしなかった。
旅館の前に義信が待っていた。
俺は声を張り上げる。
「どうしたんだ?何かあった?」
義信が悲壮感たっぷりの顔で駆け寄ってくる。
「監督が、やっぱり優海ちゃん医者にするのやめるって言いだしたんです」
「俺もその方がいいと思う。人気だからってラブストーリーに医療物ぶち込むなんてカオスだ!」
義信が申し訳なさそうに聞く。
「そうすると、撮り直さなくちゃいけないシーンが出てくるんです。スケジュールの延長が……」
俺はクリスチャンでもなんでもないけれど、神がほほ笑んでいるのを感じた。
「し、仕方がないな!監督がそういんだもんな!早く帰りたかったけど、我慢してやる!」
「しかも、2日も滞在伸びることになりそうなんですけど……」
「えぇ。二日も?なんだよ!早く帰りたいのに。でも監督が言うなら仕方がない我慢しよう!」
この後、神が俺を後押ししているのを感じることになる。
「しかも明日は優海ちゃんのシーンを撮るので一日晃さんオフです。部屋でゆっくりしてて下さいね」
「オォ!ジーザス!!」
俺はそう叫んで急いで自分の部屋に帰った。
「オォ!ジーザス!!」
晃さんはそう叫び、急いで部屋に帰っていった。
俺は完全に旅館に入ったのを確認し、電話を手にとる。
「もしもし、ありがとう!」
「うん、うん、監督説得してくれて助かったよ!」
「うん、うん、わかったよ。じゃあね。おやすみ、愛してるよ」
俺は電話を切り、ポケットにしまおうとする。
その時、また電話が鳴る。
「もしもし、はい、大丈夫です。晃のスケジュールは押さえました」
「はい、はい、そうなんですよ。晃ちょっと体調崩してまして」
「明日一日部屋で休養させますのでご迷惑おかけしますが、よろしくお願いします。はい、では失礼します」
俺は大きな息を吐きながら電話を切る。
晃さんの部屋の方向を向く。
「俺は晃さんのマネージャーのプロですからね」
自分でもなんだか可笑しくなり、笑った。