小説『コメディ・ラブ』
作者:sakurasaku()

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「わぁ綺麗」

「こんなに綺麗な夜景を見ても俺の心はときめかない」

「どうして?」

「ずっと鍵が閉められて閉ざされたままなんだ」

「えっ、そうなの?」

「でも君になら……」

「晃さん、私にできるんだったら」

「ほらっ、あっちを見て、俺の心を開ける鍵があのビルのあの部屋にあるんだ。今から行こう」

「もう、晃さんってば」


一人で東京行きの特急に乗っている。

周りは出張に行くサラリーマンだらけだ。私は笑わないように必死でこらえた。

晃が女性を口説く時に使う常套手段らしい。

もっと色んなことが知りたくなって、携帯の小さな画面を覗きこんだ。

インターネットは恐ろしいもので晃と一言入力するだけで、次から次へと情報が出てくる。



晃は自分の求めるレベルに達した女にだけこの俺の心の鍵作戦を使用する。

数回のデートで女性に手を出さなければ脈なしだ。

「俺の心の鍵作戦」の他は「俺の一番星大作戦」がある。



目がつかれてきたので、窓の外に目をやった。

ちょうど目の前を小山村に帰る対向列車が通り過ぎていった。

今日の鞄はいつもよりも少し大きかった。別に何か期待してるわけじゃないけれど。

歯ブラシと着替えが鞄の奥の方で静かに寝ている。






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