「そうです。相須です」
そう言うと、相須社長は見かけとは正反対の優しい笑顔を見せてくれたが、やっぱり眼光はするどいままだった。
優海ちゃんはお人形のように息を殺している。
「今日起こしになった件はもしかして……」
「そうです。うちの優海なんですがね」
相須社長は娘を嫁にくれと言われたときのような威圧感を発しているような気がした。
「いや社長、本当に違うんです。俺と優海ちゃんとは何の関係もなく、たまたま友達によばれてマンションにいったら、写真とられちゃって」
俺は必死に嫁にくれとは言っていないことをかなりの早口でアピールした。
「それはわかってますよ」
予想に反して優しい言葉を貰い、顔を上げてよくよく見ると相須社長は笑顔のままだった。
「よかった」
俺は胸をなでおろした。お前に娘なんかやらんと殴られなくてもすんだのだ。けれども同時に疑問がわいてくる。
「それじゃあ何の為に……」
俺の事務所の社長も相須社長の笑顔も消えた。社長は机の上に置いてあった週刊誌を手にとり俺に差しだした。
「晃、これ見ろ」
俺は生まれて初めて目が点になることを経験した。
表紙にでかでかと「晃ひた隠しにする本命恋人。お相手はラブアゲインのロケ地の小学教師」と書いてあった。
急いで記事の内容をチェックするとめちゃくちゃなことが書かれていた。
お相手のAさんはフェロモン教師として有名だとか、俺と同時に監督にまで手出ししているやり手だとか、
夜のテクが凄くてと自称元彼が証言していたり、教え子の筆おろしをしたとか……
これはまずい。
芸能人の俺は嘘八百書かれても所詮はトーク番組で笑いの種になったり、否定する機会も存分にある。
けれども一般人がこんな記事書かれたら……
ましてやあいつは公務員で先生という、人々が日ごろの鬱憤をはらすために一番の叩きやすい場所にいる。
どうなるかなんて考えなくてもわかる。
「晃さん、ご安心下さい。記事をさしかえさせました」
相須社長が今までで一番の笑顔で俺を見ていた。
「よかった。助かります」
俺は頭を深々と下げた。
「単刀直入にお聞きしますけども、見返りはなんですか」
社長と相須社長が目を合わせた。
お人形みたいに息を殺していた優海ちゃんが俺を心配そうに見ていた。