窓から見える景色が山と川の単調なものから段々と住宅や店舗といったそれぞれが自己主張しているものへと変わっていっていた。
大学一年の4月慣れない大都会東京でホームシックにかかった私は暇さえあれば駅に来てこの電車を眺めていた。
「今乗れば帰れる」と何度迷ったことだろう。けれども誰よりも笑顔で送り出してくれた母を思い出すと乗れなかった。
しばらくはこの電車を見かけるだけで胸が締め付けられるように苦しくなっていた。
けれども5月も中盤にさしかかると次第に仲間ができ始め、東京での生活が楽しくなっていた。
もうこの電車を見ても何も感じなくなっていた。
けれども今再びこの電車を見ると胸が締め付けられるように苦しくなる。
正直に言うと自分でもわからなかった。
あいつのことを好きになり過ぎて、自分がどうふるまえばあいつに嫌われないのか、そればっかり考えている。
そればかりか世界中の女すべてがあいつのことを好きな気がしている。
あいつと一緒にいても幸せなのだろうか?
いくら考えても答えはでてこなかった。
そんなことを考えているうちにいつの間にか窓から人であふれかえった電気街が見えてきていた。