事務所が入っているビルと隣のビルとの間で久しぶりに煙草を吸った。
別に禁煙しようと決意してたわけじゃないけれど、あの村にいた時煙草を買いにいくのも車で30分程離れたスーパーまで行かなくてはいけなかったからというのは只のいいわけに過ぎない。
あの村にいたら煙草っていう不健康なものは不味く感じ、自然と吸わなくなってしまった。
久々に吸う煙草の煙がビル群に吸収されていく。
やっぱり東京では煙草がとてもおいしかった。
携帯が鳴り、見ると義信からメールがきていた。
「多分あと1時間ぐらいで美香さんが晃さんに会いに来ると思います。俺のできることなら何でもします」
あいつ……
義信は本当によく気がつくやつだ。俺のことを一番に考えてくれている。
今だって俺を一人にしてくれてる。
色々裏で手を引いて美香をこっちにこさせたんだろう。
頼りになるマネージャーだ。
……でも俺は義信の思惑通りには動けない。
いや動いてはいけないんだ。
ふと空を見上げると、さっきまで見えていた太陽がもう高層ビルの陰に隠れて見えなくなっていた。
外は相変わらず真っ青なままだったが、太陽がいないと一気に精気を失ったようにくすんで思えた。