どもども。
なかなかゲームの方に話が進まない…。
第21話「女の子として……」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
刻SIDE
「いい加減出てきたらどうだ? リアス」
俺とイッセーがリビングに入った時から、ずっと隠れていたリアス。
まぁ、俺には気配で丸分かりだが……。
俺はイッセーがリビングを出て、自室に帰っていった事を確認してから言葉を発した。
「フフッ、やっぱり気付いてたの」
「俺を誰だと思ってやがる。俺だぞ?」
少しドヤ顔で言ってやると、微笑みながら「それもそうね」とリアスは言葉を紡ぐ。
「トキ、ありがとう。 カウンセリングまでさせちゃって」
「別に構わねぇよ、メンタルのケアもコーチの仕事だ」
サラッと即答してやると、リアスは嬉しそうに口角を上げる。
イッセーの座っていた椅子に腰を下ろし、かけていたメガネを外しながら、手に持っていた本を机に置くリアス。
「ソイツは?」
「レーティングゲームのマニュアル本みたいなものよ。 ……正直、こんな物を読んでいても気休めにしかならないのよね」
「フェニックス…、不死か?」
「ええ」
確かに不死は厄介だ。
その上リアス達はゲーム未経験者、勝つことはハッキリ言って不可能だろう。
聞くところによると、あのアホウ鳥は公式戦では実質全勝らしい。
なんでも、すでに公式タイトルを奪取する候補にもなっているそうだ。
「ライザーが婚約相手に選ばれた時、嫌な予感がしたの。
そうね、今思えばこうなることを見越して、お父様達は最初から仕組んでたんだわ。
私が否応無しに結婚するように、ライザーを当てた。
こうして身内同士のゲームになってもライザーが相手なら、フェニックスが相手なら、
勝てるはずがないと踏んでたんだわ。チェスで言うところのハメ手。スフィンドルね」
気に食わない。
まったくもって気に食わない。
本人の意思を完全に無視して、ソイツの将来を勝手に決める。
馬鹿げている。俺からすれば正気の沙汰とは思えない。
純血を守らなくてはならない、伝統を受け継がなくてはならない。
確かにそれらも大切だ。
だが、望んでもいない事を娘に強制させるなど、ましてや恋愛事、結婚を女に無理矢理押し付けるなど愚の骨頂。
ふざけるなと言ってやりたい。
まぁ、だからこそ俺が参加するのだが……。
「……トキ?」
「………リアス、そっち寄ってもいいか?」
「? ええ、いいわよ」
俺はリアスの隣の席へと移動する。
今のリアスは、何処か諦めている節がある。
気持ちは分からんでもない。 俺が出なければ、ほぼ負けが確定しているゲームで自身の将来が決まるのだから。
不安で不安で仕方ないんだろう。
女のこういう顔を見るのは好きじゃない。
今にも泣きそうだが、必死にそれを隠して誤魔化している表情。
正直、見れたものではない。
どうにかしてやりたい。
俺にはそれが出来る力がある。
何かを失わない為に、後悔しない為に、己の信念を貫き通す為に、俺は力を欲し、手に入れた。
迷う事は無い。
己が魂に付き従えばいいだけだ。
『このゲームで勝つ』
コレが今の最優先事項。
油断せずに行けば余裕の筈だ。
俺が出しゃばり過ぎずに、グレモリー眷属の力を見せられれば、婚約は破棄出来るだろう。
「なぁ、リアス。やっぱ好きでもねぇ野郎と結婚ってのは嫌だよな」
「フフッ、当たり前よ」
少しだけ、笑う。
無理やり作った笑顔。
俺が怪訝そうな顔で見た事で、リアスの表情が曇る。
そして、その重そうに口を開く。
「……私は『グレモリー』なの」
その一言で、全てを理解した。
リアスの抱えている何とも言えない感情を。
「……リアス個人ではなく、グレモリーの者としてしか見られないってことか?」
「ええ、誇りには思うけどね……」
自分自身を見てもらえない。 だが、名門グレモリー家の看板を背負えるという大役。
どうしようもないジレンマ。 気持ちの矛盾。
どう表していいのか分からないだろう。
それをこの娘は耐えてきた。 誰にも相談できずに、たった一人で。
この娘は強い。
力とか、王『キング』としての素質などはまだまだである。
だが、強い。 一人のヒトとして。
それと同時に、脆くもある。
一人で抱え込んで、溜め込んで、もう破裂寸前。
それでも強がって弱みを見せようとはしない。
それがどうしようもなく、可愛らしく思えた。
護ってやりたいと思えた。
「おいで、リアス……」
「…トキ?」
俺は優しく抱きしめる。
リアスも最初は驚いていたが、安心したのか、俺に身を任せる。
「辛かったろう?苦しかったろう?悲しかったろう?
よく頑張ったな、よく耐えたな。女の子が一人で…、さぞ、苦労しただろう?…」
リアスは黙って聞いている。
まだ…、まだ我慢しているのだ。
色んな感情を溜め込みすぎて、今にも壊れてしまいそうなその心で、耐えている……。
「今だけでいい、その溜まってるモノ…、全部吐き出せ。 今この時だけは、ただの女の子に戻ってもいいぞ……」
優しく言い聞かせる様に。
少しでも、負担が減らせる様に。
だが、リアスはそれを良しとしない。
「……ダメ。 今ここで吐き出したら…、もう耐えられない…。 …もう、一人で立てなくなりそうなの…。
…皆、私の為に頑張ってくれてるのに…、私が、ぐすっ…私がしっかりしなくちゃ……」
「一人で無理しなくていい。 そういう時に支えてやる為の仲間だろ?
俺が支えてやる、受け止めてやる。 だから此処でスッキリさせとけ…。 明日からまた頑張ればいい。
…もう、泣いていいんだ。 側にいてやるから……。……『泣きたい時に泣ける強さ』ってのも、あるんだぞ?」
「……うん…ありがと」
リアスは泣いた。
俺の腕の中で。
俺の胸に顔をうずめて。
俺は何も言わずに、優しく抱きしめたまま、頭を撫でる。
時間が過ぎるのが遅く感じる。
まるで俺達二人だけしかいない様な錯覚に見舞われる。
それほど、今はこの娘が愛おしい。
そう、感じた。