小説『IS〜world breaker〜』
作者:山嵐()

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9:突き通せる嘘なんてない




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「つーかーれーたー……」

俺は今日の授業を終え、部屋に戻ってベットに寝転がっていた。
暇だな………。
まだ眠くないし。
よし、今日の出来事を振り返ろう。



―――――――――――――――――――

実習で………


「あれ?これじゃあISに乗れないな」

「ほんとだ〜、どうしよ〜」

(完全にわざとだな…。視線が一夏に向いていると言うことは…)

「仕方ない、運んでやるよ」

「本当に!やったー!」

(そんなに面倒なのか。ISに乗るの)

―――――――――――――――――――

昼食で………


「というわけでシャルルも誘ってみた」

「ど、どうも………信に誘われて来ました」

「ほら、そんなにかしこまらずに楽にしろよ」

「そ、そう?じゃあ………」

「よしっ!みんな揃ったところで飯を食べるか!いただきまーす!」

「お前はやっぱりカレーなのか……」

「なんだよ一夏。うまいじゃん、カレー」

「バランス悪くないか?」

「ええぇー………そうか?」

「そ、そうですわ!し、信さん!たまには違うものを………よかったら………わたくしの、りょ、料理もどうぞ!」

「うーん………そうか?じゃあ……いただきます!」

パクッ、モグモグ…

「!?!?!?こっ、これはっ………!?」

「い、いかがでしょうか……?」

「う、うん、すごいぞセシリア。すごく……すごい」

「ほ、本当ですか?では残りもどうぞ!」

「え!?いいよ!悪いよ!いや体にじゃなくてセシリアに!ほ、ほら!自分の分が無くなっちゃうだろ!?」

「大丈夫ですわ!わたくし、購買部で自分の分を買っておきましたの!」

「あ、ああ…………そう…………そうなんだ…………じゃあ、もらうよ…………あは、あはは………」

「ちょっと!まさかあたしとの約束は忘れてないでしょうね!?あたしの酢豚も食べなさいよ!」

「あ、そうだったな。じゃあ………」

ひょい、パクッ。

「ど、どう………?」

「…………し、舌が麻痺している…………」

「え?」

「いや!?うん!うまい!うまいよ!さすが鈴だな!」

「そ、そう?か、感謝しなさいよね!」

「あ、あはは………そうえば一夏、お前飯は?」

「うん?俺の分は箒が弁当作ってくれたぞ?」

「なん………だと………?」

「な、なんだ。私だって料理くらいはできるぞ!ほら、一夏」

「おお……!サンキュ」

「つくづく羨ましいやつだな………」

「いただきまーす!」

パクッ、モグモグ

「うまい!これって結構手が込んでないか?」

「!じ、実はな!味付けは――」

あーだ、こーだ

(おお、箒が今までにない笑顔に!)

「あれ?でもお前のに唐揚げ入ってないじゃないか。ホラ」

(なっ、なにぃ!さすが彼氏と彼女!こんなことも堂々と人前でやるとは!見てるこっちが恥ずかしい!)

「あ、これってもしかして日本ではカップルがするっていう『はい、あーん』ってやつ?仲睦まじいね」

「シャルル、こういうのは暖かい目でそっと見守ってやるもんなんだぞ」

「そうなの?」

「そういうもんだ。あっ、あとさ、今日の夜俺の部屋に来てくれよ。一夏の部屋の隣だからさ。いろいろシャルルに質問があるんだ」

「うん、わかったよ。じゃあ、時間は――」

―――――――――――――――――――


「う、うん?」

俺は目をこすって上体を起こす。
いつの間にか寝てしまっていた。
そうだ。
今日はシャルルを部屋に招待したんだった。
コンコン。
ナイスタイミング。

『信?いる?』

「ああ。入っていいぞー」

「失礼しまーす…」

「よっ、待ちくたびれて寝ちゃってたぜ」

「ほ、本当に?ごめんね」

「謝ることなんてねーよ。もっと楽にしていいぞ。俺たちは男同士なんだから」

「うん、ありがとう。信」

ニコッと笑うシャルルに思わずドキッとする。
やっぱ、そうだよな…。
それしか考えられないもんな…。
俺が今日シャルルを呼んだ理由はただひとつ。
シャルルの隠し事を聞くためだ。
だけど、来ていきなりはまずいよな。
もう少ししてからにしよう。
結局は問題を先送りにしただけなのだが。

「そうえば、シャルルはどの部屋になったんだ?」

「一夏と同じ部屋だよ。だから、信とはお隣さんだね」

「本当か?これから楽しくなるな」

ニコッと俺も笑うと、シャルルは少し赤くなって下を向く。

「と、ところでさ。質問って何?何でも答えるよ」

「ああ、そうだったな。でもその前に俺の自己紹介をするよ」

それから俺は自分のことを話した。
俺が何でIS学園に入れられたか、俺のこと、クラスのこと、あとたまに織斑先生や一夏のこと。
あることないこと様々ぶちこんだことはご愛敬。

「ふふっ!そうなんだ。みんな楽しそうだね」

「ま、それなりにな」

シャルルは目を輝かせて俺を見ている。
まるで親に物語を聞かせてもらっている小さい子どものようだ。
目の前にある瞳は澄んだエメラルド色で、とてもきれいだった。
……本当に言うべきなのか?
言ったあとにまた、シャルルはこんなふうに俺を見てくれるだろうか。

「じゃあ、今度は僕の番だね。何でも質問していいよ」

「……シャルル」

「何?」

「俺、誰かの悩みごととか気付いちゃうと……なんていうか……余計なことするんだ」

「?」

「…………嘘ついてるとか、何か隠してるとか、わかっちゃうからさ。ほとんど」

俺が真面目な口調になったので、シャルルからも笑顔が消える。

「信?いったいどうしたの?そんなに――」

焦っているように見えるシャルルの言葉を遮り、思いきって俺の結論を言葉にする。

「お前――」

シャルルの目を真っ直ぐに見る。


「女だな?」









シャルルは心臓が止まった。
いや、実際は止まるわけないのだが、そんな風に感じた。
いけない。
何とかやり過ごさないと。

「し、信?冗談でしょ?あ、あんまり面白くないなあ………ほ、ほら、さっきの一夏の話。あれの方が――」

「冗談じゃない。お前は女だ。今完全に確信した」

そう言って自分を見つめる少年は、今の動揺したシャルルと対照的にとても落ち着いていた。

「なあ、シャルル。もし、もしもだ。俺に理由を聞かせてくれてもいいなら、俺がお前を助ける。話したくないなら、それでいい」

優しい声で信が話しかけてくれる。
シャルルは信の目を見た。
何でも質問していいと言ったのは自分だ。
だったら――

「今言ったろ?『話したくないなら、それでいい』。『答えるのが義務だ』とか、そういうのじゃないんだ。お前が決めろ」

「本当に何でもお見通しだね……」

一回深呼吸して気持ちを落ち着かせる。
初日からいきなりばれてしまうとは。

「そうだよ、信。僕は男の子じゃないんだ。女の子なんだよ」

言ってから急に怖くなった。
もし、信が助けてくれなかったら?
それどころか、先生たちに告げ口されたら?
それが、あの人の耳に入ったら?

「本当に?本当に助けてくれるの?」

不安で不安で、思わず子どもっぽい質問がでてしまった。

「お前が必要とするなら」

信は静かに言う。
不思議だ。
さっきまでの不安が一瞬で消し飛んだ。
信とは今日会ったばかりなのに、なんだか心から信頼できる。
きっと助けてくれる。
そう思った。

「……あのね、信。僕は――」

どれくらい長い間話しただろう。
自分が愛人の子供だということ、デュノア社のこと、ここに来た理由、正体がばれたときの自分の運命――
自分でも驚くぐらいスラスラと言葉が出てきた。
何もかも吹っ切れたからだったのだろうか。
しかしシャルルは目の前の少年だからこそ、ここまで話せたのだと思った。

「こんな感じかな?ごめんね、信。騙してて」

頭を下げる。
すっと服がこすれる音がした。
信が立ち上がったのだろう。
どうしよう…。
怒らせちゃったかな?
『お前みたいなウソつきは出ていけ』とか言われないかな…?
また出てきた不安と恐怖で、心が覆われそうになる。

「シャルル」

気付くと信が目の前にいた。
座っている自分の目の高さに合うようしゃがんでくれている。
顔がとても近い。

「し、信?」

「…………」

ギュッ………。
暖かい体温が直接体に伝わる。

「ひゃぁ…………!」

返事の代わりに突然抱きしめられた。
頭が混乱してうまく思考ができなかったが、自分の顔が熱くなるのはわかった。

「ごめんな、シャルル……そんな辛いこと話させて……」

信はそう言ってますます自分を強く抱きしめる。
シャルルは鼓動が早くなるのを感じだ。

「絶対……絶対に、お前を助ける」

決意に満ちた言葉。
シャルルは『助ける』と言ってくれたのがとても嬉しかった。
信は温かくて、優しくて、力強くて。
シャルルはいつの間にか女の子の顔に戻っていた。
無意識に、シャルルも信をギュッと抱きしめる。
信の鼓動が聞こえる。
こうしていると、なんだかすごく安心する。

「……信、あのね、僕、名前も嘘ついてるんだ。信にはばれちゃったし、本当の名前教えるね」

返事はないが、かまわない。
こんなにお互いが近いのだから、絶対に聞こえる。
本当の自分。
母から貰った大切なもの。

「『シャルロット』…………僕の本当の名前はね、『シャルロット』って言うんだよ?2人だけの時はそう呼んで…」

「そっか……本当のこと話してくれてありがとう、シャルロット。絶対にお前を守ってやる」

「うん……」

シャルロットはとっても幸せで、優しい気持ちだった。
もしできるなら、このままずっと――

『おーい、信。シャルルいるか?』

はっと我に返る二人。
しばらく見つめあって、お互い顔をぼっと赤くする。
そして、ばっと勢いよく離れる。

「ご、ごめん…」

「う、ううん…」

ばつが悪そうにうつむく信とシャルロット。
数秒後、ドアがガチャリと開いて一夏が入ってきた。

「なんだよ。いるなら返事しろよ…………あれ?二人とも顔赤くないか?」

「「全然!」」

二人の勢いにたじろぐ一夏。

「じ、じゃあ、シャルロッ――」

「し、信!」

いけね、とでも言うように信は両手で口を隠す。
幸い一夏にはばれなかったようで、信とシャルロットのやり取りを見て『?』となっている。

「お前らおかしくないか?」

「「おかしくない!」」

再びたじろぐ一夏。

「じゃ、じゃあシャルル?一夏も来たし、今日は…」

「えっ!あ、あ、ああ、そそ、そうだね。さっ行こ、一夏」

「えー!せっかくだから三人で遊ぼうぜ?」

「「いいから!」」

たじろぐ一夏、その3。

「お、おやすみ、シャルル。と、一夏」

「う、うん。おやすみ、信」

「おやすみ、信。また明日な」

バタンとドアが閉まる音を背中で聞いて、廊下を歩き出す。
鼓動がまだおさまらず、耳鳴りがする。

「なあシャルル、なんかあったのか?」

「なっ、何で?」

「やっぱり赤いぞ、顔」

それはそうだろう。
あんなに突然、抱きつかれるなんて思ってなかった。
恥ずかしいやら嬉しいやらで自分の頬が火照っているのはいやというほどわかった。

(で、でも、もうちょっとあのままでも…)

もう一度あのときの信と自分を想像して、さらに顔が熱くなるシャルロット。

「シャルル?」

「ひゃい!何かな!?」

「風邪か?」

「違うよ!」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
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――――――――――


その夜はこんな感じだった。
シャルロットの場合。

「『俺が守ってやる』かぁ……。ふふっ、信ってばカッコつけすぎだよ」

ベットの中で一人顔を赤らめながら呟くシャルロット。
抱き締められた感触がまだ残っている。

(あったかかったなあ、信……)

信の代わりに布団をギュッとする。

(また抱き締めてくれないかな……)

自分の考えていることにますます顔が熱くなる。
何とか眠ろうと目を閉じるが、そのたびにあの映像が頭に浮かぶ。

(う〜〜………眠れないよ〜〜………)

真っ赤に顔を染めて布団を頭から被る。
どうやら朝まで眠れそうにない。

―――――――――――――――――――

信の場合。

(なんてことしちまったんだ、俺は!女の子にいきなり抱きつくとか、完全に変態じゃないか!)

信は自分がしてしまったことに対する罪の意識で眠れていなかった。

(どうする、俺!明日からどうシャルロットと接する!?つーかシャルロットは俺とどう接するつもりなんだ!?ヤバイぞ…)

信が脳内で明日のシュミレーションを始める。

・・・・・・・

パターン1:無視

『よ、よお…』

『……』

『……お、おはよう、シャルル』

『……チッ』

『し、舌打ち!?』

『どうした信、シャルル。なんかあったのか?』

・・・・・・・

パターン2:暴力

『よ、よお…』

バシーン!!

『……変態』

『どうした信、シャルル。なんかあったのか?』

・・・・・・・

パターン3:とりあえずなんか怖い

『よ、よお…』

『あっ、信!ちょうどよかった』

『ど、どうした?』

『信ってさ、包丁と銃どっちが好き?燃やすのと沈めるのだったらどっち?やっぱり痛いのは嫌かな?』

『……』

『どうした信、シャルル。なんかあったのか』

・・・・・・・


(駄目だ!どうしたって嫌われてるし下手したら殺される!つーか一夏どんだけ気になってんだ!)

想像の中の一夏にツッコむ。

(で、でもなあ、あんなに悲しそうな顔してる女の子放っておけないよな……)

話をしている時のシャルロットの顔を思い出す。
やっぱり、あいつには笑っていてほしい。

(シャルロット、いい香りしたな…)

………………。
………………。
………………。
………………。
………………。
………………。

「っておい!何考えてんだ!ダメダメダメダメ!」

結局朝まで一睡もできない信であった。









「お、おい…………2人とも大丈夫か?」

「……」

「……」

俺はなぜか無言の信とシャルルに挟まれ、教室への道を歩いていた。
なんか知らないけど、二人とも眠そうだ。

「なあ、信」

「……」

「おい、シャルル」

「……」

なんだこれ。
なんで俺がこんなに困ってるんだ?

(信。シャルルとケンカでもしたのか?早いとこ謝って仲直りしろよ)

この雰囲気に耐えきれず、信に小声でアドバイスを送る。

(…そうだな。このままずっとってわけにもいかないしな……)

(そうだぞ!早いとこ俺をこの状況から助けてくれ)

「あ、あー…。しゃ、シャルル?」

やっと信が口を開く。
シャルルが少しビクッとする。

「そ、そのだな……。あれは、あのー、何て言うか、愛情表現?と言うか、何と言うか……」

「……愛情」

シャルルがボソッと喋る。
心なしか頬が赤いような…。

「い、いや、違う!愛情じゃなくて、え〜と……」

「……違うの?」

シャルル、なんかガッカリしてないか?

「い、いや、違わない!」

何であんなに焦ってるんだ?
いくら気まずいからってそんなに焦ることないだろ。

「あー、もう!と、とりあえずだな!ゴメン!シャルル!だから怒んないでくれ、なっ?」

手をあわせて深々と頭を下げる信。

「シャルル、こいつも反省してるみたいだから許してやってくれ。俺からも頼むよ」

「……ふふっ、いいよ」

信が顔をあげるとシャルルがクスクスと笑っていた。

「おお!わりとあっさり!よかったな、信!」

「あ、ああ…」

「ただし!」

シャルルが人差し指をビシッと信に突き付けて言う。

「ち、ちゃんと僕のこと、守ってよね!」

はて?
何言ってんだ、シャルル。
誰かに狙われてるのか?
俺はいろいろ考えてみたけど、わけがわからなかった。
信も最初は目を丸くしていたが、徐徐にその顔が笑顔になった。

「ハハッ、なんだそれ。安心しろ、任せとけ。いやー、焦ったー。あはははっ!」

「もー、信!……ぷっ、ふふふっ」

なんかよくわからないけど仲直りしたみたいだ。
2人につられて俺も笑ってしまう。
やっぱりこうやってみんな笑ってるのが一番だよな。
さっきまでの沈黙が嘘のように楽しく3人で喋りながら、教室へ入る。
それぞれが自分の席に座ると、ちょうど先生たちが入ってきた。
山田先生が教壇に立つ。
なんだか困っている雰囲気だ。
どうしたんだろ?

「えーっと、き、今日も嬉しいお知らせがあります。また一人、クラスにお友達が増えました」

は?
話がわからないでいると、長い銀髪の女子が入ってきた。
右目に眼帯をしている。
怪我のときにするやつじゃなくて、本物の。
その風貌といい、雰囲気といい、『軍人』って感じだ。
間違いなく、学校に来るような人じゃない。

「ドイツから来た、ラウラ・ボーデヴィッヒさんです…………」

ひそひそ……

「どうゆうこと?」

「二日連続で転校生だなんて…」

「いくら何でも変じゃない?」

女子が話し出す。
俺もまったく同意見だ。

「み、皆さんお静かに!まだ自己紹介が終わってませんから」

山田先生が少し強めに言葉を発する。
それでもなかなか自己紹介をし出さない銀髪の少女は、ますます山田先生を困らせていた。
そこへ千冬姉が助け船を出した。
仕方なく、という感じだが。

「挨拶をしろ。ラウラ」

「はい、教官」

(『教官』?ってことは千冬姉がドイツにいた頃の……)

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

……………。
……………。
……………。

「あ、あの…以上、ですか?」

沈黙に耐えかねた山田先生が転校生に話しかける。

「以上だ」

バッサリ。
バッサリ過ぎて清々しい。
ふと、ラウラと目があった。

「!貴様が………」

ラウラがこっちに来た。
どうしたんだ?
握手?


バシッ!!



「…へ?」

いきなり殴られた。
殴られた?
は?
ええ!?
な、なんで!?

「私は認めない………貴様があの人の弟など……認めるものか」

痛いやら、びっくりするやら、むかつくやらで頭が混乱して言葉が出ない。
ラウラの真っ赤な左目は色と対照的に、冷ややかな眼差しを俺に向けていた。





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