小説『IS〜world breaker〜』
作者:山嵐()

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3:努力できることは誰もが持つ最高の才能




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一夏vsセシリアの試合当日の朝。
千冬はIS格納庫にいた。
目の前にあるのは、黒いIS。
先日届いた真宮信の専用機だ。
まるで何かを待っているかのように、ただ静かに置いてある。
千冬はすぐこの専用機を渡すことはしなかった。
真宮信というのは何者なのか、どういう人間なのか、この目で確かめたかった。
もしも自分の有能さを自慢して他人を見下しているようなやつであれば、専用機を持つ資格があると判断するまでここに置いたままにするつもりだった。
しかし。
千冬は小さく微笑む。
まだ入学してから日は浅いが、普段の様子を見る限りまったく問題はない。
突出した能力を持ちながら、普通に生活を送れている。
他人を理解し、助け合いながら。
今思えば、信が傲慢だと考えていた過去の自分が甚だ疑問である。

「見せてもらおうじゃないか、こいつをどれだけ使いこなせるか。お前の実力を」

千冬は静かに専用機に手を触れる。
ヒヤリとした装甲の下に、なにか熱いものが脈打った気がした。











「なあ、箒」

「なんだ、一夏」

「ISのことを教えてくれる話はどうなったんだ?」

「……」

「目をそらすな」

遂に、月曜日。
今日はいよいよ、一夏VSセシ…オルコットさんだ。
一夏は結局篠ノ之さんに特訓をしてもらったらしいが、毎晩毎晩、俺の部屋に来ては
『ISのこと全然教えてくれないんだ、あいつ』と愚痴ってた。
で、当日になってこんなやり取りが俺の目の前で行われている。
ま、お互い名前で呼び会えてるし、篠ノ之さんも一夏と一緒に居られて嬉しいみたいだからいいか。
ちなみにここは第三アリーナ・Aピット。
逆サイドのBピットにはセシ…オルコットさんが待機してるはずだ。
ていうかこの会場、端から端まで何メートルあるんだ?
広すぎだろ。
まさに飛び回ったりするにはこれ以上ない大きさだ。
ただ、まだ必要なものがない。
一夏の専用機だ。
間に合わないときはどうするんだろう?

「お、織斑くん織斑くん織斑くんっ!来ました!織斑くんの専用IS!」

山田先生がバタバタと駆け寄ってくる。
俺の数秒前の不安は杞憂だったようだ。
よかった。
不戦敗とかになったら目も当てられないからな。
少し遅れて、織斑先生がビシッとした姿勢で歩いてくる。
そして一言。

「織斑、フォーマットとフィッティング、その他の感覚はぶっつけ本番で身に付けろ。いいな?」

相変わらず織斑先生は厳しいなぁ。
実の弟なんだから、優しくしてあげましょうよ。

ガガガガ………

そんなことを思っていると、やけに大きな音をたてて格納庫が開きだした。
避難用シェルターみたいな重厚な扉が上にスライドし終わると、そこには灰色の機体が。

「これが、一夏くんの専用IS、白式です!」

目の前の搬入口から表れたISを山田先生が指差す。
へぇ〜、白式か………。
全然白くないけど。
このISの名付け親に由来を聞いてみたいもんだ。

「実技試験で装備したのと同じようにすればいい。あとは勝手にそいつが何とかする」

織斑先生の言葉に促され、一夏は戸惑いつつ白式を装着する。
小気味のよい圧縮空気の音が聞こえたと思うと、一夏の顔の周りに空中投影ディスプレイが浮かび上がる。
こちらからはよくわからないが、どうやら機体情報が表示されているようだ。

「おお。なかなか似合ってるな、一夏。で?どんな感じだ?」

「ああ、悪くない。大丈夫だ」

しっかりした口調で答える一夏。
やけに自信ありそうだけど、どっから出てくるんだ?
ま、弱気になってるよりはいいんだけどさ。

「じゃ、あいつに目にもの見せてやれ。勝ってこいよ」

「ああ!」

俺と一夏は右手を前にだして、コンッと互いの拳を軽くぶつけ合う。
俺の素手に、固い金属の拳の感触が伝わった。
そのあと一夏が振り返ると、そこには箒がちょっとだけ不安な顔をしている。
それを感じ取ったのだろう、一夏は優しく微笑んだ。

「箒」

「な、なんだ?」

「行ってくる」

おー……カッコいいぜ、一夏。
スッと浮かび上がった白式が重力偏向カタパルトに機体を預ける。
その延長線上にあるシャッターが開き始めると、眩しい陽光が部屋に入ってくる。
豆知識だが、カタパルトを使うのは出撃時のエネルギーロスを減らすためらしい。
また、打ち出される時にかかるGを相殺できているかでISの操縦者保護機能がしっかり発動しているかを確かめる最終安全確認でもあるとのこと。
教科書から引用。
ま、それが本来の目的かは知らないけどな。
あとで山田先生あたりに聞いてみよう。
こちらからは一夏の背中が見えるだけで表情は見えないが、きっと緊張してるだろう。
頑張れよ。
俺が心のなかでエールをするのと同時に、出撃ゲートが完全に開きる。
カタパルトが一気に弾け、一夏は銃弾のように打ち出されていった。
速っ………。
俺もあれやることになるのか……。
それを見届けると、織斑先生が俺に声をかけた。

「真宮。お前もじっくり試合をみたいだろう。山田先生や私と一緒に、制御室に来たらどうだ?観客席で見るより細かい動きが見やすいぞ」

「本当ですか?なら、お言葉に甘えて」

「あと篠ノ之も来い。いい勉強になる」

「わ、私もいいんですか!?」

「なんだ?嫌か?」

「いっ、いえ!い、行きます!」

俺と篠ノ之さんは織斑先生たちの誘導に従い、後ろをついていくの。
ちらりと横顔を見ると、篠ノ之さんと織斑先生は心配そうな顔をしていた。
どうやら一夏の周りには素直じゃない女性が多いようだ。
あいつもあいつで苦労するんだなぁ。











(まったく、情けない……)

試合を終え、目の前で正座をして織斑先生に説教されている幼なじみを見て思った。
ふと、隣にいる少年と目が合う。
『まぁしょうがないよ、気持ちはわかるけど』とでも言いたげに肩をすくめられた。
一夏の試合は初心者にしては上出来だっただろう。
それならば、こいつはどれくらいやれるんだろうか。
さっきの試合の間、ほとんど瞬きもせずにモニターを見ていた少年を見てそう思う。
結果をいうと、試合は一夏の負け。
だが、もう少し白式にエネルギーがあれば、逆転勝ちだった。
雪片弐型。
自身を守るシールドエネルギーすら攻撃に転化する、一撃必殺の諸刃の剣。
IS同士の試合では、シールドエネルギーが尽きた方が敗者となる。
絶対防御という、全てのISに備わっている操縦者の死亡を防ぐ、シールドエネルギーを極端に消耗する能力。
これを使用させて大幅にエネルギーを削る、それが一夏の武器だった。
しかし、相手を斬る直前に白式のエネルギーが切れた。
まったく、本当に情けない。
自分の使う武器の特性さえわかっていないとは。
だけど、これはこれでよかった。
一夏は負けず嫌いだから、このまま負けっぱなしは気にくわない。
きっと、もっと強くなりたいと思うはずた。
そうすれば――――

「また一夏と二人で稽古できる?」

耳元で小さく囁かれた。
心臓が飛び上がる。
勢いよく振りかえると、男子が笑っていた。
箒はムスッとした表情をなんとか作りなおす。
こいつも、あの人と同じ天才。
私の姉と同じ。
しかし、あの人と違う何かを感じる。
安心感というのだろうか、この人懐っこい笑顔の少年になら何でも話してしまえるような、そんな感覚がわいてくる。

「安心してくれ。別にどうこう言うつもりはないからさ。今のはちょっと確認しただけ」

「………ど、どうして」

「ん?」

「どうしてそう思うのだ?私と一夏は、その、なんだ…………あまり仲良く見えていなかったと思うのだが…………」

「いやいや。そんなことなかったぜ?少なくとも俺から見たら仲良く見えたけどな」


ニコッと笑顔を見せられると、なんだか落ち着かなくてうつむいてしまう。
目と目が合わせられない。
なんだか気恥ずかしいのだ。
でも不思議と嫌な気分はしない。

「じゃ、俺は先帰るわ。やることもあるし。一夏をよろしく、篠ノ之さん。後は二人でゆっくり帰ってきてくれ」

「……きだ」

「へっ?」

キッと唇を結んで顔を上げる。

「わ、私の名前は箒だ。今度からは、名前でかまわない」

一瞬不思議そうな顔をしていたが、すぐにその顔は優しい笑みに変わった。

「わかった。俺の名前は信だ。よろしく、箒さん」

「『さん』もいらないっ!」

「あははっ。わかったよ、箒」

「ああ。よろしくな、信」

一夏とはまた違った、落ち着いた雰囲気が新鮮だった。
笑顔の信を見ていると自然にこちらも笑みがこぼれてしまう。
すると、信がやれやれと言いたげにため息をついた。

「やっとだな」

「は?」

「やっぱ笑った方が美人だぜ、箒は。一夏もその顔見たいと思うけどな」

「な、なにを言っているっ!?わ、私は別にっ………」

別に。
別になんだと言いたいのか。
続く言葉が見当たらず、ただ顔が赤くなっているのだけがわかった。

「あ、俺そろそろ戻らねぇと。箒、一夏をよろしくな〜!」

「ちょっ!?ま、待てっ!」

制止をしたものの、信は背を向けてひらひらと手を振るだけだった。
追いかけようか追いかけまいか迷っていると、後ろからなにも知らない呑気な声が。
ようやく先生の説教から解放されたらしい。

「はぁ…………やっと終わった………ん?どうした?箒?あれ?信は?」

「う、うるさいっ!この負け犬!!ええい!一から鍛えなおしてくれる!」

「いてっ!!な、なんで竹刀持ってるんだ!?」

「うるさいうるさいっ!これから放課後は空けておけ!私自ら稽古してやる!!」

「いてっ!お、おい!止め、止めっ、ぎゃーーーーー!!」

どうやら一夏に笑顔を見せるのは、まだ先になりそうだ。










自分の部屋に戻り、バタンとドアを閉める。
頭によぎるのは先程の戦い。
正直、あの一夏がぶっつけ本番であそこまで戦えるとは思っていなかった。
本番に強いタイプか、あいつ。
しかもフォーマットとフィッティングも試合の中でもやり遂げた。
試合こそ負けたが、後少しで一夏が勝っていた。
これで明日の試合は俺vsセシ…オルコットさんということになる。
仮にもイギリス代表候補生だ。
気を抜けば一瞬で勝負がついてしまうのはわかっている。
一夏には悪いが、少なからずセシ…オルコットさんの手加減もあったからこその接戦だったのだろう。
俺はベットに腰を下ろした。
恐らくもう漬け込む隙はない。
しかし、希望がないわけでもない。
俺の専用機。
それがどんな性能なのかが、明日の試合に大きく関わるはずだ。

「………そういや、結局白くなったな……」

一夏の白式は最初こそ色が灰色だったものの、その真の姿をさらしてからは名の通り純白の機体だった。
果たして俺の専用機は何色なんだろう。
そんな下らないことを考えて、俺はちょっと笑うのだった。










自分は今日、勝ったのだろうか。
試合後、セシリア・オルコットは何度も問いかけている。
シャワーが肌にあたって奏でるリズミカルな音が妙に耳障りだ。
セシリアは湯気の曇りを拭い、鏡に映った左右対称の自分の姿を見つめた。
なんだかとても冴えない表情をしていた。
落ち込んでもいないが、かといって気楽にしているわけでもない。
悔しそうだ、とても。

「わたくしは………勝ち、ましたわ………」

自分に言い聞かせるように言ってみる。
しかし心はまったく晴れない。
髪の毛に沿って水滴がどんどん床の排水溝に吸い込まれていくなか、セシリアは知らず知らずにため息をついていた。
そんな弱気でどうする。
心のなかで自分を鼓舞する。
うつむき気味だった顔を上げて、もう一人の自分と向き合う。

「そうですわ………わたくしはイギリス代表候補生、セシリア・オルコット。エリートなのですわ」

徐々にその瞳に闘志の炎が広がっていく。
今日はただ油断しただけ。
そうだ。
だから、明日は最初から全力で戦う。
不本意な勝利ではなく、圧倒的な勝利を得るために。
ダラダラと出しっぱなしにしていたシャワーを止める。

「もう遊びは終わりですわね………わたくしが一番だということを証明して差し上げますわ」

静かに、けれども強い口調でそう言ったセシリアは、拳をきつく握った。












「ま、今日はお疲れ様。ずいぶんいい線いってたぜ?」

「そんなこと言ってくれるのはお前だけだよ、信。嬉しくて涙が出そうだ。うぅ……」

放送席、放送席。
本日、俺の部屋には大奮闘をみせた織斑 一夏くんが来ています。
ずっと愚痴ってるけど。
その愚痴を聞く限り、どうやら箒は放課後に一夏と二人だけで特訓できるようだ。
箒……。
二人きりとはやるじゃないか。

「ところでさ……信は大丈夫か?明日」

「ああ。やれることはやった。特訓もしたしな」

「お前の特訓って何なんだ?すげぇ気になるんだけど」

「………知りたいか?」

コク、コクと一夏が頷く。
少し悩んだが、別に減るもんじゃないしいいだろ。
一夏にとってもいい勉強になるはずだし。

「わかった。じゃあ、今日の最終確認の特訓に付き合え」

「え!?何でだよ!?もう今日は疲れたって!勘弁してくれ!」

「安心しろ。めっちゃ簡単だから」

……なんだ?
その顔は?
『嘘だろ』見たいな目は。
そんなに俺が信用できないのか!

「本当だって!騙されたと思って!な!」

「そこまで言うなら…」

「よろしい!じゃあ始めるか!!」

早速準備に取りかかる俺。
泣いても笑っても、明日が本番。
悔いの無いように全力をつくす。
ただ、それだけだ。





――――――――――――――――――――




翌日。
俺とセシ…オルコットさんの対戦の日になった。
天気は晴れ。
雲ひとつない、まさに決闘日和だ。
遂にこの日が来た。
気持ちを落ち着かせるため、深呼吸をする。
そうえば、受験の日も深呼吸してたな。
あれからずいぶんと時間がたった気がする。
俺は今日も第三アリーナ・Aピットに居る。
昨日は観戦者だったが、今日は違う。
一夏と立場を交換した俺は、戦う側にいる。

「じゃあ、開きますね」

山田先生がそう言って、ピット搬入口を開く。
俺の専用機は予定通り届いていたらしく、変にゴタゴタすることはなかった。
聞き覚えのある低音を部屋中に響かせて開く扉は、宝の山でも守っているかのようだった。

「なんか口数すくないぞ?緊張してんのか?」

「馬鹿言うな。俺は極めて自然体だぜ?」

そう。
自分でも驚くぐらい、落ち着いている。
深呼吸する前から、今日の朝目が覚めてから、ずっと。

「信、本当に大丈夫なのか?昨日の今日でセシリアも相当いらだっているぞ?」

「重々承知だ。むしろそれくらい本気でかかってきてもらわなきゃ困る」

なんやかんやで応援に来てくれた箒も心配してくれている。
ここに来たのは一夏と一緒にいるちょうどいい理由だったのかもしれないが、俺にはそれでもありがたかった。

「なぁ、一夏。あのカタパルトってどんな感じ?」

「どんな感じって…………こう、引っ張られる感じ?」

「おい、時間が無いんだ。早くISを装着しろ」

織斑先生に急かされた。
気付くとすでに開閉音は止み、俺の専用機がその姿を現わしていた。
俺はその姿を食い入るように見つめた。
別に特別何かの装飾はついていないし、派手な武装も見当たらない。
ボディカラーは黒で、デザインはなんとなく固そうだな。

「これが…俺の…」

「はい。名前は『瞬光』。真宮くんの専用機です」

山田先生の言葉を聞きながら、瞬光に近付いていく。
あの受験日の時と同じように、装甲に手を触れてみる。
ひやりとした感じが心地よい。
俺にはわかった。
俺はこいつが必要だ。
こいつも俺が必要だ。
お互いに、ずっと待っていた。
こうして向き合い、共に戦う時を。

「昨日織斑が装着していたのは見ていたな?あれと同じようにすればいい」

「わかりました」

織斑先生に従い、昨日の一夏のように、装甲を開いている瞬光に背中を預ける。
カチカチと装甲が俺を固定し、瞬光と一体となる。
俺は手を握ったり、体を捻ったりしてみた。

「どうだ?」

「んー……普通」

まだ本格的に動いてないのでなんとも言えないが、なんとなく動きが固い。
各部のジョイントがまだなじんでないみたいだ。
ま、そんなことはどうでもいい。
動けばなんとかなるだろ。
そして俺は右手の拳を前に出し、笑った。

「勝ってくる」

「負けんなよ」

「負けたら、お前にも稽古をつけてやる」

コツンという音が2回響いた。
俺は昨日の一夏のごとく、カタパルトに移動する。
その上に乗ると、ガッチリとした鍵爪のような部品が足を固定した。
ゲートが開くのを待っている間、俺は笑っていた。
楽しかった。
嬉しかった。
この場所が、この瞬間が。

「さて、行きますか」

呟くと同時に、カタパルトが解放される。
景色があっという間に流れ、気付けば青空が頭上に広がっていた。
不思議だ。
風は感じるのに、Gはまったく感じない。
ゲートから飛び出した俺は、空中に浮かんだ状態で機体を制御する。
目の前には、いつもの偉そうな雰囲気がないイギリスの代表候補生がすでに待機していた。

「……」

「……俺より緊張してないか?」

「そんなことないですわ」

セシ…オルコットさんが答える。
まぁ、わかってたけどね。
見たらわかる。
緊張してんじゃなくて、本気で俺と戦う覚悟を決めてたってことは。
昨日の対戦で、相手は男だ、となめてかかるとどうなるか身をもって体験したからだろう。
それなりに学んだことはあるようだ。
睨むような視線が俺に向けられている。

「手加減はしませんわ」

「そりゃありがたい。すぐ俺が勝っちゃったら、つまんないからな」

「いつまでその強気が続くか楽しみですわね」

「最後まで続くさ」

そんなやり取りをしていると、試合開始のカウントダウンが始まった。
俺は長めに息を吐き出す。


―――3


「わたくし、今回は本気ですのよ」


―――2


「悪いな。それは俺もだ」

銃口とビットが俺を狙う。
すでにやる気満々だ。
相手が代表候補生で、しかも本気。
初心者の俺からすれば最悪の状況だよ、まったく。
けど、俺は不思議と笑っていた。


―――1



すぐ動けるよう、限界まで集中力を高める。
セシ…オルコットさんのトリガーにかかった指がピクリと動いた。


―――0


試合開始。
刹那、俺に向かって閃光が走る。
手に持っているライフルのトリガーに合わせて、空中のビットからも青白いレーザーが放たれていた。
俺は左に緊急回避、更に宙返りして、そのすべてをかわす。

(まだ遅いな…)

イメージと一致しない。
やっぱり操作感に慣れるまで多少時間がかかるか……。
そう思った瞬間、第二射がくる。
ライフルからのレーザーは正確に俺の体の中心、すなわち腹辺りを狙っていた。
それを避けるために移動をするが、そこにはビットからの攻撃の洗礼が待ち構えていた。
初撃は正面からだったが、今度はアンロックユニットの利点を生かしてまさに四方八方から俺を包囲している。
絶え間なく降り注ぐ攻撃の雨を避けつつ、ビットの操作主を探してみる。
………いた。
試合開始の立ち位置からかなり奥にまで移動している。
俺が最初の攻撃を避けていたほんのわずかな間に、最も安全な場所から射撃が行えるよう自身は移動していたようだ。
なるほど。
不用意に近付かないでビットの近距離射撃と自分の遠距離射撃で持久戦か。
流石、代表候補生。
自分の得意所をわかってる。
最初から本気を出していれば強いじゃないか。
こっちも全力出さないと負ける。

「急げよ、瞬光……」

俺は『残りおよそ30分26.8秒』と表示されたフォーマットとフィッティングにかかる時間を確認しつつ、休むことなく機体をあらゆる方向に動かす。
斜め右上からの攻撃を避けながら、攻めかたを考える。
まだイメージ通りに動けてないのに、武器を展開して不用意に近付くのは危険だ。
いくら相手が遠距離射撃型とはいえ、近距離装備がないとは限らない。
もしかしたらとんでもない隠し球を持っているかも知れないし、昨日の一夏みたいにミサイルをぶちこまれるかもしれない。
だったら俺も遠距離で戦えばいいのかもしれないが、向こうはライフルだけじゃなくてビットを使っている。
今も手数で攻めらてるのに、狙いを悠長に定めてる間に蜂の巣だ。
………仕方ない。
そっちが持久戦で戦いたいなら、こっちも受けてたとうじゃないか。
俺は覚悟を決めた。










「すごい…」

「ああ、初めての戦闘とは思えん」

山田先生と千冬姉は2人揃って感心している。
教師2人を唸らせているのは画面の向こうで自由自在に機体を動かしている信の姿だった。
対して俺はというと、信とセシリアのあまりの戦いの速さに驚愕して声もなかった。

「い…か」

「………」

「お…、…か」

「………」

「一夏ッ!!!!」

「わっ!?な、なんだよ、箒……そんなに大声だすなよ。びっくりするだろ」

「さっきから何度も呼んでいるのにお前が応えないからだ」

「ご、ごめん。試合に見入っちゃって。セシリアもだけど、信もすげぇと思ってさ」

間違いなく、セシリアは最初から本気だ。
昨日の対戦で、自分に手加減してたのがよくわかる。
俺だったら瞬殺だったな……うう…。
しかし、どうなってるんだ?
その本気のセシリアが一発も攻撃を当てられないなんて。
モニターには、無駄のない動きで激しい攻撃を避けきっている信が写し出されていた。
そう。
避けきっているのだ、すべて。
雨のように降り注ぐレーザーをすべて紙一重でしのいでいる。

「でもおかしいですね………真宮くん、何か考えてるんでしょうか?」

「わからんな。確かに恐ろしいほどのテクニックだが……」

「信からの攻撃が一回もありませんね………」

3人の意見はもっともなところだ。
信は先ほどからビームを避けるだけで、自分から攻撃を仕掛けていない。
ただの一度も。
チャンスは少なからずあるはずなのに、攻撃しない。
まるで、何かを待っているような、そんな戦いかただった。
その時、俺は昨日のことを思い出した。

「もしかして………」

「どうした、織斑?なにか知ってるのか?」

「いや………昨日の夜あいつの特訓に付き合わされたんだけどさ……」

「特訓?」

「ああ」

俺は昨日の様子を語り始めた。




――――――――――――




「そこまで言うなら…」

「よし!じゃあ、始めるか!!」

信はそう言って、ノートパソコンとテレビの電源をつける。
なんだ、そんなに電化製品の電源をつけて。
同時に二つも使わないだろ。
節電しろ、節電。
そんなこと思っているうちに、信はパソコンで動画共有サイトを立ち上げ、検索欄に『IS 大会』と打ち込んで、検索を始めていた。
更に、クローゼットの中から大量のDVDディスクを取り出した。
段ボールに入って、他人が見つけにくい場所に入っているということは…。

「言っとくが、お前が考えてるようなものじゃないぞ。期待に沿えなくて悪いが」

「べ、別に期待してないって……」

「あっ、そうだ。一夏がせっかく居るから、先にこれを見るか。えっと…これをこうして……よし、再生」

信が机の上に置いてあったDVDを取ってデッキにセットし、再生ボタンを押した。
ノイズが少し入って、画面が映る。
そこには白と青のIS同士が向かい合っていた。
………ん?
これって……。

「今日の俺の試合じゃないか!!」

「ああ。観戦してた女の子に頼んどいたんだ。こっちのパソコンは第二回モンドグロッソ、一回戦のやつ」

「………で?」

「は?『で?』ってなんだよ」

「いや、特訓は?」

「これだよ。『過去のISの対戦を片っ端から見まくる』」

なに言ってんだ?
俺は本気で訳がわからなかった。
故に投げ掛ける疑問もシンプルだ。

「見てどうすんだよ!」

「覚えて、自分の姿を重ねる。そうすると、まだ動かしたことのないISを自分の中でイメージできる。自分があそこで戦っているという経験をした『つもり』になれる」

「は、はぁ?そ、そんなことができるわけ―――」

「できるんだよ、俺には。それにお前だって自分の姿から学べることがあるはずだ」

「で、でも二つもどうすんだよ」

「同時に見る。時間がないからな」

おいおい、目が二つ有るのはものを同時に二つ見るためじゃないぞ。
一つのものを立体的に見るためだぞ。
習わなかったのか?
俺はあんぐりと口を開けていたことだろう。

「いいから早く見よう。まだ、見たい試合があるしな」

「見たい試合って……何本くらい?」

「今まで6053試合みたから……あと146試合かな?」

「……見終わらねーよ!つーかそんなに見たの!?」

「心配すんな。一夏の試合以外は1.5倍速再生でみるから」




――――――――――――




「で、本当に俺の試合以外1.5倍速で見てさ、しかも途中から『この状況を自分だったらどう打開するか』とか、メモ取ってんだぜ?1.5倍速の試合見ながら」

そう言いながら、試合前に信から預かったメモの束を取り出す。
電話帳と見間違えた、あの参考書とほぼ同じ厚さだった。
信は試合直前までに、記憶し忘れがないか全部見直していた。

「さっき、もう一回信にできるのかって聞いたら『頭の中のイメージと体の動きが一致するまで20分。本格的にISに乗るのは初めてだから、その感覚を理解するのに10分。あとはその2つを連動させるから、だいたい32分くらいかな』って。約32分間がISを完璧に動かせるために必要な『準備期間』だって」

無意識に3人の視線が、タイマーに注がれる。
俺もつられて目を向けると、試合開始から15分が過ぎていた。
明らかに信の動きは良くなっている。

「これでもまだ半分だというのか………?」

「あいつが凄いのはさ、天才だとかそういうのだけじゃないんだ。確かにあいつ以外には真似できないやり方かもしれないけど、勝つために頑張ってるんだ。必死で」

襲いかかる閃光をすべてを避けきっている信の姿を見る。
その表情は真剣で、とても余裕など感じられなかった。
時間を忘れて、立ち尽くす。
信が『天才』である以前に『努力家』であることをこの場にいる全員が強く感じながら、タイマーは20分を過ぎた。









まだだ…まだ一致しない……。
ビームの雨が絶えず降り注ぐ中、俺は回避行動に専念していた。
もう少しなんだが、まだ厳しい。

「攻撃しないなんて、随分余裕がありますのね!」

うわっ!
今のはギリギリだった。
体を捻って、かろうじてかわす。
休みなく降り注ぐ攻撃のは相変わらず容赦ない。
俺はセシ…オルコットさんに向かって叫んだ。

「余裕なんかあるわけ無いだろ」

「では武器の一つでも展開してはいいが!?初心者になめてかかられるなど屈辱的ですわ!」

なんか余計火に油を注いでしまったらしい。
武器を展開しろって?
そうしたいのは山々なんだが…。
武器の一覧を出す。
そこには一つだけ、朧火と表示されていた。
『種別:その他』だってさ。
その他ってなんだよ。
しかも展開しようとすると『武器・ロック中』と表示される。
何で勝手にロックとかしてんだよ、まったく………。
もっと言うと、解除方法もわからない。

「そちらがその気ならよろしくてよ!出さざるを得なくして差し上げますわ!」

顔の横を鋭い閃光が通りすぎた。
よし。
この感じだ。
試合開始直後と比べ、自分でもISの操作感に慣れてきたのは感じている。
でも、もっとだ。
イメージと一致させろ。
体を動かせ。
速く…!
もっと速く!!
ダメージをうけるギリギリのところで回避しながら、瞬光からメッセージが送られる。

『フォーマットとフィッティング完了まで残り5分です』











セシリアはなるべく気持ちを落ち着かせるよう努力していた。
気持ちが乱れてしまえば、命中精度が落ちるからだ。
しかし、そろそろ限界が来ていた。

(何で一回も当たらないんですの!?)

そう、そうなのだ。
自分は確実に本気。
昨日とは違う。
攻撃も直撃コースで非常に避けにくい角度からしている。
エネルギー密度だって限界ギリギリまであげているし、攻撃回数もすでに昨日の倍を超えた。
それなのに、信にはすべて避けられてしまう。
普通なら、少なくとも1回は当たるはず。
まして代表候補生の自分が引き金を引いているのだ。
1回どころか勝負が決まっていてもおかしくないはずなのに。
試合開始からすでに30分近い。
それなのにまだ、セシリアも信もノーダメージだった。
ただ、信は攻撃をしてきていない。
それがただただセシリアをいらつかせた。
まったく、腹が立つ。
攻撃を当てられない自分にも、攻撃しない相手にも。
セシリアがいい加減我慢するのも厳しくなってきた頃、相手が笑ったのに気付いた。

「何がおかしいんですの!?つくづく人を馬鹿にするのが好きなようですわね!!」

セシリアはそう言いながら、エネルギー補給のためにビットを一度機体に戻す。
信は一度動きを止め、セシリアと向き合う。

「………ありがとな」

「!?」

意味がわからない。
何を言っているんだろうか。
信の瞳はこちらを真っ直ぐ見つめていて、視線をはずすことができない。
気付けば顔が赤くなってしまっていた。
おかしい。
何で赤くしなければならないのだろうか。
セシリアが動揺しているのも構わす、信が再び話し始める。

「随分待たせちゃってごめん。こっからはもう大丈夫」

「わ、わたくしが待つ………?」

その時、セシリアの脳裏に嫌な思い出が鮮明に甦る。
それは昨日の一夏との対戦。
彼はフォーマットとフィッティングをしないままに戦っていたことである。
正直、驚いた。
機体性能を充分に引き出せていないまま、自分と戦っていたのだから。
きっと一夏は『最初からフォーマットとフィッティングを済ませておくべきだった』と感じたはずだ。
もちろん、それを観戦していた信も。
そしてこの30分以上に渡る戦闘で、セシリアは無意識に確信していた。
昨日の戦いから学び、すでに機体性能は全開で挑んでいるのだと。
信はもう全力だと。
しかし。
嫌な汗が頬を伝う。
もし。
もしも。
最悪の予測が体を駆け抜け、セシリアは手に持ったスナイパーライフルを落としそうになった。

「じょ、冗談でしょう!?あなた、昨日の試合は見ていらしたのかしら!?」

「え?うん……見てたけど」

「な、なら!普通フォーマットとフィッティングぐらい終わらせてくるでしょう!?」

「かもな」

「……!あっ、あなたねぇ………!」

「ま、気にすんなって…………………それじゃ、再開しよう。お手柔らかに頼むよ、セシリア」

名前の修正をかける前に、信の機体が眩しい光を放つ。
移行の際に、無駄な装甲が少しずつ粒子となってどこへともなく消えていく。
やがて光が収まると、真っ黒な機体がセシリアの目の前に現れた。
男というのはまったくわからない。
セシリアは戸惑うばかりだった。











――――フォーマットとフィッティング、及び一時移行が終了しました

「ああ。ありがとう、瞬光」

俺が身に纏っているISは、先ほどまでの固そうなイメージは欠片も残っていない。
一夏の白式が中世の鎧を思わせるなら、瞬光はどことなく東方の剣客を思わせる。
動き易くするためだろうか、無駄なものが一切ない。
アンロックユニットもなく、本当にパワードスーツって感じで、派手さはないが妙にしっくりくるデザインだった。
そして、俺にはわかった。
こいつは俺が思った通りに動く。
俺の考えを理解し、合わせてくれる。
何かを秘めている。

(そうだろ?瞬光)

何も表示されることは無かったが、なんとなく肯定の意志が伝わってきた気がした。
俺は少し微笑み、右手を宙に伸ばす。
ただ、考える。
別に特別な操作なんていらなかったんだ。

「……朧火、ロック解除」

――――了解。朧火、ロック解除。右手に展開します

よし。
やっとまともにたたかえる。
セシ…オルコットさんも俺の出方を伺うようにまだ攻撃は仕掛けてこない。
数秒で俺の右手に展開粒子が集まっていく。
そして瞬時に収束して………………。
………………………。
………………………。
………………………。

「「…………」」

収束して……………。
………………………。
………………………。
………………………。
………………………。
………………………。
………………………。

「………あ、あれ?」

収束し……ない?
俺が呆気にとられて右手を取り巻く粒子を見ていると、驚きから復活し様子見をし終えたセシ…オルコットさんがが攻撃を再開するため、ビットを展開し直していた。
もしかして、もしかすると………ヤバい?
冷や汗がたらり。

「お、おおい!?い、急げって!」

焦ってブンブン右手を振り回してみるが、何かが飛び出る気配もなければ、もちろん何かが起こる感じもなかった。

「準備は終わりまして?でもまだ不具合があるようですわね!」

「あ、ああ。そうみたいですね〜………あ、あはは〜……」

「それでは………先手必勝ですわっ!」

ここがチャンスとばかりにミサイルが俺を狙らう。
絶体絶命だ。
昨日の試合を見る限り、ミサイルには恐らくホーミング機能がついているはず。
それを振り切るにはかなり大きい移動が必要になるが、そうするとスナイパーライフルに捉えられる。
一発当たって怯んでしまえば、空中のビットの一斉射撃で一気に持ってかれる。
どうする?
俺の武器はこの朧火だけ。
でもうまく動かない不良ひ………ん?

(いや………………違う)

いつでも回避行動を開始できるように準備しながら、直感した。
これが正常な状態なのだ。
証拠も根拠もないが、そう思った。
不具合が起こってるわけでもない。
不良品でもない。
瞬光は俺に合わせてくれる。
なら、その武器も同じだ。
そう思ったとき、未だ形の定まらない朧火は、右手で何か激しく動き始めた。
それが正しい、さあ来いと言っているかのように。

「………わかった」

やってやろうじゃないか。
朧火を使うのに大切なのは、正確なイメージを伝えること。
欲しい力を、強く願うこと。

「ゲームセットですわっ!」

ミサイルの発射音が聞こえる。
きっとものの数秒足らずで俺のいる位置まで到達するだろう。
相変わらずスナイパーライフルとビットはこちらに照準を向けており、いつでも俺のことを狙い打てる。
そんな敗北の色濃いなかで、俺にだけは世界が止まって見えた。
駆け抜ける風も、流れる雲も。
すべてがその動作をやめた瞬間。
俺は、願った。
どんなものでも、どんな敵でも、すべてを斬り裂くことのできる、剣がほしい、と――――――

「うおおおおおおおおおお!!!」

勢いよく、粒子を纏う右手に左手をあわせて縦に振る。
その軌跡に合わせて、光の粒子が形を変えた。
一筋の光が上から下へ流れるように延び、迫りくる爆弾を迎え撃った。

ズバッ………!

確かな感触が手に伝わり、気付けば一刀両断されたミサイルが俺の背中側で爆発した。
爆風に飛ばされた破片が俺の背中に当たってカタカタと音を立ててぶつかり、重力が勢いを失ったそれらを地上へと叩きつけていく。
シールドエネルギーすら削れないような弱い打撃はまったく気にならなかった。
体の前に朧火を構え直す。
俺の右手にはわずかに光輝く剣があった。
日本刀のように『斬る』ことを目的にした、鋭い形だ。
止めどなく流れるように粒子が動いているが、剣の形は崩さない。
これが本当の姿であり、偽りの姿。
俺が必要としている限り、朧火は剣であり続けてくれるのだ。
あっけにとられてこっちを見つめている狙撃主に向かって叫ぶ。

「行くぞセシリア!」

「ッ!!させませんわ!!」

俺がいたはずの場所が青白い光線で貫かれる。
だが俺はすでにそこにはいない。
空を通っていったエネルギーたちはアリーナのシールドや地面を傷付けただけで、本意を遂げることはなかった。
俺は両手両足にも付いたスラスターで複雑で自由自在、縦横無尽に動いて相手を翻弄し、懐に入る。
ライフルを構える時間はもちろん、ビットを動かす暇すら与えてやらない。

「遅い!!」

剣を横に振り抜く。
手応えあり。

―――――相手機体、絶対防御発動。エネルギー消費、大

よし、と思いつつ、相手が体勢を立て直す前に追撃を試みる。
しかし、ちょっとスピードがあり過ぎたせいか、思いの外ブレーキがかかるタイミングが遅くなってしまった。
体を反転させて見れば、体に伝わった衝撃で顔を歪ませたセシリアが俺に敵意の眼差しを向けていた。

「くっ………!近寄らせなければ!」

セシリアが今まで以上に激しい攻撃で俺を遠ざける。
ビットの狙いはお構い無し。
とにかく撃てば当たるの考えでがむしゃらに撃ちまくり、できるだけ遠距離狙撃に適した距離まで下がりたいようだ。
そりゃそうだ。
近接戦闘はなるべく避けたい機体の仕様だろうから。
だけど、悪いな。

「これは近接武器じゃないんだぜ!」

相手との距離はおおよそ21メートル。
その距離から、勢いよく剣を横に振る。 
俺のイメージを伝えながら。

「飛べ!!朧火!!」

剣から出た衝撃波が、進路上にあるビームとビットを斬り裂いて、敵に向かって飛んでいく。
光の刃がすべてを斬り裂き、斬るべき目標のみだけ見据えて飛んでいく。

「なっ………!」

驚きで判断力が鈍り、硬直したセシリアには避ける時間はもう無かった。
そして、直撃。
反射的に交差した腕も防御などにはならず。
手放されたライフルが地上へと落ちていった。



ビーーーーッ!!




『試合終了。勝者、真宮信』









唖然。
アリーナにいる全員がそうだった。
もちろん、全員1年1組の生徒だが。
前例のない、男のIS操縦者。
国の支援を受け、厳しい訓練に耐え掴み取ったであろう代表候補生、いわゆるエリートという地位。
そのエリートから一撃も攻撃を受けず、勝ってしまった。
つまり、完全試合(パーフェクト・ゲーム)
3人が試合する事が決まったとき、どこかで『あの二人が勝つのは無理よね、男の子だし』と皆が思っていた。
ところが、結果はどうだろうか。
一夏は負けたにせよ大奮闘し、セシリアを追い詰めた。
信に至っては、こともあろうに勝ってしまった。
画面に空中で武器を納める信の姿が映し出され、それを見ながら千冬がからかうような口調で口を開いた。

「ふん。つくづく人を裏切るのが大好きなようだな、男子」

「?何だよ、いつ俺たちがそんなことしたんだ?千冬ね―――」


バシッ!!


「織斑先生だ。あと敬語を使え」

「………ご指導ありがとうございます………織斑先生…」

「………はっ!そ、そうだ!むっ、迎えに!いっ、一夏!信を迎えに行くぞ!」

「そ、そうだな!行こう!」

あまりの驚きにしばらくボケッとしていた箒が慌てて駆け出すと、一夏も急いでそのあとを追っていった。
生徒が部屋を出ていくと、残された担任2人は顔を見合わせて互いに少し微笑む。

「これでクラス代表は真宮くんですね」

山田先生がアリーナ設備の点検をしながら話しかける。
千冬が笑顔で応える。
その顔はいつになく上機嫌そうだった。

「男というのは人の予測を裏切るのが大好きらしいからな。最後までわからんさ」

頭に『?』を浮かべている山田先生を背に、千冬は一夏達を追って部屋を出ていった。







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