誕生
―??? side―
う〜む、やはりこういうときは落ち着かんな・・
父親というのはこの状況では何もできないことは弟が生まれたときにはわかってはいたんだが、いざ自分が父親になろうとしているときになって父親の気持ちがわかるのもなんともいえんな・・・
「旦那様、私も経験がある故、強くはいえませんが、三島兼松がそわそわしている姿は控えていただけると・・・」
「わかってはいるのだがな・・どうにも落ち着かんのだ、夜島。」
執事長兼護衛の夜島巌が自分の立場と友人としての好意からこのように言ってくれる。
名前が出てきたので、自己紹介をすると、三島家現当主三島兼松である自分は、一から十の数字が苗字に含まれる、日本で最強の魔法師集団『十師族』に入っているわけではない。よく勘違いをされてしまうため、普段は『深島』と名乗るようにしている。なぜ十師族ではないのに数字持ちなのか。それは三島家が代々陰陽道に連なる精霊魔法を得意とする家系であり、ただ単に千年以上三島を名乗っているに過ぎない。
「わかっているのなら、うろうろせずに『椅子に座ってじっとしていてください』」
「む、うむ・」
夜島の言葉で椅子に座って自分の足が『まったく』動かなくなってしまう。
夜島の得意魔法である座標固定魔法『非振』―物質の周りの座標を固定することにより、その物質をその場に留める魔法―を使われて固定されしまい、否が応でも動かせなくなってしまった。
信頼しているこの男だから何も抵抗していないが、この程度の魔法は普段は自分にはあまり意味がない。それはおいおいわかると思うが・・
「おぎゃあ〜〜〜(棒)」
「おっ、おお?・・なぁ、夜島。赤ん坊の泣き声はこんな感じだったか?」
「いえ・・・とにかく部屋に入りましょう」
「うむ、それもそうだな」
父親になった瞬間だったが泣き声?のせいで喜びが半減してしまったが、とにかく真理がいる部屋に入るか。
―??? side out―
あぁ〜はい、みなさん、おはこんにちばんわ。転生者です。えぇ、前世の名前が思い出せないパターンだったので、転生者と名乗りました。
今現在の状況を説明すると、赤ん坊です。えぇ、転生なんだからわかっていたつもりだったのですが、実際に体験すると、
眠い
体が動かない
目が見えない
ひたすら眠い
という具合で、気を抜くとそのまま寝落ちしてしまいそうです。
現状把握をするには難しい体ですが、聞き耳を立てたところ、
「生まれるまで時間がかかりましたが、無事に生まれましたよ。」
「ええ・・・ですが、あの・・・泣いていないのでは?」
「ああ、ご安心を。生命活動は安定しているので、お尻などをたたけば反応してくれると思いますよ。」
といって、助産婦さんだと思われる人の発言が聞こえてきた。慌ててしかし少し気恥ずかしいので、
「おぎゃあ〜〜〜(棒)」
というおよそ赤ん坊の泣き声じゃないだろといいたい声を発してしまったからさあ大変。
「おや、まるで私たちの会話を理解したみたいですね、この赤ちゃんは。」
「えぇ、ええ! きっと立派な息子になってくれるでしょう」
バンッ
「真理! 大丈夫か!! 」
「ええ大丈夫よ兼松さん。それよりもこの子を見て頂戴。泣き声をあげるまでぼ〜としてたけど、まるで私たちの会話が理解できたのか、すぐに泣いてくれましたよ。」
「なにっ! それは本当か!? だとしたら我が子は天才ではないか!!!」
「ええ、立派な息子に育ってくれると思いますよ。」
「おお、でかしたぞ、真理! 息子ということは跡取りは安泰ということだな!」
えっ跡取り?? 何かえらい家庭に生まれたな・・・普通を自他共に認めている身には少し荷が重い気がする・・・
「旦那様、奥様の容態を考えてもう少し落ち着いてくだされ・・・」
えぇ〜旦那様? 父親と思われる人よりも渋めの声が聞こえてきたが・・なんだろう、『十師族』や『百家』―十師族の次に位がいい家柄―に生まれたのだろうか・・・
「おっ?・・・あぁ、ううんっ・・・すまんな、夜島」
「いえ・・」
うん? 『八島』? はて、十師族にあったか? そんな名前・・
「ところで兼松さん? 名前は考えがまとりましたか? いろいろと考えていらっしゃいましたけど・・」
「ああ、もちろんだとも! この子を見た瞬間に思いついたぞ。この子の名は―」
と大事な今世の名前を聞こうとして落ちてしまっていた・・・
―三島錬―
この名がイレギュラーとしての彼の名となる・・・