二、
「あいたっ!」
底についたらしく、打ち付けた腰をかばいながら周りを見回す。
「まっくら……。ここはいったい――」
「こっちですこっち」
振り向くと、真っ暗なのに何故か金髪碧眼の美少年が見えた。
そういえば、私の姿もはっきり見える。
「どうも。神です」
「はぁ?」
何を言っちゃってるんだこの子は。
いやそれよりも、この状況はどうなってるんだか……。
「あなたは『異世界に転生』に当たったんです」
「だからそれがどうなってるんだって!」
「おや?僕が本当に神だとか、実は騙されてるんじゃないか、とか疑わないんですか?」
「一瞬思ったけど、ぶっちゃけ神でも紙でも今はどうでもいい。それより、『異世界に転生』って意味わかんないんですけど!」
「あぁ、それはですね」
神と名乗る美少年は素敵な笑顔でニッコリ笑い――
「暇つぶしです」
「あ゛ぁ゛?」
「す、すみません。嘘です」
いけない、いけない。思わず切れかかってしまった。
ここは落ち着いて冷静に対処しないと。
そう、笑顔で笑顔で……。
ニコリ
「ひっ!ごめんなさい!!」
何故か謝られてしまった。
「……で、本当の理由は?」
「あ、は、はい。実は、これは新人神様――つまり僕の最終試験なんです」
「最終試験?」
「はい。現世から一人を選び、力を与え、異世界に飛ばすという試験です。どのような人を選ぶか、そしてどのような力を与えるか、飛ばした人間がどのような人生を送るかで合否がわかれます」
「何が合格基準なの?」
「ちゃんと選んだ人を異世界に飛ばせるか、望む力を与えられるか、などが主です。細かいことは言えませんが」
「……ってことは何か。私はその神様試験のために殺されたってこと?」
ニッコリ
「ひっ!い、いえ!殺してはいません!正確にはコピーです!」
「コピー?」
「は、はい!僕の力であなたと全く同じ人物を作り出し、ここにいるあなたの代わりに、今までと変わらない生活をしています」
「……つまり、私がここにいる以外、全く何も変わりなくもう一人の私は生活してて、誰の迷惑にならないと。……私以外」
「ひゃ、ひゃい!!すみません!!」
「ならいいわ」
「へ?」
美少年は目を丸くしながらも、青い顔でビクビクと私を伺って震えている。
これ、はたから見たら私がいじめてるみたいじゃないか。
「お、怒ってないんですか?」
「突然何の説明もなしにつれてこられたことについては多少?」
「す、すみません!」
「でも、他の人に迷惑が掛からないなら別に。それに、異世界なんて、ちょっとわくわくするし」
これでも小説は好きなのだ。特にファンタジーとか大好きだ。
誰だって、一度は行ってみたいと思うでしょ?不思議世界。
「よ、よかった〜っ!!」
美少年は心底ほっとした様子で、胸をなでおろしていた。
その様子に苦笑すると、美少年は気を取り直し、ピシッと背筋を伸ばして咳払いをした。
「それでは、転生するあなたに力を与えましょう。……何がいいですか?」
「それって、何でもいいの?」
「はい。構いません。僕は新人神の中でも特に優秀ですから。チート能力でも構いませんよ?」
チート能力か……。
ネット小説とかでは、身体能力とか魔法とかだろうけど、私が一番ほしいのは――。
「動物と話せる能力がほしい」
「ほう?」
『ワンピース』オリジナルアニメに出てきた、アピスの「ヒソヒソの実」。竜と話すのを見て、ずーっと羨ましいと思っていた。
私は無類の動物好きだ。
しかし、今住んでいるアパートはペット禁止。
だからせめて、将来は絶対に動物関係の仕事に就くと大学で猛勉強中なのだ。
それを言うと、美少年は暫く考え込んだ後、「よし」と頷いた。
「そう言ったアニメの能力ですと、飛ばす世界は同じアニメの世界になりますが、いいですか?」
それは別にかまわない。むしろ先ほどよりワクワクが増すというものだ。
「あ、でも原作とかはどうするの?私が入ったら壊すことになるんじゃ」
「問題ないです。アニメの世界といっても、それと全く同じように歩んでいる実際の世界ですから。それに、平行世界というのは無限にあるんです。あなたがいる世界が増えても問題ありません」
ならば何の問題はない。
まぁ、私は動物と戯れていればいいし。
「さぁ、準備は整いました。行きますよぉっ」
「あ、ちょっと!どの世界に飛ばすの?」
「言い忘れてましたね。『HUNTER×HUNTER』の世界です」
「……え?」
『HUNTER×HUNTER』って……。
「じゃ、いってらっしゃい!」
ものすごい死亡フラグ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!
〜あとがき〜
笑顔が怖い時ってありますよね。