小説『ハイスクールD×B〜サイヤと悪魔の体現者〜』
作者:生まれ変わった人()

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公園で堕天使と会ってから、事は結構速く進んでいった。

あの後にカリフはリアス・グレモリーと名前を交換し合った後、リアスはイッセーを魔法陣でどこかに連れて行った。

「あなたは朱乃と小猫に任せるわ……あなたとは知り合いらしいし」

そう言った後、二人でどこかへ行ってしまった。

そして、公園には三人の少年少女たちが佇むだけ

「「……」」

朱乃と小猫と呼ばれる白音はカリフを何とも言えない表情で見つめていた。

カリフもしばらくは何も言わなかったが、すぐに二人に不敵な笑みを浮かべて言った。

「お前等……悪魔になったのか?」
「え、えぇ……」
「……」

朱乃も小猫も気まずそうに俯くと、カリフはそんな二人の様子に首を傾げる。

「なんだ? 変なこと言ったか?」
「……だって、私たち……悪魔になって……だから……」
「そうですわね……私たちはもっと人間からかけ離れてしまいましたの……ですから……」

小猫と朱乃は自嘲気味にそう言うと、カリフはそれを手で制す。

「それで?」
「…え?」
「悪魔になったのは分かる。だが、それで何が言いたいんだ?」
「ですから……あなたは、カリフくんは怖がらないの?」
「はぁ? 何故オレがお前等を怖がる必要がある?」

意外な返答に二人は動揺するが、カリフはいつものように真顔で返す。

「白音、お前は何故名前を変えたか……街の気を探っても黒歌もいない……」
「……」
「朱乃の母親らしき姿も気も無い……この十年で色々とあったらしいな」
「……はい、そうですわね…」
「オレはその時ここにはいなかったからそれを追究することもない、ましてやそのことを話したくないというのならそれもお前たちの勝手だ……」

カリフは二人に近付いて行く。

「だが、これだけは分かる。それら全てがお前たちの戦いだったってことが」
「……うん」
「だからこそ言わせてもらう」
「?」
「そんなお前等をなぜ否定できるというんだ?」
「「!!」」

カリフの言葉に二人は驚愕する。

「それに言ったはずだ……オレはお前たちとの約束があったと」
「えぇ……でも、それは昔の話……」
「お前たちは忘れていたかもしれん……だが、オレは一日とてお前たちを忘れたことはない!」
「「!!」」
「そんな軽い気持ちで約束を交わそうとしたわけじゃねえんだよ……たとえお前たちが悪魔だろうが人外だろうが……オレは姫島朱乃と塔上白音に誓ったからな……」

そこまで言われた二人はいつの間にか泣いていた。

そこには、十年も想い続けて待ち焦がれた人がいた。

自分たちが変わってしまったというのに、全く変わらない。

変わらないでいてくれた。

そこには恐れや軽蔑ではなく、真摯に自分たちと向き合ってくれているあの日の少年が帰って来ていたのだから。

感極まった朱乃と小猫は二人でカリフに抱きついてきた。

「……私、変わってしまったわ」
「それがどうした。変わるのは罪でもなんでもない……本当に許されないことはその変化を認めない心だ」
「……カリフくんはやっぱり変わらないよ……いつまでも……」
「そりゃそうさ。オレは自分を間違っていないし、恥とも思っていない。これからも変わらねえよ……」

それを最後に二人は感激に涙を流し続けた……

カリフもこの時だけは何も言わなかった。















しばらくして二人は落ち着き、街の中を歩いていた。

「それじゃあ二人はあのリアスとかの下僕になったってことか……」
「はい、その時に初めて知ったんですのよ? 小猫ちゃんとカリフくんがお知り合いだったって」
「……私も朱乃さんとカリフくんが知り合いだったとは思わなくて……」

小猫はジト目でこっちを見てくるが、それを綺麗に無視して愉快そうに笑う。

「世界ってなあ狭いもんだ。こうして二人がなぁ……プっ」

言いながら口元を抑えて笑いを堪える様子に二人は顔を見合わせて首を傾げる。

「十年前はこんなんちんまいであまり自己主張できなかったネコが無口クールで泣き虫がお姉さまキャラか……プっ」
「あらあら、そこまで笑うことかしら?」
「……むしろ十年経ってそこまで変わらない方が普通じゃない」

静かに笑うカリフに朱乃はニコニコ、小猫は黒いオーラを出しながら睨んでいると、最後の小猫の言葉に今度は不敵な笑みに変わる。

「そりゃそうさ。オレが目指すべき場所は普通じゃねえ……オレは普通であってはならねえんだ」
「……やっぱり変わらないね……」

そのまま三人は一緒に歩いていると、カリフは二人の制服が妙に気になった。

「そういえばそれはどこの制服だ?」
「あら? 気になりますの?」
「駒王学園……」
「……やっぱあそこはただの高校じゃなかったってことか……入って正解だったかもしれんな」

最後の一言に二人は心底驚いたような表情に変わる。

「カリフくん…あの高校に入るんですの?」
「あぁ、ツテで入ることにした。なんか面白いことが起こりそうな学園で気に入ったぜ」
「……それも夢のため?」
「もち」
「うふふ……あなたが入ってくれるなら私は嬉しいですわ……ってあら?」
「!!」

どさくさに紛れて背後から抱きつこうとしてくる朱乃を瞬間移動で避けると、朱乃も小猫も目を丸くして驚いた。

すると、塀の上から声が聞こえた。

「昔の抱きつき癖は治ってないようだが、今はそんな気分じゃねえんだ……それに、オレはそんな安い男でもねえ」

そう言いながら塀の上から跳び下りると二人は少し驚いた様子で聞いてきた。

「あらあら……小猫ちゃんからは強いって聞きましたけど……」
「……今の動きも見えなかった……」
「これくらいは十年前でもできる。まだまだお遊びの範疇だ」

そう言いながら鼻唄を歌いながら先に行くカリフを呆然と見つめていた。

その後に我にかえった二人はカリフの後を追いかけて追いつくと、その後も話し続けた。

「ほう……お前はオレの部屋を使って、親も小猫って洗脳したわけか……」
「……人聞きが悪いよ……間違ってないけど」
「私も時々お邪魔しておりますのよ?」
「ふーん……」

そう言っていると、朱乃はカリフと小猫とは別の道へと進んでいく。

「ほう、お前はそっちか」
「ええ、ですから、話の続きは明日に」
「へいへい」

そう言って手を振ると、あっちも嬉しそうに手を振ってきた。

そして帰っていく姿をしばらく見送ってから再び小猫と歩き出す。

「親はどうだ? 相変わらずお前を溺愛してんのか? しろ……小猫」
「うん……いい人」
「そうか……」

名前を間違えそうになるも、カリフは不意に言った。

「オレのことも忘れてそうだな……」
「そんなことないよ……おじさまとおばさま、カリフくんの誕生日の時は悲しそうだったから……」

小猫は徐々に不機嫌な表情に変わる。。

「……だって勝手に出ていって……今更だもん」

そう言うと、カリフは立ち止まって小猫の目を真っ直ぐに見据える。

「……もうここから離れることはあまりねえ……これからは日本を拠点にして滅多なことが無い限り離れはしない」
「……本当に?」
「生憎だが、嘘は嫌いなんだよ」
「……」

こうして二人は鬼畜家へと足を進めていったのだった。















「今日は小猫ちゃん遅いな」
「高校の部活ってそういうものよ」

この日、鬼畜家はいつも通りの晩餐を迎えていた。

そう、いつも通りの……

「ただいま帰りました。おじさま、おばさま」

そんな時、小猫が帰ってきた。

「おかえり」
「今日は部活関係かい?」

暖かく迎えてくれる一家に小猫は微笑みかけ、言った。

「今日は特別な人に出会って遅くなりました……それで、ここに招待したんですが……」
「あら? 特別って……もしかして……」
「はっはっは……彼氏とかふざけんなよ」

勝手な想像する二人に苦笑しながら誰かを手招きする。

すると、そこに一人の少年が現れた。

「ただいま」

何でも無いかのようにそう言うカリフに両親は……

「……」
「……」

言葉を失っていた。

目を見開き、二人は相当驚いていた。

だが、それでも二人は分かっていた。

目の前の少年が今まで待ちわびていた我が子だということを……

「……!!」

母親はそのまま衝動を抑えきれずにカリフに抱きついてきた。

カリフ自身は平静だったが……

「……おかえり」
「あぁ、ただいま」

十年来の久しぶりの会話はそんなありふれた言葉、だが、この両親はそんなありふれたことを待ち望んでいたのだから……

「カリフ……」
「……オヤジか」

カリフに近付いてきた瞬間、父親はカリフの頭を思いっきりグーで殴りつけた。

「!! おじさま!!」

小猫が驚いて叫ぶが、その時、父親の涙で濡れた表情に何も言えなくなってしまった。

「お前は……今までなにをしていた!? なぜ連絡の一つくらいよこさなかったんだ!? 母さんがどれだけ心配したと……くっ!」

カリフは甘んじて父親の鉄拳制裁を受けた。あの惚けたような父親が初めて本気でぶん殴ってきた。

それは、この仮とはいえ、本音でぶつかってきてくれる両親への気持ちを汲んでのことだった。この両親は本気で心配し、全力で自分に話しにきているのだと……

そして……

「あぁ……だから今帰った」

“前の”両親にしてやれなかった約束を忘れるわけもなかったがため……

だからこそカリフは“今”、帰ってきたのだ。

「……先に何か食べなさい。母さんの料理は久しぶりだろう」
「あぁ……楽しみだ」
「……今は簡単な物しかないけど……」

十年以来の再会にしてはあっけないほど、普通な家庭と同じ様な光景に戻った。

だけど、伝わった物は他の家族とは比較にならないほど多くのことを伝え合った。

(……この親子……これでいいんだよね……)

そこには十年以上も互いに信じ合った親と子の姿があった。

そんな光景を目にして、小猫はこんな普通じゃない、けれど強い家族を羨ましく思った。










「ホント変わらねえな……我が親ながらな……」
「仕方ないよ……カリフくんをずっと想ってきたんだから」
「ガラじゃねえんだよ。こういうのは……」

晩御飯を終えたカリフと小猫はかつてカリフが使っていた部屋で喋り合っていた。

カリフは部屋の隅、小猫はベッドの上にいる。

そして、カリフが欠伸をすると、小猫が枕を胸に抱いて聞いてきた。

「……なんでそんなところで寝るの?」
「ん? あぁ、今はお前がベッドを使っているだろう? それは一人分のベッドだし、このフローリング床は最近暑くなってきたオレに丁度いいからな」

さして気にしないカリフに小猫は顔を紅くさせて尋ねる。

「……ここは今は私の部屋だから……」
「だが、オレはもう疲れた動きたくないからここで寝る」
「……襲わないで」
「そういうのはもっと魅力的になってから言うもんだ。オレの眼鏡に適うくらいにな」

その言葉に小猫は表情を強張らせた。

「大きなお世話」
「まあいい。もう寝る。何言っても無視するから」

そう言ってカリフは目を閉じた。

後から寝息が聞こえ、本当に寝たことを意味している。

ただ、位置的には小猫とカリフは部屋の対角線上にいる。

この距離はまさに十数年の隔たりをも意味していた。

「……」

小猫は無言のまま床に入るのだった。

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