小説『ハイスクールD×B〜サイヤと悪魔の体現者〜』
作者:生まれ変わった人()

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兵藤一誠と神父の戦いの火ぶたが落ちてからそんなに時間は経っていない。

なぜなら、勝負は一瞬で決まってしまったのだから……

「ぐあ!」
「あーらあーら? あんなに意気込んでおいてまさかのリタイア!? 見かけ倒しも甚だしいっすよー!? そういうのもムカつくんでもう殺してもオーケーじゃね?」
「イッセーさん!」

足に銃弾を、背中に刃物傷を残して倒れるイッセーの背中を神父が踏みつける。

涙を流して彼の名を呼ぶアーシアにソファー越しからそれを見つめて欠伸をするカリフ

あまりに違いすぎる実力差の前に倒れたイッセーに神父は銃を向ける。

「お休み、永久に…てか?」





フリードが引き金を完全に引く直前





……それは起こった。

急に床が青白く光ったのだから。

「何事さ?」

イッセーに止めをさそうとしていた神父も攻撃の手を止めてその場から離れる。

長年の悪魔祓いの経験から何やら不穏な空気を感じたのだろうか。

そして、光は徐々に形を成していった。

―――魔法陣に

その光を見たイッセーは安堵の表情へと変わった。

何故なら、彼はこの魔法陣がなんであるかを知っていたからだ。

そして、魔法陣が部屋一杯に光で埋め尽くす。

その光の中からは見知った顔が続々と出てきた。

「兵藤くん、助けに来たよ」
「あらあら、これは大変ですわね」
「……神父」

そこから木場、朱乃、小猫が続々と現れてきた。

それを見た神父は満悦な表情で木場たちに斬りかかった。

「ひゃっほう! 悪魔の団体さんに一撃目!」

そう言って振られた光の剣も木場の剣に遮られる。部屋に金属音が響いた。

「悪いね。彼は僕らの仲間だからこんな所でやられてもらう訳にはいかないんだ!」
「おーおー! 悪魔の癖に仲間意識バリバリバリューですか? 悪魔戦隊の結集ですか? いいねぇ、熱いねぇ、萌えちゃうねぇ! 何かい? キミが攻めで彼は受けとか?」

剣の鍔迫り合いの中で神父の舌を出しながらベロンベロンと揺らしている姿に木場が珍しく嫌悪の表情を浮かべる。

「……下品な口だ。とても神父とは思えない……いや、だからこそはぐれ悪魔祓いというわけか」
「あいあい! 下品でござーますよ! サーセンね! だってはぐれなんだもん! 追い出されちゃったもん! ていうかヴァチカンなんてクソくらえだしぃ! 俺的に快楽悪魔狩りさえいつでもできれば大満足なのよ、これが!」

鍔迫り合いから互いに離れ、木場は鋭い眼光を放ち、神父はケタケタと笑う。

だが、木場の鋭い眼光は神父だけでなくソファーのカリフにまで至った。

「カリフくん……なぜきみはこの状況を止めなかった……?」
「知れたこと。オレは全く関係ないし、義理も理由もないからだ」
「……小猫ちゃんや朱乃さんが同じ状況になったとしてもきみは……」
「約束のため死ぬような真似はさせん。だが、それだけだ……死ななければどんな状況になろうとオレの知ったことではない」
「「……」」

二人はカリフの言葉に表情を曇らせる。

カリフにとって彼女二人は守るべき存在。

だからといって特別な存在とはいえない……二人が“この”世界の住人なら覚悟もできていたはず。

「そもそも二人は既に戦いに身を投じたのだ……どんなことがあろうと文句を言う筋合いはない」

ソファーから立ち上がって木場たちを見据える。

「これでも甘くしてやったほうだ……本来なら勝手に死なれてもどうでもいいんだよ」

それを聞いた木場は的を射たカリフの言葉に難色を見せていた。

「……きみは本当に人間なのかい?」
「そうだ。約束を守る……人間さ」

その時、それを聞いていた神父は下品な笑みを浮かべた。

「いいよ、そんなドロッドロなドラマ! クソ悪魔が軽蔑されるようなシーンなんてもう最高さ! いいな! いいな! 俺はこういうドラマの中で生きてこの身を恋に焦がしたいのよね!」
「なら、消し飛ぶがいいわ」

突然に現れた声と同時にリアスが現れた。

倒れるイッセーを介抱する。

「イッセーごめんなさい。まさかこの依頼主の元にはぐれ悪魔祓いがいるなんて計算外だったの……」

謝ると、すぐに神父の方へ向き直って低い声で言った。

「私の可愛い下僕をかわいがってくれたみたいね?」

イッセーも守られているというのに、その声にビクついてしまう。

「はいはい、かわいがりましたよぉ? 全身くまなくザク切りにする予定でござんしたが、どうにも邪魔が入って夢幻になってしまいましたぁ」

その瞬間にリアスは己の魔力の弾を飛ばしてリビングの家具を消し飛ばした。

「……あなたのような下品極まりない輩に自分の所有物を傷つけられることは本当に我慢ならないの……」

本気で怒っている様子が目に見えて分かる。

言い知れない迫力を前に神父はただ嫌らしく笑うだけだった。

「話は終わりっすか? ならそろそろグッバイして別件の仕事しなきゃなんねえんすよ。いや〜、あの堕天使姉さん労働基準法を知らないのかね〜?」

そう言いながら目の前で仕事のリストらしき紙を広げて言った。

その次の言葉が……状況を変えるとも知らずに……

「お次のクズ人間は〜……なんと、今日のメインであらせられる鬼畜一家というクッソ共のお家でござんす〜!」
「!?」
「なっ!!」

神父の言葉と共に小猫と朱乃が驚愕する。

「この一家は糞虫の悪魔をかくまっている超大罪人! 悪魔と契約するのではなく育て、匿うという大罪を犯しましたのです〜」
「違う! その人たちは何も知らない!」
「口応えすんなよクソが、この一家が知ってようが知らないが、既に大罪人、既に姉さんのぶっ殺しリストに載っちゃったんですよ〜?」
「こ、小猫ちゃん?」

いつもの調子を捨ててほどく狼狽した様子に木場が何事かと事情を聞く。

「そんな……おじさまとおばさまが……」

同じく朱乃も口に手を当ててショックを受けていた。

それを見て呆気にとられるイッセーと木場にリアスが答える。

「祐斗、イッセー、鬼畜家というのはね……」

だが、そこでリアスの言葉が言葉が途切れた。

リアスの目が見開かれ、冷や汗を垂れ流していた。

「「!?」」

怪訝に思う男子勢だったが、すぐに神父の方を見てその理由が分かった。

小猫と朱乃も同じ様子で固まってしまった。

「? なんですか? その熱視線は、俺ってこんなに人気が?」

相手のハッタリだと思い、それを皮肉を込めてお茶らけて返しているが、彼は気付いていなかった。

「ぁ……うし……ろ……」
「……あ?」

助手であるアーシアの震える声に導かれて後ろを向いた時……



眼前に拳が迫っていた。

「マジ?」

その瞬間、神父の顔面に重く、鋭いパンチが叩きこまれた。

奇声と共に神父の体が後方へと飛ばされて壁に激突する。

「ごぶぁ!」

夥しい鮮血を鼻と口から吹き出し、悶絶する。

「……ってー何ですか……!?」

愚痴を零しながら起き上がると、そこには長ランの少年が自分の顔を目がけて蹴りを放つシーンが映っていた。

「おわ!」

神父はそれを慌てて避けて距離を置くと、壁を深々とめりこませたカリフがまるでゴミを見る目で神父を見据えていた。

「なんすか……口ではあれだけ言っておいてやっぱり仲間ですか?」
「……」
「それなら容赦しないっすよ? あんたのことは結構気に入ってごふ!」

喋っている最中に神父はいつの間にか近付いていたカリフの強烈なアッパーを顎に喰らわされていた。

まるで人形のように異常な回転で宙を舞って、落ちてくる。

そんな最中にカリフは呟いた。

「誰が喋っていいと許可した?……この……」

拳を握りしめて鋼鉄の鈍器を作り上げ……

「無礼者がぁっ!」

再び神父の顔面に叩きつけた。

声も出せずに神父はその多大なる衝撃を受けた。

カリフはそのまま飛ばすのではなく、床に叩きつけるように振り抜いた。

「がっ!」

神父の悲鳴が短く唸った。

その後、カリフはすぐ近くのテーブルと大型テレビと棚を重ね合うように持ち上げ……

「ちょっ! それはマジ洒落になんねえって!!」

神父の悲鳴を無視して振り下ろした・

咄嗟に顔面に迫るその鈍器を腕でガードする。

「……!!」

だが、あまりの質量差を決して頑丈とはいえない筋肉で受けるには無理があった。

腕が有り得ない方向に曲がってしまい、痛みが倍増した。

「……はは」

それでもカリフは攻撃を、暴力を、笑みを止めない。

まるで親が子供を激しく怒るみたいに何度も何度もその武器を振り下ろした。

「……!!」

もう神父には悲鳴さえも上げられない。

カリフの振り回す家具がボロボロに崩壊していく。

「こ、これは……」
「な、なんという……」

これにはリアスたちも絶句していた。

カリフはただ強いだけでなく、行動に一つ一つに人間が持っているべき容赦というものがまるで無かった。

その悪魔よりも禍々しい姿に全員が震えあがっていた……

「げぱぁ!」

遂に神父の歯が何本か折れ、全身に青アザを作り、血まみれとなってその場に倒れ伏せた。

顔も美少年の影も形がのこらないほどに腫れあがっていた。

カリフは神父を見下ろしながら……

「〜〜♪」

鼻唄混じりに唾を吐いた。

いとも簡単に行われる目の前のえげつない行為に全員が言葉を失った。

誰も何も言えない中、カリフは一言呟いた。

「……もし、その鬼畜一家を狙ったり、そんな素振りを見せてみろ……こんなものでは済まさねえぞ」

侮蔑を込め、怒りをぶつけながら言い放った。

そんなカリフに神父は息絶え絶えに返した。

「……この……糞ガキ……」
「ふん!」

その瞬間、カリフは神父の顔に止めの踏みつけを放った。

何も言えぬまま、神父は頭部を床もろともに陥没させられた。

部屋の中心のクレーターの真ん中には倒れ伏す神父。

しかし、顔の骨格が既に別物となり果ててしまった。

そんな神父にカリフはというと……

「ふ……」

鼻で笑い、次にシスターを見据えた。

「ひっ!」

アーシアは涙を浮かべて震えると、カリフは機嫌の悪い、怒りを込めた声で言った。

「お前はオレたちと来てもらう……口答えすれば殺す、騒いでも殺す、拒否するのなら殺さずに生ける地獄を見せてやる……いいな?」
「……!」

学生帽子の隙間から凶悪な眼光を放ってアーシアに命令すると、アーシアは叫びたい衝動を口に手を押し当てる形で必死に殺して首を縦に振る。

それを確認したカリフは惨状に動けなくなっているリアスたちに向き合う。

「リアス……今すぐ帰って話を聞かせてもらう……」
「え、えぇ……でも何を……」

脅えを孕んだ質問にカリフは顔に青筋を浮かべて憤怒に表情を彩った。

「この街の堕天使のこと……全てだ!!」

この時のカリフの顔を忘れることはできない。

その表情は悪魔でさえも邪悪だと思うような……世界の“悪”を体現するかのような憤怒が表れていたのだから……

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