小説『合法トリップ。』
作者:雅倉ツムギ()

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僕は、何を思ってフリーさんがそんな解釈をするのか、さっぱりわからなかった。

だって、まず、タイトルからして「愛なんてクソッタレ」なのに。

聴いてみた印象としても、まったく女の影も感じさせない程の、ゴリゴリの男くさいミクスチャーロックの曲で、生で聴いてみても、その印象は変わらなかった。
硬派なサウンド、脈拍のようなビート、そして、デスボイスすれすれのボーカル。
性的要素なんて、どこにもないように感じる。

「フリーさん、どのへんが?」

思わずマヌケな声で聞いてしまう。
フリーさんは、わかってないなぁ、少年。と言いたげなやれやれ顔で、肩をすくめた。


『少年、昇華って言葉を知ってるか?』

「いや、なんか聞いたことはあるような響きだけど」

『まぁ、まずな。人ってのは、好きになるのには理由は要らねぇ。でも、嫌いになるのにはそれなりの強い理由が要るんだよ』

「はぁ…」

フリーさんの話出しは、いまいちピンとこなかった。
嫌いになることにも、さほど理由があると思ったことが、僕にはなかったからだ。

『よくわかんねぇな、って顔してんな。まず、素直に俺の言うことを聞いてみろ?そのうち納得すると思うからよ』

「…俺の見たヴィジョンにも関係することなの?それ」

『ああ。大いに関係アリアリだな』


随分と自信満々に語りだすフリーさん。こんなフリーさんを見るのは久しぶりだった。
彼がこういう話し方をするのは、僕に昔話を聞かせてくれるとき。
彼の語る昔話はいつでも面白くて、そしてちょっと切ない、遠い記憶だった。
フリーさんは、若々しく見えるけど、もうけっこうなおっさんベースなのだ。
人生の先輩として、素直に耳を傾けておこうと思った。もう少し、話を聞きたい。


「うん、じゃあ、フリーさんの思うところを聞かせてよ」

そう言うと、フリーさんはにかっと笑う。嬉しかったんだろう。

『じゃあ続きな。嫌いになるのに理由が要ると思う理由はな、人間は、そもそも意識してないことに目がいかない生き物だからだよ』

「…あー、それはわかる気がするかも…」

『視界に入る、触れる、舐める、聞く、嗅ぐ。いずれかで人間は、他のものからの情報を得るだろ。で、それが好みかどうかを瞬時に判断する。わかりやすいのが、食べ物だな。食べてみて、おいしかったら気に入るし、まずかったら嫌いになる。見た目でこれは食べれないと思ったものも嫌いになるし、現物がなくても、好きなものの匂いがしたら、それだけでヨダレがたれてくるだろ?』

「…」

なんだかわかりやすい例えだが、小難しい話になってきている気もする。
得てしておっさんの話というものはこういうものなのだが、つまり何が言いたいのか、僕はだんだんわけがわからなくなってきた。

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