その日、僕は、夢を見た。
どこかで、音が鳴っている。
がらんとした部屋で、クッションを抱きかかえながら、女がうずくまっている。
女は、何かから逃げてきたような怯えた目をして、震えている。
音がはっきりしてきた。あぁ、これは、僕も知っている曲だ。
でも、なんで?
なんで、この女は、この曲を聴いて、震えているんだろう?
一瞬の静寂。一秒にも満たない、無。
その瞬間、女は呟いた。
『早く、私を見つけて』
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その呟きを聞くか聞かないかのタイミングで、僕は目を覚ました。
そんなに暑い日でもないのに、背中が汗でじっとりしている。
枕もとの携帯を見る。時間はまだ、朝の5時半。
でも、眠れそうになかったので、ひとまずシャワーを浴びることにした。
少し熱めのお湯に当たりながら、僕はさっきの夢を思い出していた。
あの女は、間違いなく、昨日のライヴのヴィジョンだ。
そして、部屋で聞いていたのは、メルトローの「Love suck」。
きっと僕があんまりにも考えすぎていたから、夢にまで見てしまったんだろう。
でも…
僕の中で、あの曲は、あんなに辛くて切ないものではなかったはずだ。
ぎらぎらとたぎる、生きる力そのものを感じていたのだ。
でも、あの曲を聴きながら、確かに女は震えていたのだ。
「…」
しかし。
僕も少し、頭を冷やす必要があるのかもしれない。
これはヴィジョンじゃない。あくまでも、僕自身の見た夢なんだ。
いくら昨日から彼女のことが頭から離れないとはいえ、何でもそれに結びつけるのは、よくない。
蛇口を閉める。
これ以上当たってたら、上せてしまう。
寝間着から普段着に着替え、部屋に戻る。
こんな時間だというのに、枕もとの携帯が光っていた。風呂に行っている間に、メールか電話が来ていたみたいだ。
「誰だ…?」
差出人は、ジンだった。こんな朝早くから、何の用だろう。
とりあえず、メールを開いてみる。